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2017年8月30日(水)

東京フィルとの16年ぶりのマーラー『復活』を語る


名誉音楽監督チョン・ミョンフン指揮
7月オーチャード定期演奏会 マーラー『復活』より
©上野隆文

 7月、チョン・ミョンフンは、東京フィルの東京オペラシティとオーチャードホールでの定期演奏会で、マーラーの交響曲第2番『復活』を取り上げた。東京フィルとの『復活』は、16年ぶりであった。前回の演奏とはかなり変化があったように思ったと、マエストロに感想をぶつけてみた。
「みんな美しく演奏してくれました。曲の要所に近づくことができたということは、私も人生の終わりに近づいたということなのかもしれません(笑)。遂にそういう境地に到達することができたのかと思います。もちろん、何事も自然に進化していくことを望んでいますが、進化は、年齢が進むだけでなく、それにプラスして多大な努力がなければ、なしえません。妻は『もう十分勉強したでしょう?』と言いますが、偉大な作品にチャレンジするのに、十分ということはないのですね。私は記憶が悪いことがフラストレーションになるのですが、妻は『ゼロから始められるから、良いことじゃない』と言います。ですから仕方なくゼロから勉強をやり直すわけです」
 マーラーの交響曲第2番『復活』は9月のサントリーホールでの定期演奏会でもう一度演奏される。


「神童から大人の演奏家へ」天才少女イム・ジュヒ


2000年生まれのピアニスト、イム・ジュヒは
2013年にマエストロと初共演

 9月の東京オペラシティとオーチャードホールの定期演奏会には、韓国の16歳の天才少女、イム・ジュヒが登場し、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番を共演する。
「彼女とは13歳のときからいろいろな協奏曲で共演しています。素晴らしい才能の持ち主です。このような才能を持つ人をもう一人知っていますが、それがチョ・ソンジンです。彼も13歳のときから知っています。彼は年を取って(笑)もう21歳になりましたが、非常に良くなりましたよ。どんなに才能があっても若い演奏家は育っていくのが難しいのです。神童から大人の演奏家になるのは難しい。彼女はまだ少女ですが、ピアニストの場合、17歳くらいから25歳くらいまでが変わっていく最も難しい年頃なのです」


「天上の楽器を弾いているような気持ちに――」
1月定期『ジュピター』『幻想』


「天上の楽器を弾いているような気持ちになるのです」

 2018年1月の定期演奏会では、モーツァルトの交響曲第41番『ジュピター』とベルリオーズの『幻想交響曲』を指揮する。
「モーツァルトは彼の純粋なインスピレーションゆえに演奏するのが最も難しい作曲家です。ものすごい音楽なのにほとんど努力なしに書かれたかのようなのです。ベートーヴェンは、より良いものを求めて何度でも試し、もがき苦しみます。私ももがき苦しむ方ですから、モーツァルトのような最初から完璧に書かれた音楽は難しいのです。でも交響曲第41番のフィナーレに来ると、何か違った新しい楽器を手にしたような気持ちになります。『ジュピター』の名前の通りに、天上の楽器を弾いているような気持ちになるのです。
 『幻想交響曲』は、若者のための作品だと思います。曲によっては、若い指揮者が振った方がいいと思うものがあります。『幻想交響曲』では私もまた若者にならなければなりませんね(笑)。まだマーラーもショスタコーヴィチもストラヴィンスキーもいないあの時代(19世紀前半)において、革命的な作品でした。創造力という意味では、驚異的な作品だと思います」


東京フィルとの16年間、円熟へと向かうマエストロ


「東京フィルは私の日本の家族です」 (C)上野隆文

 チョンは2001年に東京フィルのアーティスティック・アドバイザーに就任し、昨秋、名誉音楽監督となった。16年間は十分に長い時間である。
「東京フィルは適応性があってフレキシブル。アンサンブルが驚異的に素晴らしい。何度も言っていますが、東京フィルは私の日本の家族です。ただの良い関係ではなく、楽団員が元気かどうかはいつも気になっていますし、いつでも助けられることは何でもしたいと思っています」
 マエストロは60歳を超え、いよいよ円熟期を迎える。
「先程、ピアニストの変化の時期が17歳から25歳までと言いましたが、指揮者の場合はもっと遅くて30歳から60歳までが変化の時期なのです。私は60代になり、もう成長の時期は過ぎました。今は、プロの指揮者として働くのではなく、個人的な理由で活動していきたいと思っています。そのオーケストラと特別に温かな関係があるとかでないと、そこには行かないですね。前からそうでしたが、今はさらに強くそう思います」


