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2022年7月6日(水)
――7月定期、初登場の出口大地さんと、珍しいオール・ハチャトゥリアン・プログラムを取り上げます。
コンサートマスター 三浦章宏 ©上野隆文
マエストロは非常にけれんみのない音楽づくりですね。今回のプログラムである、アルメニアのハチャトゥリアンという、いわゆるヨーロッパの洗練されたクラシック音楽とは少し違った、とても民族色が豊かな作品としてアプローチをするのがとても面白いと思います。もともとハチャトゥリアンの書いた楽譜が、”民謡調”であり、激しいところは激しく、踊りの要素もたくさんある。いわゆる気取ったような踊りではなく「剣の舞」に表れるような、土俗的な音楽が遺憾なく堪能できる演奏がお届けできると思います。
――ハチャトゥリアン作品の演奏経験は
多くはないのですが、ヴァイオリン協奏曲は実はヴァイオリン・ファンには人気があるので、演奏する機会もあります。ソリストの木嶋真優さんも、ハチャトゥリアンの民族的なニュアンスをとてもよく表現されていて、曲の魅力を引き出しているのではないかと思います。マエストロはとてもよく楽曲の精神を理解して、自分のものとして伝えてくれています。
――演奏者としてハチャトゥリアンの特徴的なところは
リハーサル風景より
メロディが独特ですね。音階自体が、いわゆるクラシックの音楽とはちょっと違います。マエストロも同じ言葉を使っていましたが、“エキゾチック”。メロディの歌いまわしにも、言ってみれば“コブシ”がきいていますね。日本人にも親しみのわくメロディだと思います。
アルメニアは地理的にはトルコのお隣の国で、西洋と東洋の間にある国ですし、たとえばロシアのチャイコフスキーもよく『演歌』なんて言われるようなメロディがあり、日本人は大好きですよね。それがさらに東方寄りになったということで、より私たちにとっては親しみの沸くメロディであると感じます。でも演奏するのがとても難しいんですよ。
交響曲第2番『鐘』は規模の大きな作品で、どの楽章もエネルギーの塊のような、スペクタクルを感じさせます。新しい宇宙が広がっていくような。戦争中に書かれた作品ということで『鐘』のモチーフや「怒りの日」のメロディが盛り込まれて、強いメッセージ性もありながら、要所で民族的なメロディが現れます。
ヴァイオリン協奏曲は、それと比較するとより民族色の強い作品ですね。第1楽章と第3楽章はダンスの音楽ですし、第2楽章は切々と歌われる。メロディラインは民族の踊り——都会的でおしゃれなものではない、民族的な踊り——を思わせるダンスです。リズムも、日本の和太鼓の乱れ打ちを連想するような。
『ガイーヌ』には、有名な「剣の舞」や「レズギンカ」も含まれますが、静かな楽曲も含まれています。冒頭の1曲「アイシェの目覚めと踊り」は弦楽器のトレモロで静かに始まる音楽です。聴き慣れない異国のメロディなのですが、静けさの中で朝もやが広がってくるような雰囲気が広がります。また、弦楽器だけによる「ガイーヌのアダージョ」も美しい。ハチャトゥリアンというと、“「剣の舞」の人”というイメージが強いですが、それだけではないのです。一方で、今回の公演ではマエストロが生み出す世界のなかで「剣の舞」が強烈なキャラクターを放つのではないかと思います。楽しみにしていただければと思います。
「剣の舞」はハチャトゥリアンが指揮している実演を聴いたことがありますが、物凄く激しい。すごい世界です。アルメニアは抑圧されていた歴史もあり、ハチャトゥリアンの作品はメロディに哀愁がありますね。
リハーサル風景より
【特別記事】
▷ 【特別記事】7月定期の聴きどころ アルメニアと日本の友情の架け橋 俊英が紡ぐオール・ハチャトゥリアン・プログラム(文=林 昌英)▷ 【特別記事】アルメニア探訪~アルメニア・日本外交関係樹立30周年
7月7日[木]19:00開演
東京オペラシティ コンサートホール
7月10日[日]15:00開演
Bunkamura オーチャードホール
7月12日[火]19:00開演
サントリーホール
指揮:出口大地
(2021年ハチャトゥリアン国際コンクール第1位、クーセヴィツキー国際指揮者コンクール最高位入賞)
ヴァイオリン:木嶋真優*
ハチャトゥリアン/ヴァイオリン協奏曲*
ハチャトゥリアン/交響曲第2番『鐘』
主催:公益財団法人 東京フィルハーモニー交響楽団
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術創造活動活性化事業)| 独立行政法人日本芸術文化振興会
後援: 駐日アルメニア共和国大使館
日本・アルメニア外交関係樹立30周年記念