ホーム > インフォメーション > プレトニョフ、『ペール・ギュント』の魅力を語る | 2016年4月定期演奏会 聴きどころ

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2016年3月7日(月)



――グリーグの『ペール・ギュント』は、イプセンの戯曲の脈略の中で味わってこそ真価を発揮すると筆者は常々思っている。何しろ戯曲そのものが大変な傑作なのだ。そう告げるとプレトニョフは「まったくその通り!」と頷いた。



ミハイル・プレトニョフ/楽屋にて
 

  「イプセンが描いているのはまさに人生そのものです。生きることの意味を問いかけている。若い頃、母の死、その後のこと。誰もがプロジェクターを見るように自分の人生を振り返ることでしょう。そこにグリーグはただ美しいだけではない、非常に深い音楽をつけた。ペールが母のオーセを看取る場面やソールヴェイ(ソルヴェイグ)の「子守唄」などは本当に感動的です。いろいろ経験して故郷に戻ったペールに謎のボタン売りがつきまとい、お前は本当に自分の人生を生き抜いたのかと問いかけます。そうでなければもうすぐ死ぬよと。ボタンは人の魂の象徴です。ペールは少しだけ時間をくださいと懇願する。そして彼の帰りを待ち続けたソールヴェイの腕に抱かれて息を引き取る。そこには哲学的で深淵な意味がありますが、慈愛そのもののソールヴェイも含めて、日本の皆さまはよくお分かりになるのではないでしょうか。精神的な事柄を良く理解されているから」。



――プレトニョフはグリーグのすべての音楽が大好きだという。


 「その理由はまず、私の祖国ロシアと同じ北の気質ですね。そしてその音楽世界はきわめて多様であると同時にノルウェーの民族音楽の魅力に溢れている。グリーグはノルウェーのことしか書かないと非難されたこともありましたが、ナショナルに徹することがインターナショナルに繋がるという信念を貫き通した。


ノルウェー最大のフィヨルド “ソグネ・フィヨルド”
 
 実はヘリコプターの操縦が趣味なんです。それで自分で操縦してモスクワからノルウェーのベルゲンまで飛びました。空から森や湖、フィヨルドなどを見下ろしながらの旅は楽しいですよ。人が一度も入ったことのないような原生林が至る所にあり、そんなところには山の精のトロルたちがいるかもしれない。フライトに疲れてもうこれ以上飛べないと思ったのでこうした湖の一つに降りて湖水に手を浸して顔を洗ったのですが、それが不思議な水なんです。強烈なエネルギーが伝わってきて疲れが一気に吹き飛んだ。周囲には人の気配がなく、樹々や空にとてつもないエネルギーが満ちていました。東洋医学でいう「気」ですね。とても不思議な体験でした。グリーグが自分で建てた家にも行きました。山の麓でやはり近くに湖があり、結婚式のシーンの音楽はこんなところで書いたのかもしれないと思いました。こうした経験が演奏上のインスピレーションを与えてくれました。『ペール・ギュント』は本当に素晴らしい作品です。どうぞご期待ださい」。




グリーグの生家(ノルウェーのトロルハウゲン=“トロールの丘”)


 最後に東京フィルの印象を尋ねると、オーケストラの団員だけでなく運営の方も含めて、一つの家族のようで、とても気持ちよく仕事ができると言う。「音楽的にはとても柔軟性に富んでいます。前回の『不死身のカッシェイ』のように、私とはタネーエフやカバレフスキー、シェチェドリンなどロシアの珍しい作品を演奏することが多いのですが、よくついてきてくれる。今度の『ペール・ギュント』もとても楽しみです」とのことだった。




那須田 務(なすだ・つとむ)


音楽評論家。ケルン大学音楽学科修士修了。『レコード芸術』『音楽の友』のレギュラー執筆者。訳書にアーノンクール著『音楽は対話である』、著書『音楽ってすばらしい』『名曲名盤バッハ』、監修著作『KAWADE夢ムック、バッハ』の他共著書多数。現在斎藤秀雄メモリアル基金賞任期制選考委員。



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2016年4月定期演奏会 公演詳細

第878回オーチャード定期演奏会

2016年4月24日(日) 15:00 開演(14:30 開場)
Bunkamura オーチャードホール

第879回サントリー定期シリーズ

2016年4月25日(月) 19:00 開演(18:30 開場)
サントリーホール 大ホール

第101回東京オペラシティ定期シリーズ

2016年4月27日(水) 19:00 開演(18:30 開場)
東京オペラシティ コンサートホール


指揮:ミハイル・プレトニョフ
語り:石丸 幹二
ソールヴェイ(ソプラノ):ベリト・ゾルセット
ペール・ギュント(バリトン):大久保 光哉
アニトラ(メゾ・ソプラノ):富岡 明子
合唱:新国立劇場合唱団

グリーグ/劇付随音楽『ペール・ギュント』全曲(字幕・語り付き)


公演カレンダー

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