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【2018年11月定期演奏会】アンドレア・バッティストーニ『メフィストーフェレ』を語る(1)

東京フィルの首席指揮者になってほぼちょうど2年目となる今年11月に、ボーイトの歌劇『メフィストーフェレ』を演奏会形式で上演する首席指揮者バッティストーニ。さらに来年2019年1月には、2017年に取り上げた『ジュリエッタとロメオ』に続き、ザンドナーイの『白雪姫』を演奏する。

取材・文:松本 學/ 通訳:井内美香

イタリアでは決してマイナーではなかった『メフィストーフェレ』


インタビューは2018年6月「休日の午後のコンサート」
終演後に行われました (C)上野隆文

――まずは『メフィストーフェレ』からお話を伺います。バッティストーニさんはこの作品を指揮するのはこの東京フィル公演が初めてだそうですが、なぜ比較的珍しいこの作品を選んだのでしょう?



「『メフィストーフェレ』が大好きなオペラだというのが理由のひとつです。父がこのオペラのファンで、子供の時にビデオを観せてくれたのが出会いでした」




ボーイト作曲オペラ『メフィストーフェレ』
リコルディ社によるスコア表紙
――その時のビデオは誰の演奏だったのですか?

「フィレンツェ歌劇場のプロダクションで、テレビ放映したもののようでした。『メフィストーフェレ』はイタリアでは、少なくとも1970年代までは大変人気のある作品でした。例えば野外オペラのアレーナ・ディ・ヴェローナは、イタリアの中でも人気演目を上演するタイプの劇場だと思いますが、連続ではないにせよ5期ほど採り上げています。つまり公演数としては結構な数をやっているんです。そういうわけで、過去に上演はとても多くて人気があったのですが、次第にレパートリーから外れていき、70年代から80年代くらいを境にほとんど上演されなくなってしまいました」

――過去の公演履歴を調べたところ、アレーナ・ディ・ヴェローナでは1920、1931、1937、1950、1954、1964、1979年の7年にわたって上演。最近ではミュンヘン(バイエルン国立歌劇場)で2015、2018年、その他では、例えばウィーン国立歌劇場ではリッカルド・ムーティのおかげで1997年から2001年まで続いたものの、パリ・オペラ座では1989年だけ、ミラノ・スカラ座も1995年のムーティを除けば1964年まで。メトロポリタン歌劇場(MET)では今年再演されますがその直近は2000年までで終わっています。
 あと、テアトロ・コロン(1983、1999)やリセウ歌劇場(1987)、ジェノヴァ(1987、演出はケン・ラッセル)やジュネーヴチューリヒ(共に1988)、サンフランシスコ(1989、1994)、シカゴ・リリック(1991、1998)、タリン(2002)、フランクフルトアムステルダム(共に2004)、リエージュ(2007)など点々と上演されてはいますが、それでも現代の人気作とは言い難い。なぜこのような状況になったのでしょうか。



アレーナ・ディ・ヴェローナ (C)Foto Ennevi
「ひとつ、大きな理由は、この頃の音楽学者や音楽評論家にとても悪しく言われたということがあると思います。折衷主義的で、とても多彩な音色を使うこういう作品はーーボーイトの『メフィストーフェレ』だけではなくてヴェリズモ・オペラもそうなのですがーー一流ではなく二流の作品だと。趣味が悪い、安易にエモーショナルなものに訴える……などと批判される傾向が出てきて、それを受けて上演も次第に少なくなっていったようです。反対にこの時代に台頭してきたのが、ヴェルディや、特にロッシーニです。彼らの再発見、つまりより古典的な作風のオペラ、より抑えた、より抽象的な音楽を扱ったオペラの評価がこの時期高くなってきて今日にいたるということですね。ただ、近年再びこの逆の兆しを見せ、大掛かりな『メフィストーフェレ』のような音楽もまた演奏されるようになってきている、と私は思っています」

――『メフィストーフェレ』と同時期に人気を失っていった作品、批評家に批判された作品にはどのようなものがあるのでしょう?

