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2018年7月9日(月)
チョン・キョンファ
次回10月の定期演奏会は、いよいよ待望の、世界の巨匠による姉弟共演。東京フィル名誉音楽監督チョン・ミョンフンと世界的ヴァイオリニストのチョン・キョンファの東京フィルとの共演が実現します。6月、リサイタルのために来日したキョンファ氏に尋ねました。弟であるマエストロ・チョンを「マエストロ」と呼び、音楽家として互いに尊敬しあっているという氏からは、十代から今にいたるまでの姉弟の長く深いブラームス体験が語られました。
<2018年10月定期公演情報はこちら。>
ソロ・リサイタルの翌日に。
チョン・キョンファ
――昨日はすばらしいリサイタルでした。今日は10月の、マエストロ・チョンとの共演についてお尋ねしたいと思います。
「私はマエストロ・チョンとあなたがた東京フィルがいったい何年一緒にやっていたのか知らなかったので、さっき聞いてみたんです。17年ですって?」
――そのとおりです。2001年から、17年です。
「Good for you! よかったわ! あなた方にとっても幸運だし、マエストロ・チョンにとっても、あなた方のような素敵な方々とご一緒できるのはとてもとても幸せなこと。いいオーケストラですね」
――ありがとうございます。私たちもとても光栄です。マエストロ・チョン・ミョンフンは、「この世で最も尊敬する音楽家が姉のキョンファだ」といつも仰います。
「私も同じように思っています。私たちは互いに尊敬しあっています。私とマエストロ・チョンとの共演はずっとずっと昔にさかのぼります。彼がほんの14歳のときのこと。彼は私の姉(チェロ奏者チョン・ミョンファ)と私の、ブラームスの二重協奏曲の伴奏をしていました。ピアティゴルスキー(※20世紀を代表するチェロ奏者)の前で演奏しなければならなかったのです。姉が何年か、彼のもとで学んでいましたので……。弟はオーケストラ・パートをピアノで弾いたわけです。 どの協奏曲でも、ピアノ伴奏版ではオーケストラ版と比べて音の数は減っているものですが……というのも、多くのピアニストがそう言うのですが……14歳の弟が弾いた冒頭、『ヤーンタッタン!』、それを聴いて、ピアティゴルスキーは私たちの母に『ここには指揮者がいる』と囁いたそうです。信じられないような先見の明があったわけです! その頃は誰一人、彼について指揮者だという人はいませんでした。でも、それが今の彼の姿なのですから。誰ひとり、私たちの弟がそんな14歳という年齢でオーケストラに代わることのできるような伴奏をするとは思っていませんでしたが、彼はそのような能力を持っていました」
リラックスした雰囲気の中で弟のマエストロ・チョン・ミョンフンとのエピソードを語ってくれた
――すばらしいエピソードです。ヴァイオリン協奏曲での共演についてはいかがですか?
「ブラームスのヴァイオリン協奏曲は、私たちはローマ・サンタ・チェチーリア管とともに東京など日本各地で共演したことがありますが、その後しばらく私の手の治療やフェスティバルの仕事もあって私の仕事が制限されていました。その後、演奏活動を再開し、レコーディングを終えた今こそ、弟と再び共演する時が来たということです。彼は私に『共演するのはどう?』と尋ね、私は『もちろん!』と。大変な喜びでした。まさにファンタスティックな再会です」
――東京での共演は十数年ぶりということですね。
「今回、東京オペラシティコンサートホール(10月4日)とサントリーホール(10月5日)で演奏しますが、素晴らしい音響のホールで演奏できることも非常に嬉しいことです。私にとっては演奏で最も重要なことは音響、アコースティックスですので、これらのホールで演奏できることも大変嬉しく思っています。あらゆる色彩やダイナミクスを実現できますし、私は弟がオーケストラの演奏を、どんなバランスで私に提供してくれるかを思い浮かべることができます。オーケストラはソロ・ヴァイオリンと強く結びついています」
音楽家としてともに成長してきた家族ー
チョン・キョンファは今年デビュー48周年を迎える
©Simon Fowler
「彼は4歳のとき、私たち家族にピアノを弾きたいと言いました。私たちの母は教育のために子供たちに楽器を与えました。弟にとってはピアノがそれでした。理由は……私が思うに、ピアノはあらゆるハーモニーを持っていますし、彼はシアトルで素晴らしい師にも出会いました。マダム・ジェイコプスンといいますが、彼女は本当に素晴らしい音楽家でした。彼女が彼のような素晴らしい音楽家には単にピアノだけでは不十分だということを教えました。彼はいつでも音楽作りのヴィジョンを持っていましたし、一人の歌手のためだけではなく、管弦楽やオペラでも、みんなのために音楽を作りますよね。
オペラといえば彼は完璧にイタリアに心酔していますが……その理由は二つあって、一つにはオペラですが、もう一つはイタリアの食べ物が大好きということですね!(笑) 料理が大好きですし、イタリアの人々が大好きですし、信じられないほど相性の良い組み合わせです」
――ご自身にとってブラームスとはどんな存在なのでしょうか?
「Love of my life、今の私には人生最愛の人です。私は作曲家のメッセンジャーです。作曲家のメッセージを伝えるのが演奏家の役目。
私にとってブラームスとの初めての出会いは10代初めのことでした。その後、19歳でコンクールに出て、ニューヨークでリサイタルを開くということになったとき、母は私に弟を伴奏者として使うことを提案したんです。『もし、私の願いがかなうなら……』といった調子でした。でも、当時の私には母の提案に『ノー』を言うなんて思いもよりませんでしたから、たった15歳の弟をニューヨークの舞台にあげて、私たちは一緒にリサイタルを開きました。リサイタルの後半はブラームスのニ短調のソナタで、それが私たちの舞台でのブラームスの初共演です。弟はそのあとも毎日のように『もう一度やらない?』と聞いてきたので、私たちはヴァイオリンのすべてのレパートリーをやりました。協奏曲を初めて一緒にやったのもその時です。私たちはとても幸せでした。音楽的に、ともに成長する家族がいた。今でも私たちは音楽でつながっている。奇跡だと思います」
――マエストロ・チョンはこの共演が今シーズンのハイライトだとおっしゃいます。
「私にとっても、信じられないようなプレゼントです。私は一時ステージを離れていましたし、今舞台に戻って、まだ音楽をできるということが奇跡のように思えます」
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7月発売! チョン・ミョンフン指揮&チョン・キョンファ 10月定期演奏会
10月4日[木]19:00開演
東京オペラシティ コンサートホール
10月5日[金]19:00開演
サントリーホール
指揮:チョン・ミョンフン(東京フィル名誉音楽監督)
ヴァイオリン:チョン・キョンファ*
ブラームス/ヴァイオリン協奏曲*
サン=サーンス/交響曲第3番『オルガン付き』