ホーム > インフォメーション > 7月定期演奏会 聴きどころ | 音楽で分かちあう、親密(インティメイト)な感情

インフォメーション

2015年5月22日(金)




尾高 忠明

 東京フィルハーモニー交響楽団7月の定期演奏会に登場するのは、桂冠指揮者・尾高忠明。馥郁たるヨーロッパの香りがただよう、初夏にぴったりのプログラムです。

 尾高忠明は、ロンドン交響楽団、ロンドン・フィル、BBC交響楽団、バーミンガム市交響楽団ほか、国内の主要オーケストラへの定期的な客演で安定した人気を誇るマエストロ。1947年に鎌倉で生まれ、桐朋学園大学で齊藤秀雄に師事。1971年にNHK交響楽団を指揮してデビューしました。翌年、オーストリア政府から奨学金を得て、ウィーン国立アカデミーに留学。オペラの研鑽も積みました。1987年のBBC交響楽団首席指揮者(現桂冠指揮者)就任後はイギリス音楽を数多く手がけ、エリザベス女王からの大英帝国勲章などを受章。この夏もBBCプロムスへの出演が決まっています。


 東京フィルとは、1974年から1991年までの長きにわたり常任指揮者としてタッグを組みました。1984年と1989年に行われた東京フィルのヨーロッパ公演を成功に導き、 91年4月には桂冠指揮者に就任。以後も定期演奏会や「午後のコンサート」、オペラ公演などを通して親密(インティメイト)な関係を続けている名パートナーなのです。


 そんな尾高が今シーズン取り上げるのは、モーツァルトとチャイコフスキー、そしてマーラー。まずオーチャード定期(12日)ではモーツァルトと、彼を敬愛したチャイコフスキーの最後の交響曲を披露します。幕開けは、モーツァルトの歌劇『後宮からの逃走』序曲。モーツァルトの出世作となったオペラの序曲で、当時ウィーンで流行していたエキゾチックなトルコ文化をふんだんに取り入れています。初演されたのは7月。コンサートの幕開けには、季節柄もぴったりです。


 つづいては、モーツァルト『2台のピアノのための協奏曲』。パリ在住のピアニスト児玉桃と、その姪であるカリン・K・ナガノによるめずらしい“叔母姪共演”です。児玉は1991年のミュンヘン国際コンクールで最高位、以後、バッハからメシアンまで幅広いレパートリーで活躍中です。その姪、カリンは1998年生まれ。児玉の姉で同じくピアニストの児玉麻里と、指揮者ケント・ナガノの娘として生まれたサラブレッドで、9歳で協奏曲デビュー。世界各地のオーケストラと共演を重ねています。世界的な音楽一家の雰囲気を味わうことのできる、これまた親密な空間になりそう!


 後半のチャイコフスキー「交響曲第6番 『悲愴』」は、この作曲家の最後のシンフォニー。タイトルに自ら『悲愴』と名づけているとおり、チャイコフスキーが人生について思索し、強い思い入れをこめて作曲した作品です。ほの暗いはじまりからドラマティックに展開する第1楽章、優雅だけれどスラヴ的な哀愁をもったワルツの第2楽章、力強く高揚する第3楽章、そして気高さと諦観が交互に揺れるクライマックスの第4楽章。19世紀ロシアを生きたロマン派の天才がその胸の内を明かす親密な音楽に、ゆったりと身をゆだねましょう。



アルマ・マーラー

 オペラシティ定期(16日)とサントリー定期(17日)で演奏されるのは、マーラー『交響曲第9番』。これもまた、作曲家最後のシンフォニーです。こちらには特別なタイトルはありませんが、聴いた人の胸にはきっと、「別れ」や「愛と死」といったイメージがよぎるはず。この曲が作曲された1909年の夏、マーラーの愛妻アルマは病気のため休暇先のアルト・シュルーダーバッハに同行しませんでした。その孤独からか、あるいは訳あってか、自筆譜にはアルマへの呼びかけの言葉が書き込まれているのです。この時期、マーラーとアルマの関係には亀裂が生じはじめたとされるので、もしかしたら、その個人的な感情も音楽に影響を与えたのかもしれません。

 指揮者とオーケストラ、2人のピアニスト、そして100年前の作曲家と私たち。それぞれの親密な関係性や感情を分かちあう7月の定期演奏会。美しい音楽に身をゆだねながら、あなたの人生や親しい人びとのことを思索してみる――そんな初夏のひとときはいかがでしょうか?




高野麻衣(たかの・まい)


コラムニスト。上智大学文学部卒(西洋文化史)。2014年の東京フィル100周年記念ワールドツアーに同行取材するなど、幅広く執筆・講演活動をおこなっている。著書に『フランス的クラシック生活』(PHP新書)など。ネットラジオ『OTTAVA Domenica』(毎週日曜午後1時~ http://www.ottava.jp/)レギュラー出演中。


ホームページ「Salonette」www.salonette.net




第866回オーチャード定期演奏会

2015年7月12日(日)15:00開演(14:30開場)
Bunkamura オーチャードホール


指揮:尾高 忠明
ピアノ:児玉 桃&カリン・K・ナガノ

モーツァルト/歌劇『後宮からの逃走』序曲
モーツァルト/2台のピアノのための協奏曲*
チャイコフスキー/交響曲第6番『悲愴』

第95回東京オペラシティ定期シリーズ

2015年7月16日(木)19:00開演(18:30開場)
東京オペラシティ コンサートホール

第867回サントリー定期シリーズ

2015年7月17日(金)19:00開演(18:30開場)
サントリーホール 大ホール


指揮:尾高 忠明

マーラー/交響曲第9番 ニ長調



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