ホーム > インフォメーション > 【特別記事】2024シーズン開幕!1月定期演奏会の聴きどころ「マエストロ・プレトニョフ、北欧へのイマジネーション」

インフォメーション

2023年11月14日(火)

“全身音楽家”マエストロ・プレトニョフのユニークな創造世界



©Rainer Maillard / DG

 今年9月、ミハイル・プレトニョフが弾くラフマニノフのピアノ協奏曲を聴いた。時代順に全協奏曲を辿るチクルスで、私が聴いたのは第3番、第4番、パガニーニ・ラプソディーと、アメリカ時代の作品を弾き進む第2夜だが、ラフマニノフの優雅さが色めき立つ、きわめて鮮烈な演奏だった。ラフマニノフ生誕150周年にして没後80周年の2023年、ひとつのエポックをなすコンサートと言ってよいのではないか。
 いつ聴いても驚かされるのでそのつもりで臨むのだが、それでも毎度舌を巻くのがプレトニョフのピアノである。しなやかな表情で、テンポも振幅も自在にとりながら、すべてをていねいに見通し、効果的に色づけてじっくりと描き出す。彼自身の現在の心技体にふさわしく知性と優美さが発動し、ラフマニノフの作品を細部まで存分に、しかもたいそう個性的な表情で人間的に発露させていくのは、相変わらずの傑出した才能だ。時代を画したピアニストにして、精力的な指揮者、作曲家、さらにはオーケストラの設立を含めた全方向の活動が有機的に繋がり、独自の確信を貫くのが“全身音楽家”ミハイル・プレトニョフのユニークな創造世界なのである。
 しかし、それにも増して、というのは些か大げさだとしても、少なくとも応分の魅力を放っていたのが、高関健が指揮した東京フィルの演奏だった。マエストロ・プレトニョフとの長年の信頼あってこそだろう、ピアニストとしての彼独特の表現にも上手に寄り添いつつ、機敏なアンサンブルで応答していく。高関健の指揮が、実に緻密かつ鮮明で、アメリカ時代のラフマニノフに相応しく、20世紀の響きを鋭敏に抽出していた。緩急自在なプレトニョフの呼吸に応えるだけでなく、その柔らかなピアノの音と対照的に、ときにはドライな響きを広げるようにして。それこそ、指揮者とオーケストラ、ソリストの相互理解と信頼が存分になければ、決してなし得ない達成だろう。



新年のオープニングを飾る北欧プログラム



指揮者として東京フィルに登場してから
20年を迎えたマエストロ プレトニョフ
©上野隆文

 その興奮も冷めやらぬところに、東京フィルの新シーズンのラインナップが発表された。新年のオープニングを颯爽と飾るのが、マエストロ・プレトニョフとの北欧プログラムである。シベリウスの組曲『カレリア』と交響曲第2番の間に、人気の新鋭マルティン・ガルシア・ガルシアをソリストに迎えたグリーグのピアノ協奏曲が組まれている。
 特別客演指揮者としては2015年春からだから9年目に入ろうというところだが、プレトニョフが東京フィルを初めて指揮してから今年2023年が20年の節目だったはず。名コンビがレパートリーの大きな柱としてきたのはロシアの音楽で、チャイコフスキーからプレトニョフ自作にいたるまで、演奏機会の稀な作品も含めて多彩に織りなしてきた。さらにドヴォルジャークやスメタナへも汎スラヴ的なイマジネーションを広げつつ、もうひとつ北欧のシベリウスとグリーグの方角でも演奏を重ねている。
 近くは2018年2月、シベリウスの交響詩『フィンランディア』、組曲『ペレアスとメリザンド』と交響曲第7番に、牛田智大の独奏でグリーグのピアノ協奏曲を合わせたプログラムが、今回の演奏会の前章となるだろう。グリーグと言えば、2005年秋、ノルウェー出身のレイフ・オヴェ・アンスネスとの共演が懐かしく思い出されるが、あのときはシベリウスの交響詩『吟遊詩人』と、もうひとつのプログラムでは『レンミンカイネンの帰郷』も併せて採り上げていた。




ピアニスト、マルティン・ガルシア・ガルシアの魅力



マルティン・ガルシア・ガルシア
の演奏にも期待が高まる
ⓒDarek Golik (NIFC)

 今回ソリストとして登場するマルティン・ガルシア・ガルシアは、2021年のショパン・コンクールで話題をさらったスペインの新鋭で、そこでもいわゆるラテン系とみられる大らかさで、伸びやかな演奏を聴かせていた。結果第3位を得たことで来日の機会も多く、東京フィルとも昨秋に、同コンチェルト賞も受けたショパンのヘ短調の協奏曲第2番と、ベートーヴェンの『皇帝』を共演している。湧き上がる情感に即興的に身を任せるところがあり、持ち前の喜びに溢れた生命感がいまの彼の魅力だろう。若手ピアニストを積極的に支援してきた偉才プレトニョフが、いきのいい彼の良さをどう引き出すかが注目されるところだ。



