ホーム > インフォメーション > 【特別記事】6月定期演奏会聴きどころ 巨匠ズーカーマンと見据えるモーツァルトの核心

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2026年4月16日(木)

6月定期演奏会

6月定期演奏会にはヴァイオリニスト/ヴィオリスト、そして指揮者として世界から尊敬を集めるピンカス・ズーカーマンが昨年に続いて登場。オーケストラとの信頼を交わしつつ、今年生誕270年を迎えた作曲家の後期交響曲と自身の「弾き振り」を含むオール・モーツァルト・プログラムでその真摯かつ闊達な世界に迫ります。





 人はさまざまな夢をみる。なかでも、オーケストラ音楽は、人類がみたもっとも壮大な夢のひとつだろう。ひと連なりの時間のなかで、ひとりひとりがともに遥かな夢をみるのである。
 東京フィルハーモニー交響楽団の今シーズンも、広大な時空を旅するプログラムが組まれている。ビゼーやサン=サーンス、マーラー、リムスキー=コルサコフで19世紀の後半を歩み、シベリウスで20世紀をまたぐだけでなく、近くはプレトニョフが2024年に書いた「音楽的記憶」にも臨む。いっぽうで古くを遡れば、ウェーバーが今年、ベートーヴェンが来年で没後200年。そしてモーツァルトは今年で生誕から270年を数えた勘定になる。6月定期、オール・モーツァルトの傑作プログラムは、多種多様なオーケストラ音楽の鉱脈に範たる金字塔のようなものだ。


2025年6月定期演奏会より
2025年6月定期演奏会より
2025年6月定期演奏会より
Ⓒ上野隆文

 ピンカス・ズーカーマンが昨年の同じく6月、東京フィルとの3年ぶりの再会に指揮したのはモーツァルトの『ジュピター』。エルガーのセレナードでは壮大な弦楽器を奏でるように指揮し、ハイドンのハ長調協奏曲を弾き振りして圧巻のヴァイオリンを聴かせた後に見据えたのがこのハ長調の大交響曲だった。「モーツァルトの『ジュピター』、とくに最終楽章は音楽史上の革命である。構造を分析的によくよく理解していないと、演奏することは到底無理だ」と語り、すべてを統合する天才の卓抜さについてズーカーマンは称賛を惜しまなかった。
 ヴァイオリンについて言えば、今夏78歳になる名手の確実な表現構築は稀代のものだ。彼自身の前言を真似れば、おそらく演奏史上めったにない、この齢にしてこの圧倒的な揺るぎなさで、その存在自体が革命的と称えてよいだろう。規律と基礎が骨の髄まで一体化しているからこその直截さで、音楽を即座にしかとつかみ、まっすぐ簡潔に伝えきる。モーツァルトと並べたら、きっとズーカーマンに叱られるが、それでも彼という名手が音楽家として堂々たる歩みを現代に示してきたことは歴史的な驚異とみられる。
 「長い旅だ。もう70年近くもやってきて、いまも自分がおなじ水準を維持していることを望んでいる」と前回の来日公演に先立って語っていたズーカーマン。「私には多くの規律があり、ルーティーンがある。朝起きてコーヒーを一杯飲み、スケールを練習する。音楽の多くの部分は物理的な存在によって創られるのだから。正確なポジションをつかみ、それを自分で体系化し、さらに音楽について学んでいく。自分を教えるのは自分自身。ほんとうに自分が知らないことばかりだと信じられれば、人はもっと多くを知ることができる」。


「ほんとうに自分が知らないことばかりだと信じられれば、人はもっと多くを知ることができる」



プレコンサートでの弦楽八重奏
2025年6月定期演奏会より、
プレコンサートでの弦楽八重奏 Ⓒ上野隆文

 続けてズーカーマンは、15歳くらいのとき、チェロの巨匠パウ(パブロ)・カザルスに個人レッスンを受けたことを話し出した。「カザルスは一時間半かけて、ト長調の7つほどの音をさまざまに弾いた。それだけで世界のすべてを網羅していた。それからおもむろに『いまからバッハを弾く』と言ってト長調組曲を弾き出した」。偉大な演奏は一音一音の確信、分析と理解と多様な表現によって構築されるのである。
 そして、音が少なければ少ないほど、簡明であればあるほど、音の確信と存在感は求められよう。ほんとうは数の問題ではないし、単純にみえて多義的であることはいったんおくとしてもだ。モーツァルトは迷わなかった。演奏家はその一刻一刻を瞬時につかみ、解き放たなくてはいけない。だからズーカーマンのように決然とした精神と精確な表現技巧が必要なのだ。

