ホーム > インフォメーション > バッティストーニが語った「充実の9月」

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2017年8月14日(月)

深化を続けるマエストロ・バッティストーニの季節


アンドレア・バッティストーニ指揮
第72回休日の午後のコンサートより ©上野隆文

 7月に三十路を迎えた東京フィルの首席指揮者、アンドレア・バッティストーニには、成長のサイクルができているようだ。春に東京で交響曲を指揮し、夏にヨーロッパで数々のオペラを経験し、そうした集積をへて奥行きを増した音楽を秋に披露する。
 深化しつづける若きマエストロが紡ぐ生命力あふれる音楽を端的に味わえる場が、「休日の午後のコンサート」だ。9月3日のそれは「ヴェローナより愛をこめて2」と題されている。北イタリアのヴェローナはバッティストーニの生まれ故郷だが、選曲にあたって、すでに彼の“第二の故郷”となりつつある東京での経験も生かされている。
 「日本の懐石料理は異なる種々の小皿が供され、いろいろな味わいを同時に楽しめます。このコンサートで演奏する曲も、ヴェローナが舞台の『ロミオとジュリエット』をテーマに据えているものの、それぞれ非常に異なり、強い曲もあれば伝統的な曲もある。それらをまとめて聴くのは、さまざまな色の石でモザイクを描くのにも似て、とても興味深いと思います」


「休日の午後のコンサート」で魅せる『ロメオとジュリエット』、“生命の飛躍”


哲学者 アンリ・ベルグソン
(1859年 - 1941年)

 バッティストーニが語る“小皿”のひとつが、ジェノヴァのカルロ・フェリーチェ劇場から委託されて自身が作曲し、昨年初演した『エラン・ヴィタール』だ。『ロメオとジュリエット』と無縁だが、マエストロがヴェローナの地で、まさに「愛をこめて」書いた曲である。
 「フランスの哲学者、アンリ・ベルグソンの哲学に触発されたものです。エラン・ヴィタールとは“生命の飛躍”。生命の進化を推し進めて宇宙にまで広がる力のことで、私はこの哲学的概念を音楽に結びつけました。最初はたったひとつの音から始まり、徐々にオーケストラがハーモニーを奏で、音楽が生まれはじめます。音楽の歴史自体、さまざまな様式が折り重なっているように、この曲のなかでも、さまざまなスタイルが加速度的に織り交ぜられて、最後に聴き手はよろこびに包まれると思います。概念は哲学的ですが、演奏すればとてもおもしろい曲で、日本のみなさんは楽しんでくれるはずだと期待しています」


『オテロ』では悲劇のエネルギーを

 この日の曲目にある「シンフォニック・ダンス」を作曲したレナード・バーンスタインも、マエストロには特別な音楽家だ。
 「20世紀における最も完璧な音楽家だと思います。さまざまなスタイルを組み合わせ、伝達しやすい音楽を書いた。解釈者としてもすぐれ、たとえばショスタコーヴィチやプロコフィエフの音楽に内在する力を引き出して、現代の趣味と結びつけた功績があります。いちばん好きなのは映画『波止場』の音楽ですが、「シンフォニック・ダンス」も何度も指揮しています」
 そのほか、ベッリーニやベルリオーズらの曲も並ぶ。「ベルリオーズは革新的で、大好きです。ベッリーニはオーケストラの書法がイタリア的な、イタリア・オペラの天才。じつは私が本能的に惹きつけられるタイプの作曲家ではないのですが、近く『ノルマ』を指揮すべく勉強をはじめたところで、今回の『カプレーティ家とモンテッキ家』にも向き合い、その価値への理解を深めたいと思っているんです」


Bunkamura ヴェルディ:オペラ『オテロ』
公演イメージビジュアル
 さて、9月8日、10日にはBunkamuraでの演奏会形式によるヴェルディ『オテロ』も控える。すでに『オテロ』についてさまざまに語っているバッティストーニだが、あらためて、マエストロの『オテロ』はなにが違うかと尋ねると、 「私はこの『オテロ』で人間の悲劇を描きたい。潜在的に愚かな人間がおちいる悲劇です。ヴェルディのオペラにはシェイクスピアの原作を超える次元の暴力が描かれ、そこから大きなエネルギーが生じている。そのエネルギーの感覚を伝えたいんです」
 9月9日には、同じBunkamuraで「10代のためのプレミアム・コンサート・コンサート」も。「若い人たちのオペラへの素敵な入口になるコンサートで、私が一緒に仕事をしてきたすぐれた歌手たちの歌で、ヴェルディやプッチーニのたくさんのオペラに触れてもらい、『オテロ』はハイライトを聴かせます。最初のアプローチとしては最高の体験ができるはずです」



Bunkamura ヴェルディ:オペラ『オテロ』(演奏会形式)特設ページへ


 数が増え、中身も充実しつづけるバッティストーニの引き出し。その多くを開けられる楽しみが9月に待っている。




香原斗志(かはら・とし)

イタリア・オペラをはじめとする声楽作品を中心に、クラシック音楽全般について取材および評論活動をし、音楽専門誌や公演プログラムなどに記事を執筆。声や歌唱表現の評価に定評がある。毎日新聞クラシック・ナビに「イタリア・オペラの楽しみ」を連載中。著書に『イタリアを旅する会話』。


第73回休日の午後のコンサート ~ ヴェローナより愛をこめて2

9月3日(日) 14:00 開演 (13:15 開場)
東京オペラシティコンサートホール

指揮・お話:アンドレア・バッティストーニ(東京フィル首席指揮者)

ベッリーニ/歌劇『カプレーティ家とモンテッキ家』序曲
ザンドナーイ/『ジュリエッタとロメオ』より舞曲
バッティストーニ/エラン・ヴィタール(管弦楽のための狂詩曲)
バーンスタイン/ミュージカル『ウエスト・サイド物語』より「シンフォニック・ダンス」
ベルリオーズ/『ロメオとジュリエット』より“ロメオただ一人”~“キャピュレット家の響宴”


関連情報

アンドレア・バッティストーニ指揮「休日の午後のコンサート」プログラムのお知らせ

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