北欧音楽が湛える歴史と情熱



エドゥアルド・グリーグ
(1843-1907)


ジャン・シベリウス
(1865-1957)

 さて、北ヨーロッパ諸国は独自の文化をもちつつ複雑な歴史を辿ってきたが、近代になって民族主義が高揚すると、ノルウェーからはグリーグが頭角を現し、追ってフィンランドのシベリウス、デンマークのニルセンが国際的な注目を集めていった。
 グリーグが1868年に書いたピアノ協奏曲は、シューマンをはじめとするドイツ・ロマン主義の影響のもとに出発し、スカンディナヴィアの民族主義を唱えていった時節、自らの楽器ピアノに託して輝かしい抒情を情熱的に謡い上げた名作である。
 シベリウスはスウェーデン系だが、フィン人の妻アイノの影響も大きく、ロシアに抗するフィンランド国民の意識を支える愛国的な作品で名声を博した。1892年に新婚旅行でカレリア地方を旅したが、そこはフィンランド伝承の抒情詩「カレワラ」の発祥の地であり、ロシアとの国境にあるだけに独立の気運が高い場所でもあった。翌年、カレリアの歴史を描く野外劇のための依頼を受けて作曲した劇音楽『カレリア』のなかから、自らより抜いたのが「序曲」op.10、そして「間奏曲」、「バラード」、「アラ・マルチャ」からなる3曲構成の組曲op.11だ。
 一方でシベリウスは、純粋器楽交響曲の創作へと乗り出し、世紀をまたいで2作の交響曲を世に問う。1901年から取り組んだ第2番ニ長調op.43では、イタリアと地中海に旅した際に霊感を得て、陽光、青空、溢れる喜びに充ちた5楽章の大規模交響曲を考えていたようだが、最終的には4楽章構成のうちに、光明を描くだけでなく暗部との葛藤を勝利に結ぶかたちにまとめられた。「暗闇から光明へ」というドラマの象徴たるベートーヴェンの第5番と同じく、後半2楽章が繋げて演奏される力作である。
 全体として、プレトニョフならではの読みと愛着が随所に示される、抒情とドラマに充ちたコンサートとなるに違いない。いずれも新鋭作曲家が鮮やかに独自の進境を拓いた意欲作だけに、新しいシーズンの幕開けに相応しく、未来を希求する熱い音楽冒険となるだろう。



©上野隆文





青澤隆明(あおさわ・たかあきら)/1970年東京生まれ。東京外国語大学英米語学科卒。クラシック音楽を中心に執筆。放送番組の構成・出演のほか、コンサートの企画制作も広く手がける。主な著書に『現代のピアニスト30-アリアと変奏』(ちくま新書)、ヴァレリー・アファナシエフとの『ピアニストは語る』(講談社現代新書)、『ピアニストを生きる-清水和音の思想』(音楽之友社)。


1月定期演奏会 

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1月23日[火]19:00開演
サントリーホール
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1月25日[木]19:00開演
東京オペラシティ コンサートホール
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1月28日[日]15:00開演
Bunkamura オーチャードホール

指揮:ミハイル・プレトニョフ(特別客演指揮者)
ピアノ:マルティン・ガルシア・ガルシア*
(2021年第18回ショパン国際ピアノコンクール第3位)


シベリウス/組曲『カレリア』
グリーグ/ピアノ協奏曲*
シベリウス/交響曲第2番


特設ページはこちら


1回券料金

  SS席 S席 A席 B席 C席
チケット料金

¥15,000

¥10,000
(\9,000)

¥8,500
(\7,650)

¥7,000
(\6,300)

¥5,500
(\4,950)

※( )…東京フィルフレンズ、WEB優先発売価格(SS席は対象外)


1回券発売日

最優先(賛助会員・定期会員)

2023年12月9日(土)10時~

優先(東京フィルフレンズ)

2023年12月16日(土)10時~

一般発売

2024年1月5日(金)10時~

WEB優先発売期間 / 期間中はどなたさまも定価の1割引き!

12月16日(土)10:00 ~ 2024年1月4日(木)23:59

※東京フィルチケットサービスはチケット発売初日の土日祝のみ10時~16時営業


主催:公益財団法人 東京フィルハーモニー交響楽団
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(創造団体支援))| 独立行政法人日本芸術文化振興会(1/23公演)
協力:Bunkamura(1/28公演)

公演カレンダー

東京フィルWEBチケットサービス

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