 ヴァイオリンを弾いても指揮をしても、ズーカーマンの芯は変わりようがないが、しかし自ら弾くことを通じて、奏者たちの心を自ずとつよく惹きつける。昨年の初夏、プレコンサートのメンデルスゾーンの八重奏から拡大するように、ズーカーマンの信を正面から率直に受けとめ、ともに音楽する大きな心を求めていったのが、コンサートマスター三浦章宏をはじめとする東京フィルの奏者たちの真率な共鳴と情熱だった。一年と置かずにその記憶を更新することで、なお強くモーツァルトの透徹した世界に近づいていくものと期待される。
 「比類なき『ジュピター』が当時の音楽を変えたと話したが、さらに言えば、第40番の出だしからして、すでにクレイジーだ。この音楽はどこから始まるのか? 山地からやってくるのか、そして山羊が啼いたりするのか……」とズーカーマンは笑っていたが、ハ長調の大傑作を経て、次の再会では東京フィルとト短調の後期交響曲に臨むことになった。その前にはト長調のヴァイオリン協奏曲、ザルツブルク時代の成功作をヴァイオリンの弾き振りで。序曲は輝かしいニ長調の『フィガロの結婚』だ。
 篤き信望の物語は、各分野の史上の傑作とともに世代を繋ぎ、こうして高く挑みを続けて行くのである。


2025年6月定期演奏会より
2025年6月定期演奏会より ©上野隆文





青澤隆明(あおさわ・たかあきら)/東京外国語大学英米語学科卒。高校在学中からクラシックを中心に音楽専門誌などで執筆。評論、エッセイ、インタビューを、新聞、一般誌、演奏会プログラムやCDなどに寄稿。主な著書に『現代のピアニスト30-アリアと変奏』(ちくま新書)、ヴァレリー・アファナシエフとの『ピアニストは語る』(講談社現代新書)、『ピアニストを生きる-清水和音の思想』(音楽之友社)。


6月定期演奏会

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6月18日[木]19:00開演
サントリーホール
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6月21日[日]15:00開演
Bunkamura オーチャードホール

指揮・ヴァイオリン:ピンカス・ズーカーマン


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モーツァルト/歌劇『フィガロの結婚』序曲
モーツァルト/ヴァイオリン協奏曲第3番
モーツァルト/交響曲第40番


【聴きどころ】6月は名匠ピンカス・ズーカーマンが招かれる。長年にわたりヴァイオリニスト、ヴィオリストとして、さらに指揮者として世界最高峰のステージで活躍してきた大家が、オール・モーツァルト・プログラムで東京フィルと共演する。2025年に続いて今回も「弾き振り」が含まれるのがうれしい。豊潤な美音を堪能できることだろう。モーツァルトがウィーンで絶頂期を迎えていた頃に書かれた歌劇『フィガロの結婚』序曲、故郷ザルツブルクで宮廷楽団のヴァイオリニストを務めていた時期のヴァイオリン協奏曲第3番、後期三大交響曲で異彩を放つ短調作品の交響曲第40番。この3曲でさまざまな角度からモーツァルトの核心に迫る。とりわけ弦楽セクションにとってズーカーマンとの共演から得られるものは大きいはず。東京フィルがズーカーマンの色に染まる。
文:飯尾洋一


1回券料金

  SS席 S席 A席 B席 C席
チケット料金

¥15,000

¥10,000
(\9,000)

¥8,500
(\7,650)

¥7,000
(\6,300)

¥5,500
(\4,950)

※( )…東京フィルフレンズ、WEB優先発売価格(SS席は対象外)



主催:公益財団法人 東京フィルハーモニー交響楽団
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(公演創造活動))| 独立行政法人日本芸術文化振興会
協力:Bunkamura(6/21公演)

公演カレンダー

       

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