ホーム > インフォメーション > 2022年7月定期の聴きどころ アルメニアと日本の友情の架け橋 俊英が紡ぐオール・ハチャトゥリアン・プログラム

インフォメーション

2022年6月10日(金)



アルメニアの首都エレバンの風景

 7月の定期演奏会には様々なトピックがあるが、まず何よりも強調したいのは、オール・ハチャトゥリアン・プロであること、そして交響曲第2番『鐘』が演奏されることである。彼の最重要作品と見なされる大作だが、実演機会は稀少を極める。東京のプロ楽団ではおそらく今世紀初の上演であり、待望の好機をとにかく喜びたい。

 20世紀に存在したソヴィエト社会主義共和国連邦。代表的な作曲家といえば、ショスタコーヴィチ、プロコフィエフ、そしてハチャトゥリアンの3人の名前が挙げられることが多いだろう。


アラム・ハチャトゥリアン(1903-1978)
指揮者として1963年に来日。7月定期では、
初来日でハチャトゥリアンが指揮した演目と
同じ曲を取り上げる

 アラム・イリイチ・ハチャトゥリアンは、1903年、アルメニア人の両親のもと、ジョージア(旧グルジア)の首都トビリシで生まれ育った。同地は南コーカサスの文化が集中する都市で、少年時代から様々な音楽に触れる機会があったという。モスクワで正式に音楽を学び始めたのは19歳だが、ほどなくして頭角を現し、30代ですでに著名な存在に。アルメニア音楽をはじめ民族的な要素を軸としながら、全く独自のエキゾチックで情熱的な作風を確立し、ローカルな存在に留まらず、ソヴィエトを代表する国際的な作曲家の地位を築いた。オペラ以外のほぼ全ジャンルで多数の作品を残し、映画音楽でも活躍。別格の知名度を誇る「剣の舞」や、フィギュアスケートでの浅田真央選手が使用した『仮面舞踏会』の「ワルツ」などはおなじみの存在だろう。
 彼自身についてはまだ知られていないことも多いが、2019年には映画「剣の舞 我が心の旋律」でハチャトゥリアンが主人公として描かれるなど、いまも再認識・再評価が進んでいる。

 7月の演目は、バレエ音楽『ガイーヌ(ガヤネー)』より5曲、ヴァイオリン協奏曲、そして交響曲第2番『鐘』。いずれも作曲者30代後半から40歳までの作曲で、充実期のいずれ劣らぬ傑作がそろう。
 全曲2時間超の『ガイーヌ』から選ばれたのは、「剣の舞」のほか、妖艶な「アイシェの目覚めと踊り」、豪放な「山岳民族の踊り」、神秘的な「ガイーヌのアダージョ」(映画「2001年宇宙の旅」にも使われた)、血沸き肉躍る「レズギンカ舞曲」。著名な5曲で大作のエッセンスを楽しめる。
 作曲者の世界的名声を決定づけたヴァイオリン協奏曲は、思わず体が動いてしまうような強烈なリズムと濃厚な旋律美にあふれる、20世紀の同ジャンル屈指の名作。
 『鐘』は1943年、ソヴィエトがナチス・ドイツに侵攻された「独ソ戦」の最中に書き始められた。冒頭から警鐘が響き渡り、作品全体も悲劇的な色調に覆われる。グレ ゴリオ聖歌「怒りの日」も現れる緩徐楽章を経て、最後は力強く勝利を希求する大作。いよいよその全貌を体感できる。


2021年クーセヴィツキー国際指揮者コンクール本選での出口大地


木嶋真優は東京フィル定期に2回目の登場となる ©KINYA OTA(MILD)

 この攻めたプログラムを組んだのは、東京フィル初登場の若きマエストロ、出口大地。1989年生まれ、大阪出身の俊英で、昨年アルメニアで開催されたハチャトゥリアン国際コンクール指揮者部門で優勝したことで、一気にその名を知らしめた。その後はクーセヴィツキー国際指揮者コンクール最高位も受賞し、いままさに勢いに乗っている指揮者である。アルメニアでの優勝時には、作曲者が使用した指揮棒で『鐘』のフィナーレを振ったとのことで、ゆかりのハチャトゥリアン・プロに期待が高まる。実は今回が日本プロ楽団デビューとのことで、未来の名匠誕生に期待したい。すぐに定期に招聘した東京フィルの慧眼と勇気も賞賛されよう。
 協奏曲のソリストは木嶋真優。第一線で長く活躍する名手で、近年はテレビ出演でも知られるが、その演奏は紛れもなく世界水準のもの。圧倒的な技巧、深い集中力、濃密な歌。ロシアの名教師ザハール・ブロンに師事した木嶋の名技で聴くハチャトゥリアン、決定的な名演が体験できそうだ。

 2022年は「日本・アルメニア外交関係樹立30周年記念」にあたる。本公演は駐日アルメニア大使館の後援がつき、国交の観点からも意義深い公演となる。思い起こせば、ソヴィエト連邦が崩壊したのは1991年末。多くの共和国がそこから独立し、各国と国交樹立していったのが翌1992年で、今年は重要な節目の年である。
 この2022年というタイミングで奏でられる、ハチャトゥリアンの『鐘』。その警告の鐘の音に込められたメッセージ、いまこそ共有しなくてはならない。




林 昌英(はやし・まさひで / 音楽ライター)

出版社勤務を経て、音楽誌制作に携わり、現在はフリーライターとして活動。「ぶらあぼ」等の音楽誌、Webメディア、コンサートプログラム等に記事を寄稿。オーケストラと室内楽(弦楽四重奏)を中心に執筆・取材を重ねる。2020年桐朋学園大学カレッジ・ディプロマ・コース音楽学専攻修了、研究テーマはショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲。



【特別記事】

 ▷ 【特別記事】アルメニア探訪~アルメニア・日本外交関係樹立30周年
 ▷ 【楽団員インタビュー】コンサートマスター 三浦章宏

 

7月定期演奏会 

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7月7日[木]19:00開演
東京オペラシティ コンサートホール
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7月10日[日]15:00開演
Bunkamura オーチャードホール
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7月12日[火]19:00開演
サントリーホール

指揮:出口大地
(2021年ハチャトゥリアン国際コンクール第1位、クーセヴィツキー国際指揮者コンクール最高位入賞)
ヴァイオリン:木嶋真優*

曲目解説(PDF)

ハチャトゥリアン/バレエ音楽『ガイーヌ』より
ハチャトゥリアン/ヴァイオリン協奏曲*
ハチャトゥリアン/交響曲第2番『鐘』


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主催:公益財団法人 東京フィルハーモニー交響楽団
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術創造活動活性化事業)| 独立行政法人日本芸術文化振興会
協力:Bunkamura(7/10公演)
後援: 駐日アルメニア共和国大使館
日本・アルメニア外交関係樹立30周年記念

公演カレンダー

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