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2014年6月2日(月)

特別インタビュー | ベルトラン・ド・ビリー

 自分は将来、何になりたいのか──フランスの指揮者ベルトラン・ド・ビリーは4歳にして、それがはっきりわかっていたと言う──「理由はわかりませんが、私はオーケストラの指揮者になりたいと思っていたのです」。

 国際的な名声を博するド・ビリーは、今回、東京の新国立劇場制作のリヒャルト・シュトラウスの悲喜劇『アラベッラ』で東京フィルと共演し、また、ベートーヴェンの交響曲第3番『英雄』とR. シュトラウスの交響詩『英雄の生涯』を指揮する。


 ド・ビリーは、1965年生まれの生粋のパリ人。幼少時から音楽への傾向を示したが、彼は“音楽の神童”として育ってはいない。ド・ビリーは、“ノーマル”で“ハッピー”な幼少時を過ごしたと語る。本格的に音楽の道へ進んだのは14歳のときだ──「私は遅いスタートをきりました」。まわりに音楽を愛する者がおらず、唯一愛好者であった年配の親戚は、彼が生まれた日に亡くなった。ド・ビリーは自らの力で道を切り開かねばならなかった。
 彼はパリの少年聖歌隊に所属してバッハのカンタータを合唱し、また、オペラ座の舞台で公演するのを楽しんだ。「プラシド・ドミンゴがオテロ役で、マーガレット・プライスがデズデモーナを演じたとき、私は聖歌隊の1人でした」と、ド・ビリーは誇らしげに語る。その後、パリ高等音楽院で学び、ヴァイオリニスト兼ヴィオラ奏者としてパリのオーケストラでキャリアを積んだ。その間、独学で指揮の修業に励んだ。

  「オーケストラの一員として演奏するとき、私は弾きながら指揮者を見つめ、その指揮法を分析していました」とド・ビリーは語る。「マリノフスキー、ジュリーニ、アッバードのリハーサルへも出かけました。これら偉大な指揮者がどのようにオーケストラと向き合うか、どのようにコミュニケーションを図るのか、そして納得させるのかを学びました」。

  ド・ビリーによると、1990年にスイス人指揮者ミッシェル・コルボの代役を引き受け、パリに拠点を置くコンセール・コロンヌ(コロンヌ管弦楽団)によるヴェルディのレクイエムのリハーサルを指揮したのが、自身にとってのプロデビューだそうだ。「ヴェルディのレクイエムは聞いたこともありませんでした。でも、二度とないチャンスだと思いましたし、自分の力を試すために、『やってみろ』と自分に言いきかせました」と、ド・ビリーは語る。

 その後、すぐにコンセール・コロンヌの常任指揮者ピエール・デルヴォーの助手になり、1991年にはスペインのオビエド芸術祭でヴェルディの『椿姫』を指揮し、正式な指揮デビューを果たした。

  以後23年間、グノーの『ファウスト』やプッチーニの『トゥーランドット』を、ウィーン国立歌劇場やニューヨークのメトロポリタン歌劇場等、世界の一流歌劇場で指揮し、世界的な名オペラ指揮者としての地位を確立。また、2008年の、ロバート・ドーンヘルム制作、ネトレプコとヴィラゾン共演の映画『ラ・ボエーム』を指揮し、話題を呼んだ。

 ド・ビリーは1993年、フォルクスオーパーでトマの『ハムレット』を指揮しているとき、観客席からその指揮を見たプラシド・ドミンゴに認められ、米国歌劇場でフランスオペラ等の公演をすることになった。「ドミンゴは、偉大な役者、歌手、音楽家です。彼には何かオーラのようなものがあります。私の恩人です」。

  2002年、ド・ビリーはウィーン放送交響楽団の常任指揮者になる。「オペラと管弦楽曲公演のバランスをとりたかったのです」。常任指揮者として在籍中に、ベートーヴェン、ドビュッシー、シュトラウス等の作品を録音し絶賛された彼は、2007年および2008年の2度にわたり、同楽団を率いて日本公演を果たし、ベートーヴェンの『英雄』、ドビュッシーの交響詩『海』を披露した。

 その初の日本公演中、驚いたことがあるとド・ビリーは言う。「コンサートホールで、私が指揮台に立ち、観客に向かってお辞儀をするや否や、ホール全体が恐ろしいくらいに静まりかえりました。ヨーロッパでは、お喋りやら、くしゃみやら、咳やらが静まるまで待たなければならないのですが」。

 

  今回の日本訪問では、オーケストラのすばらしさに驚きと嬉しさを感じていると言う。「東京フィルハーモニーは、修養を積んだ音楽家が一体となって練習に打ち込むので、どんどんリハーサルが進みます」と、ド・ビリーは感嘆する。「オーケストラの質が高い。シュトラウスの『アラベッラ』のリハーサル初日で、もう、シュトラウス独特のウィーンのサウンドを奏でているのですから」。

 

  シュトラウスの自伝とも言うべき交響詩『英雄の生涯』は6章から構成され、その中で音楽評論家の風刺や、シュトラウスの安らかな死への願望が語られている。東京フィルとこの作品のリハーサルをする際には「室内楽的響きを奏で、英雄の人生の隅々までを克明に描きたい」と、ド・ビリーは熱意を込めて語る。この作品は、シュトラウスの初期30作品、例えば、『グントラム』『ドン・フアン』『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら』等の作品から音楽が引用されている。ド・ビリー曰く「『英雄の生涯』は見事な履歴書です」。

 シュトラウスの作品よりほぼ1世紀前、1804年に書かれた、ベートーヴェンの『英雄』は「画期的な交響曲です」と、ド・ビリーは言う。「長い交響曲です。でも、第1楽章の出だしは、序曲のないシュトラウスの『アラベッラ』のように敏速で、19世紀の人々にとっては聞き慣れない音を奏でます」。

 第2楽章は「信じられないことに、死を間近にした人間の、死に委ねる瞬間を捉えている」とド・ビリーは語る。「私の母は長く肺を患いました。しかし、死ぬ直前、自分の最期の瞬間を悟り、これ以上生きることはできないと言って、息をひきとりました」。シンプルな音楽形式の作品『英雄』で、ベートーヴェンは複雑で繊細な感情を伝える。そのシンプルさゆえに演奏は難しく、かつやりがいがあるのだと、ド・ビリーは語る。

 

  今回の公演を終えた後も休む暇はない。7月にロンドンのロイヤル・オペラ・ハウスでドニゼッティの『マリア・ストゥアルダ』を指揮するほか、ケルビーニの作品を録音し、今シーゾンからはスイスのローザンヌ室内管弦楽団の常任指揮者を務めるなど、続々と公演が続く予定だ。


動画インタビューはこちら

ベルトラン・ド・ビリーが語る『アラベッラ』『英雄の生涯』

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第86回東京オペラシティ定期シリーズ
【STUDENT DISCOUNT ¥1,000】

2014年6月2日(月) 19:00 開演(18:30 開場)
指揮:ベルトラン・ド・ビリー

ベートーヴェン / 交響曲第3番 変ホ長調『英雄』 作品55
R. シュトラウス / 交響詩『英雄の生涯』 作品40

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