ホーム > インフォメーション > 【1月定期演奏会】 清水 直子 インタビュー

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2014年1月15日(水)

人生を変えた“運命の出会い”

 華麗なる開拓者たち──2014年1月の東京オペラシティ定期のテーマは、私たちの想像をかきたててやまない。優美な物腰とは裏腹に、世界屈指のオーケストラで10年以上にわたって首席奏者を務めてきた清水直子。ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団に迎えられたのは、土屋邦雄や安永徹、町田琴和といった先駆者に続いてのことだった。
 「ベルリン・フィルに入ること自体が、チャレンジングでした。でも何かに向かっているときはいつも必死で、細かいことはあまり覚えていません。学生時代、みんなが練習していないときにも練習していたよね、と最近友人から言われて驚いたくらい。隠れて練習すればかっこいいのに、かっこつけられないほど必死だったんですね」
 幼い頃からヴァイオリンを習っていた彼女は、桐朋学園在学中、積極的に取り組んだ室内楽がきっかけでヴィオラに惹かれていった。

 「やっぱり、音が好きだったんだと思います。音域や響きが好き。たとえば、朝起きてすぐに楽器を手にとって、鳴らしてみたくなる。ヴァイオリンのときは感じなかった音への愛着が、自然に湧いていきました。本能的に親しみのもてるもの、共鳴するものがあったんではないかと思います。 岡田伸夫先生のもとでは、クラスのみんながほんとうに一所懸命だった。それに影響されて、自分もどんどんヴィオラの世界にはまり込んでいきました。でもその頃の私は、間違いや失敗を恐れてばかりいて、今ひとつ自分の殻から出られなかった。それが、ドイツに行ってまったく異なる環境に飛び込み、今井信子先生に出会って無我夢中で勉強するうちに、自分自身とともに演奏も変わっていった気がします」
 ドイツに渡った清水直子は、1997年にミュンヘン国際音楽コンクールヴィオラ部門で、ユーリ・バシュメット以来21年ぶりとなる第1位を獲得した。その後、リサイタルを行ったり、ソリストとしてオーケストラと共演。2001年に、首席ヴィオラ奏者としてベルリン・フィルに入団する。
 「岡田先生と今井先生、ふたりの師匠と運命的なタイミングで出会えたことは、私にとってなによりの幸運でした。何年かたってから、あれはほんとうに特別だったと思える出会いってありますよね。ベルリンで一緒に演奏している仲間たちや、音楽もプライベートもともにしている主人(ピアニストのオズガー・アイディン)もそうかもしれない」
 求めるからこそ、得られる出会いがある。インタビューで何度も「チャレンジング」という言葉を繰り返した清水の、活動は幅広い。
 「ソリスト、オーケストラ、室内楽……同じヴィオラを弾いていると言っても、それぞれ求められる役割は違います。ただ、一貫していることはあるかもしれません。以前、東京クヮルテットの池田さんが『あなたは音を合わせることが好きなんだね』と言ってくださったんです。それがとても嬉しかった。東京クヮルテットというすばらしいアンサンブルに、ひとつの新しい色として加わって、なにか別の宇宙が広がっていくことをイメージしていたので」

山あり谷ありを求めて

 音について、色のイメージで語る表現も印象的だった。1月定期の演目である、バルトークのヴィオラ協奏曲について尋ねた。
 「ヴィオラ奏者にとっては大きなレパートリーです。たとえば2楽章。何小節かごとに、光の角度によって色が変わる石のように、さまざまな音が出てくるんです。そのイメージをできるだけお伝えしたいです。色の移り変わり、その動きの美しさを表現できたらいいと思っています。耳をすませて、思い描いてほしい。
 今回、ペーター・バルトーク版を演奏するのもやはりチャレンジなんです。バルトークのヴィオラ協奏曲はもともと、音楽的にもテクニック的にも簡単ではありません。その上で息子ペーターは、父が亡くなる前に残した音符に忠実に、ここは弾きやすいようにこうしてやろうという情状酌量なしで(笑)書き起こしたのです。版についてはいろいろな意見が飛び交うところだとは思いますが、両方を演奏した経験から思うのは、音楽的な難しさはそのままにテクニック的により高度なものが求められるということ。なんでわざわざ、と思われるかもしれませんが、その山あり谷ありを求めていく気持ち―チャレンジしたいという気持ちが、自分のなかにあるのです」
 まさに開拓者。語り口は静かなのに、自ら困難を求め、道を開いていく姿に誰もが心を打たれるだろう。教える、という選択肢はないのだろうか。
 「演奏を聴いた方が一人でも、ヴィオラっていいね、と思ってくださればそれで十分です。たとえばもう20年以上つづくヴィオラスペースを創設された今井先生のあの情熱は、師事しているときから圧倒されるほどでした。今の私はまだ生徒さんを前にして、教えさせていただいている、という感じ。これからどうなるかはわかりませんが、地道にやっていくのが、私の性格に合っていると思います。
 どんなプロフェッショナルであっても、つきつめて、納得のいくように仕事するというのは大変なことです。私はヴィオラが好きだけれど、好きなだけではやっていけない。苦しいことも多い。でも、その過程を消化してひと山越えたとき『よかった、この楽器弾いてて』と思うのです。周囲に翻弄されずに、人生ゆっくりと踏みしめて歩いていきたいな、といつも思っています。偉業を成すとかではなく、ああしあわせだったな、と思って死にたい」
 最後に、東京フィルとの共演について思いを尋ねた。
 「前回共演させていただいたのは2005年1月、プレトニョフ氏のヴィオラ協奏曲でした。45分の大曲で、独奏パートはブリリアントなパッセージ満載で突っ走るといった感じの曲だったと記憶しています。今回のバルトークは、ほとんど室内楽的ともいえるオーケストラとのコミュニケーションを大切にしながら、バルトークがその人生最期に遺した深遠な世界を、東京フィルハーモニーの皆さんのお力をお借りして多彩な音色で表現していくことができればと思っています。9年ぶりに再びご一緒させていただけるのは大変光栄なことですし、どういった展開になるか、私自身とても楽しみにしています」


(インタビュア・プロフィール)
たかの・まい/文筆家。「乙女のクラシック」主宰。上智大学文学部史学科卒。モーツァルトとばらの花、プリンセスなものをこよなく愛する。著書に『フランス的クラシック生活』(PHP新書)、『乙女のクラシック』(新人物往来社)、『マンガと音楽の甘い関係』(太田出版)など。


第84回東京オペラシティ定期シリーズ

1月28日(火) 19:00開演
会場:東京オペラシティ コンサートホール

指揮 : アンドレア・バッティストーニ
ヴィオラ : 清水 直子 *

チャベス / 交響曲第2番「インディオ交響曲」
バルトーク /ヴィオラ協奏曲〔ペーター・バルトーク版〕*
ドヴォルザーク / 交響曲第9番 ホ短調「新世界より」 作品95

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