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2014年7月14日(月)

楽団員が語る「私のワールド・ツアー2014」

マエストロ大植英次とともにアジア・欧米6か国をめぐった3月の「創立100周年記念ワールド・ツアー2014」。今月、再びマエストロ大植を迎える2つの定期公演は、いわばその凱旋公演でもあります。ワールド・ツアーはオーケストラに何をもたらしたのか。首席ファゴット奏者のチェ・ヨンジン、首席打楽器奏者の高野和彦、そしてコンサートマスターの三浦章宏にその手応えを聞きました。




すべては運命的な必然 | チェ・ヨンジン(首席ファゴット奏者)


©Jean Philippe Raibaud

 ワールド・ツアー6公演のうち4公演のメイン曲だった『春の祭典』は、ファゴット奏者冥利に尽きる作品といっても過言ではありません。とくに冒頭のアドリブ・ソロは、プレッシャーがかかりがちな部分ですが、初日から楽日まで妙なプレッシャーに縛られることなく、本能的に、その瞬間の気持ちに乗って、自然に演奏できたことは、ありがたいことでした。アメリカでの演奏は初めてだったので、自分の音楽がどう受け止められるかという緊張はありましたし、欧米とアジアでは湿度差が極端なのでリードの調整には苦労しましたが、すべてがぴたりとはまり、私自身楽しみながらお客様に喜んでいただけたことで、自分の中の平常心が一回り大きくなった気がしています。

 大植さんと初めて出会ったのは10年ほど前、留学先のハノーヴァーの音楽大学でした。定期演奏会の演奏曲が『春の祭典』に決まり、オーディションの結果、私が吹くことになったのですが、そのときの指揮者が大植さんだったのです。数年後に大阪でご一緒したとき、大植さんがハノーヴァーでの演奏を覚えていてくれて、私との“次の『春祭』”を楽しみにしてくれていることを知り、その後、2013年9月の文京シビック公演、そして、今回のワールド・ツアーで3回目の『春祭』共演となりました。



3/20 エスプラネード・コンサート・ホール(シンガポール)にて。
©Takao Hara

 このめぐり合わせは決して偶然ではないと思っています。10年前の共演がなければおそらくワールド・ツアーでの共演はなかっただろうということはもちろん、ヨーロッパから遠く離れた日本に住む、韓国人の私が、東京フィルのメンバーとして、世界共通の言葉であるクラシック音楽を世界に届けられた、ということに、とても深い意味を感じています。今回のツアーでは、初演からちょうど100年目の『春祭』を初演の地パリで演奏する機会にも恵まれましたが、このようなすばらしい機会に恵まれ、演奏家として成長できることに感謝の気持ちでいっぱいです。すばらしい同僚、そしてこの楽団を支えてくださる多くの方々に心から御礼を申し上げます。


 今月はシューマンとブラームス。ファゴットとしては表に立つ場面の少ない2作品ですが、『春祭』と対照的なこの作品を大植さんとどんなふうに楽しめるか、期待して臨みます。

見るべきは「その先」 | 高野 和彦(首席打楽器奏者)

 「ニューヨーク・タイムズに名前が出ていますよ! 私より有名人になってしまいましたね!」 そう言いながら大植さんがわざわざ来てくれたのは、ニューヨーク公演の3日後、マドリードでのゲネプロ直前でした。「名指しだなんて、打楽器ではヴィック・ファース以来じゃないですか」。辛口批評で知られるというその記者は、『春の祭典』の首席ファゴット奏者と、『木挽歌』のティンパニストの名前を訊いて帰ったとのこと、言われた直後はピンと来なかったものの、「日本のクラシック音楽」が、聴き手の関心を引き、評価されたことは嬉しいことでした。



©Mayumi Nashida

 最後の訪問地バンコクでの打ち上げの際、大植さんはこのツアーを「道場破り」に例えていましたが、演奏そのものが日本での公演と大きく違うかといえばそうではなく、むしろ日本でやっていることをそのまま披露してどこまで通用するかを問うのが、今回のあり方だったと思います。お客様の反応も本質的には日本と変わらない。ただ、日本よりストレートに返ってくることは確かで、「東京フィル」というオーケストラがどういう演奏をするのだろう、という興味津々な様子、期待感がどの会場にもありました。だからこそ、演奏直後の客席に「ブラボー!」やブーイングが渦巻く。「生で聴く」ことをいかに大事にしているかが迫って感じられました。