「特に言えるのはザンドナーイの『フランチェスカ・ダ・リミニ』や『ジュリエッタとロメオ』、もしくはレスピーギの『炎(ラ・フィアンマ)』『沈める鐘』など。マスカーニの多くのオペラもそうだと思います。ヴォルフ=フェラーリの『スザンナの秘密』や『マドンナの宝石』なども素晴らしいオペラです。上演されないのは本当に残念なことで、まさにこういう作曲家たちとオペラは再出発するべきだと思うのですよ」

――ボーイトはどちらかといえば“反逆派”だと思うのですが、ザンドナーイはむしろ大衆的なメロドラマにオペラを立ち返らせようとしたタイプでは?

アッリーゴ・ボーイトはたった26歳で『メフィストーフェレ』の台本・作曲・初演を手掛けた

「もちろん、その2人の作曲家がまったく違うのは確かです。活躍した時期も違います。ただ両者にはオペラの捉え方に似通った部分があるんです。
 まず、ボーイトの『メフィストーフェレ』とザンドナーイの『フランチェスカ・ダ・リミニ』を比べてみると、一方はゲーテで、もう一方はダヌンツィオと、双方とも偉大な詩人の作品を原作としています
 それから合唱。『フランチェスカ・ダ・リミニ』では例えば第2幕に素晴らしい合唱がありますし、『メフィストーフェレ』にもあります。例えばプロローグ、それから第2幕サバト(魔女たちの夜会)の場面、それにフィナーレなど。そういう、偉大な詩人の素晴らしい詩を使って観客をあっと驚かすような非常に密度の濃い、そして興味深い作品を作っていくという意味で大きな共通点があると思います。
 それから、2人ともフランスとドイツの音楽からとても影響を受けているところも共通しています。ザンドナーイは器楽法の面で“イタリアのリヒャルト・シュトラウス”といえるのではないでしょうか。ドビュッシーからはハーモニーなどをかなり学んでいますし、ドイツの音楽という点では『サロメ』から影響を受けていると思うのです。ボーイトの方も、やはりドイツの音楽にはとても影響を受けていますし、フランスのグランド・オペラ、特にベルリオーズとマイアベーアには大きな影響を受けています」


ボーイトにはベルリオーズの影響も?
――確かに『メフィストーフェレ』のサバトのシーンはオーケストレーションも曲想も本当にベルリオーズにそっくりだと思います。

「そうですね。ベルリオーズの『幻想交響曲』にあるようなフーガも使っていますよね」

(Part 2 へ続く)



(インタビュア・プロフィール)
まつもと・まなぶ(音楽評論家)/音楽、バレエ/ダンス、映画の批評。『レコード芸術』『音楽の友』などの雑誌や、CD・DVD解説、演奏会プログラムへの執筆のほか、多くの海外取材、各種コンサートの企画・サポートも務める。共著に『地球音楽ライブラリー ヘルベルト・フォン・カラヤン』、『知ってるようで知らない バッハおもしろ雑学事典』など。


【11月定期演奏会】
いにしえの悪魔が現代に蘇る――
バッティストーニの『メフィストーフェレ』


第912回サントリー定期シリーズ 【完売間近】

2018年11月16日[金] 19:00開演(18:30開場)
サントリーホール

第913回オーチャード定期演奏会

2018年11月18日[日] 15:00開演(14:30開場)
Bunkamura オーチャードホール

指揮:アンドレア・バッティストーニ
メフィストーフェレ (バス): マルコ・スポッティ
ファウスト (テノール): ジャンルーカ・テッラノーヴァ
マルゲリータ/エレーナ (ソプラノ): マリア・テレーザ・レーヴァ
マルタ/パンターリス(メゾ・ソプラノ):清水華澄
ヴァグネル/ネレーオ(テノール):与儀 巧
合唱:新国立劇場合唱団
児童合唱:世田谷ジュニア合唱団  他
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団


曲目

オペラ演奏会形式
ボーイト/歌劇『メフィストーフェレ』



助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術創造活動活性化事業)、独立行政法人 日本芸術文化振興会、公益財団法人 アフィニス文化財団、公益財団法人 花王 芸術・科学財団(11/16)、公益財団法人 ローム ミュージック ファンデーション(11/16)

主催:公益財団法人 東京フィルハーモニー交響楽団

公演カレンダー

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