ホーム > インフォメーション >  対談 美しい音楽のカタチ【ナターリヤ・ポリュリャーフ × 太刀川英輔】

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2014年1月16日(木)





全ての生物は美を感じて生きている

──太刀川さんは来年度の定期会員券を購入してくださいましたが、年8回聴きたいと思ってくださったきっかけは何でしたか。

太刀川 : んー、奥行きかもしれないですね。コンサートを聴く体験って、映画とライブの間ぐらいの感覚があるんですよね。物語が紐付いているし、ある種のはっきりした情景を目指して作曲している人がすごく多いので、情景が変わったり物語が変わったり展開して、読み解くのはちょっと大変なんだけど、読み解こうと思うとおもしろいんですよね。なんでここでこういう展開にしたのかっていう理由があって、全てが物語に結びついていて。その物語の部分を理解したいという感覚ですね。だから聴きながら調べてますね。

ナターリヤ : 私も調べてます。プログラムとか見たりしてますよ。

太刀川 :別の資料を持って行ったりもしますよね。

ナターリヤ : 私にはもうひとつの聴き方があって、10年以上ヨーガをやっているんですが、ヨーガでは、全てがフラットになって、圧倒されて、流される状態がすごくいいんです。コンサート会場でも何も考えないでただ音楽に導かれていると、涙が出てきたり、すごく感情的なことが出てしまう。それがいいんですよ。そんな「身体を綺麗にする」「頭を綺麗にする」っていう聴き方もあると思いますね。せっかくだからちゃんと勉強しようと思って一生懸命聴くのも、逆にスイッチオフにして音楽に身を任せてしまうのもいい。

太刀川 : そこに音楽を読み解く力が加わるとまた楽しみ方が違うんでしょうね。


──お二人は音楽の寿命の長さについてどう思われますか。数百年前の曲がいまだに演奏されていることについて。

ナターリヤ : なんでそんな音楽が存在するのか。それを考えると頭がおかしくなってきますよね。ただ、美という視点から思うのは、美しさっていうものは死なないんじゃないかと思いますよ。

太刀川 :まったくもってそう思います。お花ってきれいじゃないですか。お花ってなんできれいかって、人間がきれいだって思う以外にも、実はハチを誘惑して吸引して花粉を遠くに運ぶためにきれいなんですよね。つまり、美を理解してるのは人だけじゃないんです。ハチも理解している。そうでなければお花がきれいである意味がないんですから。全ての生物が美を感じるセンサーを持っていて、そこに安定とか生存に対する確信をもってそっちに飛んで行くんですよね。なんでその調和を美しいと思ってしまうんだろうかっていうことを考えるのって、実はすごく生命的なところにつながってるはずだと思うんです。人はそれを表現することを覚えて、美をつくることをやってきたわけです、音楽を含めて。でも、他の生物はそんなことを考えてなくて、生命の安全装置としての美の認識があるんだと思うんです。

ナターリヤ : すばらしいですね。要するにビューティフィケーションをするために、古いものを捨てて、常に身体をきれいにしている必要があると。生命をつないでいくためには、美が必要ということですね。鳥とかもオスが華やかな羽をもっていて、声が強い方にメスが引き寄せられるわけですから。生物的にもひかれあう部分を強調して、生命をつないでいますから、本能的に美や美しいものを選んでいるんですよ。私は、女性の顔を研究していたことがあるんですが、人間には美しさや比率などを感じている脳の部分があるんです。それがなんなのか、なぜなのかというところは、まだ脳の解明がされてないのでわからないところではありますが。でも、カタチってすごく大事ですね。音楽にカタチはあるんでしょうか。

──音楽でカタチに相当するのは、リズムや音程ですね。高いところ、低いところと音の形をつくっているという意味では音楽にも輪郭がありますね。ハ長調にはこんな意味があるとか、この和音にはこういう意味があるなど、記号的に曲を読み解いていくこともできます。