3/11、アリス・タリー・ホール(ニューヨーク)にて。
©Mayumi Nashida

 全員が寝食を共にしながら一連の公演を行うツアーには、日ごとにメンバーの集中力と一体感が増していく実感もあります。しかも今回は約2週間で6か国をめぐるハードスケジュール、誰もがある種の「覚悟」をしていたことが、いわゆる「中だるみ」を防ぎ、さらには帰国翌日からすぐにオペラ(しかも『ヴォツェック』)や演奏旅行があったおかげで、帰国後に体調を崩すこともなかった。いや、できなかった。


 我々の仕事はそんなふうに「続いていく」ものです。今見せられる最高の東京フィルを見せることができた、と自負できることは幸せです。けれども、見るべきは「その先」でしょう。我々の演奏を聴いて「日本」をどう思ってくれたのか、このツアーをきっかけに、1年に数回でもいい、アジアでも、アメリカでも、ヨーロッパでもいい、定期的な公演が開催できるようになれば、それこそが、このツアーの実りではないかと考 えています。

大植さんの「高さ」と「深さ」 | 三浦章宏(コンサートマスター)


©Jasadar Phoonphon

 「東京フィルの方ですか?」 ワールド・ツアーの初日となったニューヨーク公演の翌日、楽器を持って街を歩いていると、見知らぬ若い男性にそんな声をかけられました。振り返ると、「昨日、コンサートに行きましたが、すごくよかった!」と満面の笑み。もしかすると、全ツアーを通してこれが最も嬉しかったことかもしれません。今回のツアーでは、このニューヨークを皮切りに、全公演でスタンディング・オベーションを受けました。海外公演はこれまで何度も経験してきましたが、このような熱狂的反応はそうそうないのではないかと思います。そこには、少なからず大植さんの強い意志―クラシック音楽をエンターテインメントとしてお客様に提供することで感動と心躍る喜びを味わってもらおうという強い意志―が働いていたと思います。シンガポールでは大植さんが出てきただけで口笛が飛ぶほどで、それは、彼がシンガポールでこれまでいかに大きな楽しみをお客様に提供してきたのかを垣間見る瞬間でもあり、「欧米に比べてアジアのお客様は物静か」という先入観が打ち破られた瞬間でもありました。



3/20、エスプラネード・コンサート・ホール(シンガポール)にて。
©Takao Hara

 けれども、類稀なるエンターテインメント性の高さの一方に、もう一つの顔=研究者としての圧倒的な側面が大植さんにあることは、あまり知られていないのではないでしょうか。私がそれを初めて目の当たりにしたのは、ブラームスの交響曲第1番をとりあげた2011年の定期演奏会でしたが、大植さんは徹底的に作曲家の自筆譜に向き合い、ブラームスの真意がどこにあるか、それを表現するためにオーケストラにはどのような音が必要か、その音を引き出すにはどうすればよいか、研究に研究を重ねていました。


 「“ツアー”では長い時間をかけて、よりよい音を追求していくことができる。それがいいんだ」。大植さんはツアー中にそんな話をしてくれましたが、この言葉どおり彼は、回を重ねるごとに音楽を熟成させ、パリ管のヴァイオリニストが終演後に「羨ましい!」と言ってくれた『春の祭典』は、千秋楽となったシンガポールで最高潮に達したのです。このツアーの両輪を担っていたのは、そんな「高さ」と「深さ」でした。


 今月の定期演奏会は、そんな大植さんの真価をお客様と共有できる絶好の機会です。私自身、大植さんとの新しい一頁が開くことを楽しみにしています。


世界を沸かせた大植英次 & 東京フィル、凱旋! | 7月定期演奏会

7月17日[木]19:00開演(18:30開場)
東京オペラシティ コンサートホール
7月18日[金]19:00開演(18:30開場)
サントリーホール

指揮:大植 英次

シューマン / 交響曲第2番 ハ長調 作品61
ブラームス / 交響曲第2番 ニ長調 作品73

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