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【2018年11月定期演奏会】アンドレア・バッティストーニ『メフィストーフェレ』を語る(4)


取材・文:松本 學/ 通訳:井内美香

ずばり、作品の魅力は?


2015年のオペラ演奏会形式プッチーニ『トゥーランドット』より (C)上野隆文

――作品について具体的にお尋ねします。本作ではオーケストラ、そして歌手にとって、どこが特に困難なのでしょうか。そして「聴きどころ」はどこにあるのでしょう。


ゲーテの戯曲「ファウスト」の挿絵(ユリアス・ニーズレによる)
「オーケストラに関していうと、それほど複雑で難しいところのある書法ということはないですね。ただ初めてで知らない作品なので、それを自分のものとして表現してゆくのには、少し時間がかかるかなと、それくらいです。
 歌手に関していうと、主役の3名がとても難しい役です。声楽的に難しいだけでなく、この3つの役にはカリスマティックな表現力が要求される。中でも特にメフィストーフェレを歌うバス歌手が一番大変です。なにせ、バスが主役というオペラはとても数が少ないですからね。ファウスト役のテノールはとてもリリックなものが中心になります。ただ、アリア的な部分はとてもきちっとした歌でエレガントに歌わなければいけませんが、その一方でオーケストラにとても厚みがありますので、ドラマティックな表現も必要となります。ソプラノ歌手に関しては、慣習としてですが、2つのペルソナ/役をひとりの歌手が歌わなければいけないという難しさがあります。マルゲリータ役と後から出てくるヘレナ(エレナ)役。それほど極端に違うタイプの声を歌い分けるわけではないのですが、やはりニュアンスが異なります。まずマルゲリータ、特に牢屋の中の場面ではきわめてドラマティックな表現が必要とされる。そういう役を歌った後、休憩時間の後にはヘレナ(エレナ)役になって、すこぶる軽やかで雰囲気のある古典的な美を表現しなければいけません」


アッリーゴ・ボーイトはたった26歳で『メフィストーフェレ』の台本・作曲・初演を手掛けた

ボーイトの天才的な冴えが見えるプロローグ。

――作品がとてもドラマティックな部分もあるし、あるいはエピローグやプロローグではとても聖歌的な、静謐なムードがある。そういうところはバッティストーニさんのメリハリのある音楽造りにとても合っていると思います。ご自身はどのシーンがお好きですか?

「好きなところはたくさんあるのですが、まずはやはりプロローグ。観客にも最も知られている部分だと思うのですが、まさに非常に天才的な冴えを見せているところだと思うのですね。ここはシンフォニーの形をとっていて、4つの楽章のように分かれているのですが……」

――スケルツォに間奏曲とか……。

「そうです。その他では例えば第2幕後半の「サバトの夜の場面」ですね。魔女の宴の合唱が非常に重要になってくる場面ですとか。それから第2部の第4幕に、“古典サバト(Sabba classico)”というヘレナ(エレナ)のいるギリシャの場面があります。その前にはとてもドラマティックな内容があるので、そこで少しテンションが下がる危険性もあるのですが、でも実はそうではなく、むしろ非常に色彩豊かで、合唱やオーケストラが色々なニュアンスを出せる箇所なのだとみなしています。ですので、そこでどれだけその魅力を引き出せるかというのが、自分にとっての挑戦だと思っています」

『メフィストーフェレ』を歌う歌手たち

――共演するソリストについておうかがいします。


マリア・テレーザ・レーヴァ(ソプラノ、マルゲリータ/エレーナ役)
マリア・テレーザ・レーヴァさんは2015年にトリノで『ボエーム』を共演していますが、来日は今度が初めてだそうですね。

「マリア・テレーザ・レーヴァは、彼女の世代の中でも最も興味深い、若々しい声を持ったソプラノのひとりです。レナータ・テバルディやアプリーレ・ミッロのような20世紀の古い声を思い起こさせる素晴らしい色彩を持ったリリック・ソプラノです」。




マルコ・スポッティ(バス、メフィストーフェレ役)
――マルコ・スポッティさんは2009年にスカラ座の引越し公演で来日されていました。2016年にはルイジ&METの『ウィリアム・テル』、昨年2017年にはジュネーヴでジョナサン・ノット『セビーリャの理髪師』などに出ています。バッティストーニさんとは2015年の『アイーダ』でご一緒でした。
「マルコ・スポッティは、最高級で表現力豊かなバスのひとりです。高貴であり、その一方で激しい彼のキャラクターはメフィスト役に完璧だと確信しています」。




ジャンルーカ・テッラノーヴァ(テノール、ファウスト役)
――2017年に『トロヴァトーレ』で共演していたジャンルーカ・テッラノーヴァさんは、2016年新国立劇場『ボエーム』で東京フィルとも共演済みです。
「ジャンルーカ・テッラノーヴァは特別な歌手です。彼は現代の最も重要なテノールで、世界中のいくつもの主要オペラハウスで歌っています。彼の声は典型的なイタリアンで、太陽に満ち、クリアなハイトーンと素晴らしいパワーを持っています。ファウスト役を果たすことができる最高の歌手ですよ」


(Part 5 へ続く)



(インタビュア・プロフィール)
まつもと・まなぶ(音楽評論家)/音楽、バレエ/ダンス、映画の批評。『レコード芸術』『音楽の友』などの雑誌や、CD・DVD解説、演奏会プログラムへの執筆のほか、多くの海外取材、各種コンサートの企画・サポートも務める。共著に『地球音楽ライブラリー ヘルベルト・フォン・カラヤン』、『知ってるようで知らない バッハおもしろ雑学事典』など。

【11月定期演奏会】
いにしえの悪魔が現代に蘇る――
バッティストーニの『メフィストーフェレ』


完売

11月16日[金]19:00開演
サントリーホール


チケットを購入

11月18日[日]15:00開演
Bunkamura オーチャードホール


指揮:アンドレア・バッティストーニ
メフィストーフェレ (バス): マルコ・スポッティ
ファウスト (テノール): アントネッロ・パロンビ
マルゲリータ/エレーナ (ソプラノ): マリア・テレ-ザ・レーヴァ
マルタ/パンターリス(メゾ・ソプラノ):清水華澄
ヴァグネル/ネレーオ(テノール):与儀 巧
合唱:新国立劇場合唱団
児童合唱:世田谷ジュニア合唱団  他
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

【謹告】出演者変更のお知らせ


曲目

オペラ演奏会形式
ボーイト/歌劇『メフィストーフェレ』



助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術創造活動活性化事業)、独立行政法人 日本芸術文化振興会、公益財団法人 アフィニス文化財団、公益財団法人 花王 芸術・科学財団(11/16)、公益財団法人 ローム ミュージック ファンデーション(11/16)

主催:公益財団法人 東京フィルハーモニー交響楽団

公演カレンダー

東京フィルWEBチケットサービス

お電話でのチケットお申し込みは「03-5353-9522」営業時間:10:00~18:00 定休日:土・日・祝