ホーム > インフォメーション > 12月、ニーノ・ロータ国際指揮コンクールの覇者・伊藤翔登場!

インフォメーション

2017年11月20日(月)

第1回ニーノ・ロータ国際指揮コンクールの覇者、伊藤翔 12月定期に登場!


伊藤 翔
©Jun Yoshimura

 12月の定期演奏会には俊英・伊藤翔が東京フィル定期、そして「平日の午後のコンサート」に初登場です。伊藤翔は東京都出身、桐朋学園を経てウィーン国立音楽大学に留学。桐朋学園在学中に大阪フィルでデビュー。2016年10月、イタリアの第1回「ニーノ・ロータ国際指揮コンクール」でニーノ・ロータ賞(優勝)およびオーケストラ賞を受賞。海外での活動も増えてきたという若きマエストロにお話を伺いました。

◆ニーノ・ロータ・ルネッサンス

――2016年10月、ニーノ・ロータ国際コンクールに優勝して、生活は変わりましたか。

伊藤 コンクールが終わって、ありがたいことにイタリアで演奏する機会が急に増えました。いろいろなオーケストラに声をかけていただいて、11月の中旬からまたイタリアに行きます。まずローマの近くのラクイラで、オーケストラ・シンフォニカ・アブルッツォとの共演、それからマグナ・グラシアオーケストラ(ニーノ・ロータ国際コンクールのホストオーケストラ)との再共演です。


――近年リバイバルの進むニーノ・ロータですが、コンクールはどんなものでしたか。


インタビューは10月、都内にて行われました
 

伊藤:コンクールの課題曲としては、ニーノ・ロータの作品であるオペラの抜粋や室内楽作品など数曲がありましたが、他の課題曲は、例えばファイナルで指揮したのはブラームスの4番といった、いわゆる王道の作品です。ニーノ・ロータというと映画音楽のコンクールかなと思ってしまいますが、そういうコンクールではありません。
 ロータはご存知のとおり、ここ10年ほどヨーロッパでリバイバルが起きています。『ゴッドファーザー』や『太陽がいっぱい』などの映画音楽ではなく、知られていなかったシリアスな作品、作曲家自身が「こちらが本業だ」と主張していたクラシックの作品が、さかんに演奏されています。私自身、指揮するのは初めてでしたが、非常にすばらしい作曲家だと感じました。


――ニーノ・ロータの魅力はどんな部分なのでしょうか?

伊藤:ひとことでいうと、古いようで新しい。ありそうでなかったという作品。すごくロマンティックなんですけれど、さまざまな過去の作曲家の系譜をしっかりと受け継いでいる。
 20世紀中ごろに、「退廃音楽」のレッテルを貼られて不遇の扱いを受けたコルンゴルトなどの作曲家たちにも通じるような、非常に才能はありながら状況に恵まれなかったせいで知られていなかった、けれど本当はリヒャルト・シュトラウス等の延長線上にいた、クラシックの正統な作曲家だと感じています。


◆20世紀の“攻めている”作曲家カバレフスキー

――12月の演奏会で取り上げるカバレフスキーについて教えてください。小学校の運動会などで流れていた「道化師のギャロップ」が有名ですが。

ドミトリー・カバレフスキー 
(1904-1987) ©Andrey Kostin 

伊藤:カバレフスキーは1904年に生まれ、1987年まで存命だった20世紀現代の作曲家です。私も少しだけですが同じ時代に生きていました。
 カバレフスキーは吹奏楽ではよく演奏されるそうですが、オーケストラでの実演の機会は多くありませんね。12月の演奏会では、後半に演奏するチャイコフスキーがまさにクラシックの名曲ですので、前半にカバレフスキーの作品を取り上げることで、現代のカバレフスキーとクラシックのチャイコフスキーとのつながりがわかるような流れになれば、と思っています。


――カバレフスキーはどんな作曲家だったのでしょうか?

伊藤:ピアノやヴァイオリンなど、子どものための作品をたくさん書いた人です。私自身、母がピアノを教えていましたので、子供のころは最初、「小さい子がピアノで弾くような曲を書いている人」と思っていましたが、録音などを聴くようになって、すぐにイメージが大きく変わりました。実際、今聴いてみても、子供の小さな手で演奏できるように書いてあるのですが、音楽的な内容はとても充実しています。子供に対して視線が向いている一方で音楽的な充実度は素晴らしい。「子供がこれを弾くのか?」と思うくらいです。


◆小山実稚恵さんとの共演について

――チャイコフスキー「ピアノ協奏曲第1番」のピアニスト、小山実稚恵さんとは初共演ですね。


小山実稚恵 ©ND CHOW

伊藤:私の両親も大ファンで、いちファンとして、小さいころからリサイタルを聴きに行ったりしていました。共演させていただけるのは、言葉にできないくらいうれしいことです。小山さんと共演された指揮者の先輩方にお話をうかがうと、皆さんが、本当にすばらしいと仰います。人柄もすばらしいし、オーケストラと一緒に演奏して、オーケストラの演奏を受け取って、それを倍くらいにして返してくださる方、もちろんソロも室内楽でも素晴らしいですけれど、オーケストラとのアンサンブルを本当によくご存じの方、とお聞きしています。


――そんな小山さんとの演奏、どんなアプローチを考えていますか?

