ホーム > インフォメーション > 2月定期演奏会 聴きどころ | 弾き振りから深く鮮やかな棒まで炸裂するチョン・ミョンフン・ワールド

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2016年2月8日(月)



東京フィル桂冠名誉指揮者チョン・ミョンフン
©ヴィヴァーチェ

十八番のマーラーを円熟の指揮で

 2001年にスペシャル・アーティスティック・アドバイザーに就任して以来(現在は桂冠名誉指揮者)、東京フィルと数々の曲を手がけてきたチョン・ミョンフン。その当初から、すでに巨匠と呼べる存在であったけれど、加えてその後、フランス国立放送フィル、ロンドン交響楽団、チェコ・フィル、ソウル・フィル、フェニーチェ歌劇場な どを率いての来日を重ね、日本のクラシック音楽シーンをリードするなかで、有無を言わさぬ大指揮者の貫禄が備わり、一流の素材が一流の道を歩んだときだけに到達できる円熟の極みに達している。


 マエストロ・チョンの十八番は数多い。 日本でもビゼー『カルメン』やヴェルディ 『オテッロ』、ワーグナー『トリスタンとイゾルデ』等々を披露してきたオペラもそのひとつだが、得意中の得意と言うべきはマーラーの交響曲である。この20年間、チョンは日本で行ったコンサートの実に4 割でマーラーを取り上げており、第7番と第8番を除くすべての交響曲を演奏しているが、それらのうちで東京フィルと協演していないものはない。マエストロ・チョンと東京フィルは、いわばマーラーの演奏を通じてきずなを深め、成熟への道を歩んできたと言っても過言ではない。


 そして、来る2月25日、26日、28日に チョンは、東京フィルとの協演は13年ぶりとなる交響曲第5番を披露する。



“繊細に、かつダイナミックに”
©上野隆文

 マエストロ・チョンの手になるマーラーの特徴は、あたかもミケランジェロが白い大理石のかたまりを前にして、これから彫り上げるダヴィデ像を明確に思い描いたように、作品の全体像を大づかみし、そのうえで繊細に、かつダイナミックに音を彫琢していくところにある。指揮台に立つチョンの身ぶりは決して大きくないが、小さな動きが不思議なほどダイナミックな音を導き出す。そして、動的な部分はアッチェレランドをかけて脇目も振らぬかのように突進し、そののちに急ブレーキをかけるのだが、その振幅の大きさには常に必然性が感じられる。こうした表現は、オペラで実績があるチョンと、オペラが得意な東京フィルの組み合わせで、いっそう懐の深さを感じさせるに違いない。


 このたびの交響曲第5番では、第1楽章の葬送行進曲が、聴く人の胸がうずくまでに痛切に歌われるのではないか。第2楽章はチョンらしい起伏がつけられたうえに、円熟の棒によって内側に深く掘り下げられるのではないか。第3楽章では闊達であると同時に大人の優雅さが表現されるのではないか。そして、第4楽章のアダージェットでは、チョンのキャリアと精神の軌跡が、その叙情世界に深い慈愛をも刻み込むのではないか……と、まことに興味が尽きない。


華麗なカデンツァを! モーツァルト ピアノ協奏曲第23番

 一方、モーツァルトは、2007年にオペラセリアの『イドメネオ』を、10年に交響曲第39番、40番、41番の連続演奏会を、ともに東京フィルと行ったのを除くと、 マエストロ・チョンは意外なことに、日本であまり取り上げていない。例外がピアノ協奏曲第23番である。東京フィルの定期 演奏会で2007年には河村尚子をソリストに、2010年にはキム・ソヌクをソリストに迎えて演奏しているが、今回はチョンの弾き振りでこれが聴けるのである。周知のように、チョンは1974年、21歳のときにチャイコフスキー国際コンクールのピアノ部門に出場して、第2位に入賞。以来、ピアニストとしても輝かしいキャリアを築いている。



聴衆の歓声と拍手に笑顔で応えるマエストロ
(2015年5月長岡市立劇場)©hiro.inoue

 実は、すでに2015年5月、軽井沢市、長岡市、金沢市において、東京フィルとの協演でピアノ協奏曲第23番を弾き振りしているのだが、このときはマエストロの調子が万全ではなく、軽井沢では第1楽章の途中で演奏が中断されるハプニングもあった。


 それでも素早い“応急措置”で演奏を全うできたのは、チョンと東京フィルの間に長年積み重ねられてきた揺るぎない関係があればこそ、だろう。また、軽井沢でアンコールとして弾いたベートーヴェン 『エリーゼのために』(バガテル イ短調 WoO59)は絶品であった。それだけに、 モーツァルト後期のピアノ協奏曲のなかでもとりわけ美しいこの曲を、華麗なカデンツァを鮮やかに駆けぬけながら、流麗に、繊細に表現してくれるのではないかと、期待が自ずと高まるのである。


※【謹告】モーツァルト「ピアノ協奏曲第23番」のピアニスト変更のお知らせ




香原斗志(かはら・とし)


音楽ジャーナリスト、オペラ評論家。オペラなど声楽作品のほかクラシック音楽の取材および評論活動をし、音楽専門誌や公演プログラムなどに原稿を執筆。歌唱表現の分析と評価に定評がある。著書に『イタリアを旅する会話』(三修社)、共著に『イタリア文化事典』(丸善出版)。毎日新聞のクラシック音楽情報サイト「クラシックナビ」に「イタリア・オペラの楽しみ」を連載中。



指揮:チョン・ミョンフン ピアノ:小林愛実 2月定期演奏会

指揮:チョン・ミョンフン
ピアノ:小林愛実
*

モーツァルト/ピアノ協奏曲第23番*
マーラー/交響曲第5番


2月25日(木)19:00開演(18:30開場)
東京オペラシティ コンサートホール
2月26日(金)19:00開演(18:30開場)
サントリーホール 大ホール
2月28日(日)15:00開演(14:30開場)
Bunkamura オーチャードホール



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