東京フィルの 「午後のコンサート。」恒例の出演者への質問コーナー!
2020シーズンの平日の午後のコンサートに出演のマエストロとソリストが、お客様から頂いたご質問にお答えします。
普段はコンサートの当日にしか聞けない出演者のお話ですが、一部公演が中止となりましため、本コーナーのために特別にお答えいただきました。


佐渡 裕(指揮) 
4月8日(水)三都物語~ウィーン・パリ・ニューヨーク~ (公演中止)



 ©Takashi Iijima

――三都(ウィーン・パリ・ニューヨーク)それぞれの佐渡さんのおすすめの場所と思い出は?

どの街もほんとうに魅力満載なので即答するのは難しいですが、ウィーンなら、やはりウィーン楽友協会でしょうね。ここのホールは建物も音も特別です!ハイドンやモーツァルトのような小さな編成の曲からマーラーやブルックナーのような大きなものまで、神々しい音に包まれます!
パリは世界一美しい街と言えるでしょう。ノートルダム寺院を背にセーヌ川を右に見ながらオルセー美術館辺りを歩くのが大好きです!右側にはルーブル美術館やオランジュリー美術館。左の小道に入ったカルチェラタン地区にはこだわりのお店もたくさんありますよ!
ニューヨークも何度か行きましたが、住んだことがないので、そこまで詳しくありません。けれどあの街が持つエネルギーは、いつ行っても本当に強烈に感じます!ニューヨークといえば摩天楼。高層ビルが建ち並ぶ大都会だからこそかもしれませんが、夕暮れのセントラルパークは最高に癒されますよ。

――ステイホーム中に自分にとってこれはとても楽しい経験となった!ということがあったら教えてください

インスタグラムを始めたことと、フィルと名付けた犬を飼い始めたことでしょうか。
友人やファンの方々が、旅行の多い僕のことを心配してくださっているので、インスタは「元気にしてますよ」的な報告にも使えますし、皆さんからの様々なコメントをいただくと本当に嬉しいものですね!
フィルくんは、もうすぐ1歳のウエストハイランドホワイトテリアです。真っ白な可愛い犬ですが、超ワンパク坊主なので、すぐに黒くなります インスタにも頻繁に登場するのでぜひ見てやってください。

――マエストロ佐渡さんが描き出す三都物語を楽しみにしていましたが、中止となってしまいとても残念です。この三都に共通する音楽、影響を与えた作曲家や演奏家のことなど、三都物語の主人公となる人がおられましたらお聞かせください。
――バーンスタインの思い出について聞かせてください  


「三都物語」のテーマを聞いて最初に思ったのが、演奏曲目にも予定していた、師バーンスタインのことでした。私は1988年、ニューヨークにいるバーンスタインの元で指揮の勉強をするつもりで日本を離れましたが、ウィーンに来なさい!という彼の誘いで、ニューヨークにはたった3日間だけの滞在で片道切符でウィーンに渡ることになりました。丁度バーンスタインが70歳の年で、ウィーン・フィルの演奏会や録音立ち合わせてもらったり、ロンドン交響楽団のパリ公演にも連れて行ってもらいました。 不思議なことにその後パリには92年から17年間も住むことになりましたし、ウィーンにも30年経ってまた戻ることになりました。レニー(バーンスタインの愛称)との思い出は尽きません。どの演奏会も凄い音楽でした!奇跡のような音がするのに、めちゃくちゃ人間臭く、だけれど神々しくもある…。私にとっては父親のようであり、親友でもあり、最高の先生でした!







小林研一郎(指揮)
6月5日(金)250才のベートーヴェン (公演中止)



 ©上野隆文

――ベートーヴェンの交響曲で一番好きなものは何番ですか?

10歳のころラジオでベートーヴェンの『第九』を聞き、こんな世界があるのかと涙が溢れました。すぐに小学校の教諭をしていた母親に「五線紙を作って、僕は作曲家になるんだ」と願い出て、ガリ版印刷で作ってもらった五線紙に湧き出る音を書き続けました。幸いなことに家の書棚に楽書があり、朝の3時頃に起きてはそれを開いて勉強するという特殊な子でした。

一年半もすると作曲が出来るようになり、またついでにピアノも弾けるようになっていました。小学校の講堂にピアノがあったのですが、使用禁止だったので、真夜中にそっと忍び込んで、暗くて手元が見えない中でも即興曲を弾いておりました。そんな私の懐かしい思い出を作ってくれたのは『第九』交響曲でした。

ですが、私はすべての交響曲が好きです。不思議なことに交響曲第1番はドの音で始まって、2番はレの音、3番はミの音、4番だけ4度を対応して、5番は5番目の音、6番は6番目の音、7番は7つの音を駆使して曲が出来上がる、8番は8番目の音、9番は8番で1に帰って9番は2に該当します2番で作った類似的なテーマはないのですが2番の1小節だけを使って『第九』シンフォニーの中核をなしています。まるでダヴィンチコードのようにミステリアスに満ちた世界で、すべての交響曲が好きなのです。

――コロナ自粛中の過ごし方を教えてください。

健康を維持するために特別なことはしていませんが、私の中の「燃え上がりたい」という気持ちがいつも何かをさせてくれている気がします。
コロナ禍が始まりましてからは、自宅でじっとしていることが多かったのですが、公演が再開するかもしれないと思い、散歩を日課にするようになりました。自宅から歩いて4キロほどの所にゴルフ場があり、ちょうどいい運動になるなと毎日往復で8キロ散歩して、いつでも公演に臨めるよう努めていました。







アンドレア・バッティストーニ(指揮) 
8月4日(火)夏のバッティストーニ (出演者を変更して開催)



 ©上野隆文

――マエストロはグルメな感じがしますが、ご自分で料理をされますか?またイタリア料理と日本料理でお好きな品は何ですか?