伊藤:先日、小山さんが出演される協奏曲のリハーサルを見学したのですが、すごかったですね。完全に曲をすみからすみまで把握してらっしゃって、オーケストラが何をしているか、すべてわかっていらっしゃる。そのうえで、指揮者の方が「こうしようか」とおっしゃった話に即座に対応されます。言葉にしなくとも、音楽が流れている間のコミュニケーションも相当にあるというお話しですから、音が鳴ってしまったらそこは臆せずに自分のベストを尽くしたいと思います。


――客席から見ていると、ピアニストと指揮者とのコミュニケーションはとてもワクワクするところです。


◆チャイコフスキーが最も充実していた、交響曲第4番の時代

――メインのチャイコフスキー「交響曲第4番」についてはいかがでしょうか?


チャイコフスキー(1840-1893)
©沙良志乃

伊藤:チャイコフスキーが「交響曲第4番」を作った時期というのは、立て続けに彼の傑作みたいなものが出た時期ですね。同じ年に『エフゲニー・オネーギン』、ヴァイオリン協奏曲、少し前には『白鳥の湖』。葛藤もあったけれど、心身ともにすごく充実していた時期の作品です。
  チャイコフスキーはこの時期、西ヨーロッパに旅行を繰り返していて、曲を書き上げたのもイタリアのヴェネツィアでした。ロシアから出てきて、西欧の作曲技法を相当勉強していたようで、この曲の中でいろいろと試しているのがうかがえます。ロシア民謡をテーマにした音楽から決別し、ヨーロッパでの評価が高まっていく、その節目の作品ですね。

 第1楽章には、そんなふうに、彼自身も一歩前進したという、その思いが強く外面に感じられる。若く、エネルギーに満ちて、華やかで、力強く、未来を見据えた強い思いを感じさせる作品です。いっぽう1楽章には、チャイコフスキーが非常に繊細に、ていねいに書いている部分があります。それがこの曲の内面の部分だと思うのですが、そこを繊細に描きつつ、テーマになる外面的な存在感を失わないように演奏したいと思っています。

 支援者のフォン・メック夫人に当てた手紙にチャイコフスキーは「この曲は標題音楽で、すべてが言葉で説明できる」と書き送っているそうですが、私はそれが本心からの言葉なのか、少々懐疑的です。言葉で語ってしまうと、楽譜は魔力を失い、陳腐に見えてきます。私は、そうではなく、彼の書いた音そのものから、標題の本質が人々に伝わるようにしたい、と思っています。


――言葉にしたことと楽譜に落とし込んだことが違っている可能性もあると。

伊藤:パトロンに気に入ってもらえるような口ぶりというのも、作曲家は時々するものかもしれません。「ここだけの話なんですけれど」というのは人の心を引きつけますので……。マーラーも、一生懸命奥さんのアルマにあてた手紙で曲の説明をしていますけれど、奥さん以外には、そういうことはあまり言っていないようですね。


――口で言っていることと別に、音楽に落とし込むのはもっと内面から迸るものだったりするかもしれませんね。


伊藤:そうですね、言葉より音楽の方が、本当はもう少し深いものを表現していたり……、逆に言葉に比べて音楽に曖昧な部分があっても、それが真実に近いかもしれませんから。


――ありがとうございました。演奏会が楽しみです。



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チャイコフスキーの熱情

12月5日(火) 19:00 開演(18:30 開場)
サントリーホール 大ホール

指揮:伊藤翔 (第1回ニーノ・ロータ国際指揮コンクール優勝)
ピアノ:小山実稚恵

カバレフスキー/歌劇『コラ・ブルニョン』序曲
チャイコフスキー/ピアノ協奏曲第1番*
チャイコフスキー/交響曲第4番

平日の午後のコンサート<ロシアの偉大な芸術家たち>

12月7日(木) 14:00 開演(13:15 開場)
東京オペラシティコンサートホール

指揮とお話:伊藤翔 (第1回ニーノ・ロータ国際指揮コンクール優勝)

カバレフスキー/歌劇『コラ・ブルニョン』序曲
チャイコフスキー/交響曲第4番




主催:公益財団法人 東京フィルハーモニー交響楽団
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術創造活動活性化事業)

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