母国・韓国での活動について

 今年から始まる「ワン・コリア・オーケストラ」のプロジェクトもそんなチョンの強い思いによって実現した。
「今の韓国はがっかりさせられるような困った状況です。南北の“統一”とは言わないまでも、南北がより良い関係を持つという夢は共有したい。今は南北の音楽家が一緒に演奏するのは政治的に不可能ですが、少なくともその夢は持ち続けたいと思います。私は特に若い人々に、北朝鮮の若い隣人を助けるように話しかけています。私は常々言っていますが、音楽の素晴らしさは個々の国に勝るものです。音楽の素晴らしさによって南北の人々が一緒に聴いたり演奏したりすることができるのです」。
「今は、2つのイベントを企画しています。一つは8月(18、19日)のロッテ・ホール1周年を記念するワン・コリア・オーケストラの演奏会。これには、韓国のプロ・オーケストラのベスト・メンバーが集います。“統一”という夢を共有する音楽家たちです。そしてコンサートによってその夢を示します。


「音楽の素晴らしさは個々の国に勝るもの」
 長期的により大切なプロジェクトは、ワン・コリア・ユース・オーケストラです。この仕事をしなければならないのは若者たちですから。9月初旬に音楽学生を中心とするオーディションを行います。そして来年1月に演奏会をひらきます。
 どちらもフルタイムのオーケストラではありません。年に2回程度集まりたいと思っています。北朝鮮の音楽家たちはまだ来られません。基金を募っているので、そのお金を北朝鮮の子供たちを助けるために使いたいと思っています」

イタリアでの長年の活動、共和国功労勲章コンメンダトーレ章受勲

 7月に、チョンは、イタリア政府からイタリア共和国功労勲章を授与された。
「私とイタリアの歴史は長くて40年以上になります。冗談で、私は半分イタリア人と言ったりします(笑)。35年前にイタリアに引っ越したのは、音楽のためではなく、イタリア料理が大好きだからでした(笑)。私とイタリアは人生の基本的なことで結びついているので、その関係を容易に一生続けることができるのです」




山田治生(やまだ・はるお)

1964年、京都市生まれ。1987年、慶應義塾大学経済学部卒業。著書に、小澤征爾の評伝である『音楽の旅人』、『トスカニーニ』(以上、アルファベータ)、編著書に『オペラ・ガイド130選』(成美堂出版)、『戦後のオペラ』(新国立劇場情報センター)、訳書に『レナード・バーンスタイン ザ・ラスト・ロング・インタビュー』(アルファベータ)などがある。


【完売御礼】16年ぶりのチョン・ミョンフン指揮『復活』!

9月15日(金) 19:00 開演(18:30 開場)【完売】
サントリーホール 大ホール

指揮:チョン・ミョンフン(東京フィル名誉音楽監督)
ソプラノ:安井陽子
メゾ・ソプラノ:山下牧子
合唱:新国立劇場合唱団








チョン・ミョンフン × 東京フィルの真骨頂!
天才少女イム・ジュヒとのベートーヴェン・プログラム

9月18日(月・祝) 15:00 開演 (14:30 開場)
Bunkamura オーチャードホール
9月21日(木) 19:00 開演(18:30 開場)
東京オペラシティコンサートホール

指揮:チョン・ミョンフン(東京フィル名誉音楽監督)
ピアノ:イム・ジュヒ*

ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第3番*
ベートーヴェン/交響曲第3番『英雄』


主催:公益財団法人 東京フィルハーモニー交響楽団
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術創造活動活性化事業)公益財団法人 花王芸術・科学財団(9/15)、公益財団法人 ローム ミュージック ファンデーション(9/15)
協力:Bunkamura (9/18)

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