食べることは大好きで、最近は自分でも色々作るようになりました。 特にケーキやビスケットが得意で、あまり食べ過ぎないようにしています。 好きなイタリア料理はニョッキで、上に昔ながらのソースをかけたものなら何でも好きですが、特にチーズソース、クリームとトマトのソース、あるいはヴェローナの郷土料理の馬のシチューなどをかけるのが好きです。和食にも色々好物があり大好きです。

――日本の文学がお好きと前におっしゃられていましたが、最近読まれた本は何ですか?

日本文学は今でも色々読み続けています。ロックダウン中に読んだのは川端康成の『眠れる美女』や井上靖の『猟銃』などです。最近、ロシア人のレフ・トルストイを見つけて、彼の文章に夢中になりました。彼の小説『アンナ・カレーニナ』は、今まで読んだ中で最も神秘的で、興味をそそられ、情熱的な小説の一つです。

――私は夏が嫌いです。バッティストーニ先生はお好きですか?

私もどちらかというと冬派で、特に12月と年始にかけての休日が好きです。家にいて、友達を集めてクリスマスパーティーや夕食を共にしたり、ワインを飲みながら栗を焼いて食べるのが大好きです。 今年はパンデミックの影響で、リスクがあるので残念ながらそれはできませんでしたが、それでも寒い季節は特別な雰囲気があり、ほろ苦く甘くて魅力的です。

――バッティストーニさんの巣ごもり生活は?

最初は、思いがけない自由時間を楽しんで、リラックスしたり読書に没頭したりしていました。 その後はほとんどの時間を作曲に費やし、合唱とオーケストラのための大きな交響曲を完成させました。これは全く演奏ができない悲しい時期、私にとって本当に音楽の世界への架け橋だったのです。

――大事なことがあるとき、その前にすることorしないこと、食べ物などの決まり事などありますか?

特にないですね。 コンサートの前には事前に会場に入って、その場の雰囲気や仲間の雰囲気に合わせるのが好きです。 公演前には夕食は食べず、楽屋に一人でいるのも静かすぎて孤立している感じなので、誰かとおしゃべりしている方が好きです。







角田鋼亮(指揮)
10月14日(水)夢見る頃を過ぎても (公演でお話された内容を再録しています)



 ©Hikaru Hoshi

――本番までにどのくらいの準備期間がありますか

初めて指揮をする作品であれば、リハーサルの3ヶ月や4ヶ月前からスコアを読み込みます。オペラですと、言葉があり、その内容理解から始めるので、1年ほどかかります。スコアの勉強だけでなく、歴史的背景などについても見識を深めます。

――オフの時間はなにをしていますか

趣味は将棋を指す事です。移動中などにオンラインでやっています。将棋には、「定跡」と言われる「こう指したら、こう指す」という一連の手の流れ・手順があるのですが、指し手がその定跡から外れた時に、指した人の考えや個性が出てくると思うので興味深いです。

作曲家のスコアも同じで、「この和音がきたら、次はこの和音がくる」という簡単なセオリーがあるのですが、そうしなかったときに作曲家の創意工夫が現れます。将棋でも音楽でも、セオリーに対してどうあるかという所に非常に興味があります。
また、将棋の駒とオーケストラの楽器は近しい関係があると思っています。「金」や「銀」は王様をがっちり守りますよね。ホルンはメロディを和声・和音で支える大事な楽器なので「金」のような雰囲気に思われますし、トランペットはまっすぐ進んでいくような音なので、「飛車」に似ていると思います。チェロは、高音域に行って歌う、低音域に下がってベースラインと一緒に弾くという守備範囲の広さが、攻めてもよし守ってもよしな「角」に近しい存在かなと思います。

――もし音楽家でなかったらなりたかった夢はありますか

小さい頃は庭師になりたかったです。日本の庭園に宇宙を感じます。暇になったときは、ふらっと庭園を訪れるのが今でも好きです。高校生のときは最高裁判所の長官になりたいと思っていました。

――今後挑戦したいことはありますか

乗馬をしたいです。音楽の要素にはギャロップや駆け足のリズムなどの馬のリズムがあります。そういうものを体感したいです。







前橋汀子(ヴァイオリン)
10月14日(水)夢見る頃を過ぎても (公演でお話された内容を再録しています)



 ©篠崎紀信

――ヴァイオリンをはじめたきっかけを教えてください。

当時通っていた幼稚園で、情操教育としてヴァイオリンかピアノのどちらかを習わなくてはならず、母が楽器屋さんにいったところ、「ピアノよりもヴァイオリンの方が安い」という理由で、ヴァイオリンをはじめました。もしピアノを選んでいたら、自分の人生は変わっていたと思います。

――もし音楽家でなかったらなりたかった夢はありますか

医学の勉強をしたいです。人間のからだのことを知りたいと、年を重ねるごとに思います。医学を学びつつ、たのしみでヴァイオリンを弾いていたいです。オイストラフが「ヴァイオリンはお腹と足で弾く」と言っていたのですが、体の使い方というのを理解することは、ヴァイオリンを続けていくための大切なことではないかとつくづく思うようになりました。

――今後挑戦したいことはありますか

カルテットに挑戦しています。20代の時、小澤征爾さんに「君はソリストを目指しているかもしれないけれど、室内楽の勉強をするのはとっても大事だよ、特にカルテットは音楽の基本だから」と言われたことがあります。当時はソロの曲にばかりで頭がいっぱいでしたが、7年前からカルテットに継続して取り組んでいます。

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