太刀川 : そういうことが決まってるんですね。そういう点で考えるとバッハも研究者っぽいですよね。音階というものの構造をどれだけ解析していくかによって、どれだけ美に近づけるのかという挑戦のようにも聞こえる。だから彼の音楽には彼の人間性とかは別に入っていなくて、むしろ音楽という調和がいったい何を目指せるのかという科学的なアプローチに聞こえます。音楽的体験もそんな感じに聞こえますし。

ナターリヤ : 昔の貴族、たとえばフランスですと、高貴な家にはオーケストラルームがあったじゃないですか。そこで演奏することを前提に、その場所でもっともよい響きを得るにはどういう音楽をつくればいいのかっていう、そういうシンプルな視点からの作曲活動も当然あるんでしょうね。

──宮廷の中で楽しむ音楽からコンサートホールで楽しむ音楽になると、ホールに合わせて音楽もすごく大きくなったんです。ショパンのピアノ協奏曲をサロンで聴くのと、コンサートホールで聴くのとでは全く違ってきますね。

太刀川 : たしかにそうかも。僕も事務所でショパンかけてるけど、サイズはちょうどいいかもしれないね。マーラーとかだと聞きながら仕事できない感じがするもん(笑)。


音楽を浴びてきれいになる

──いま、ナターリヤさんと一緒に「音の美容液」という企画について話をしているんです。細胞を活性化したり、新陳代謝を良くすることが肌ツヤを良くすることにつながりますよね。「音楽を浴びて音楽で感動する」ことで細胞活性化や新陳代謝を促して、内面からきれいになるために何かできないかと探っているんです。

ナターリヤ : 音楽を聴くと神経細胞が8~13ヘルツのアルファ波を発生するので、電子伝達が強まるんです。アルファ波はATP合成酵素に働きかけるので、ミトコンドリアが活性化してエネルギーを作り出すことになるんですが、そうすると細胞周期がどんどん進んで若返る効果があるんです。老廃物を外に出す効果とかが高まるんですね。そういった観点から音楽と美容の新たな関係について考えています。

太刀川 : とてもおもしろいですね。僕も最近、化粧品をつくったんですよ。

ナターリヤ : え? どういったものですか?

太刀川 : 化粧品のブランドをつくったんですよ、「warew」ってブランドなんですけど。これは日本をテーマにした化粧品で、もちろん内容物がいいということにこだわってはいますが、そこにフォーカスしているんじゃなくて、それを体験する所作を設計するところにフォーカスをあてているんです。毎朝この所作をするとあなたはきれいになるという、その所作をきちんとつくりこんで、毎朝自分を気持ちよくメンテンナンスする時間をもつことがテーマなんです。

──「音の美容液」でも、この演奏会やプログラムだったらこのファッションで、このメイクアップとこんなコーディネートで、といったご提案をしたいと考えていまして、「定期的に演奏会に出かける日を毎回デザインしていく」という点で関わりがありそうですね。

ナターリヤ : 人生は毎日デザインなんですね。

太刀川 : 美に触れ続けると長生きしそうだもんね。



ナターリヤ・ポリュリャーフ/ 株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所アソシエイト リサーチャー。
旧ソビエト連邦(現ロシア連邦)出身。ウクライナ、ベラルーシにルーツを持つ。東京大学医科学研究所 (The Institute of Medical Science, The University of Tokyo) にて研究者生活を送り、お茶の水女子大学で理学博士号を取得後、産業技術総合研究所を経て、2006年に株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所に入社。遺伝子情報の解析をしながら、老化防止のメカニズムの解明と応用を追求している。現代社会でキャリアを積む女性向けのアンチエイジング戦略「Pre-emptive transformation」で、“美容”や“不妊”の対策といった観点から研究を行う。

たちかわ えいすけ / NOSIGNER代表、デザイナー。
慶應義塾大学大学院理工学研究科にて、デザインを通した地域再生と建築とプロダクトデザインの研究に携わり、社会に機能するデザインの創出と、デザイン発想を体系化し普及させることを目標として活動している。新領域の商品開発やコンセプトの設計、ブランディングを数多く手掛け、数多くの国際賞を受賞。経済活動としてのデザインのみならず、科学技術、教育、地場産業、新興国支援など、既存のデザイン領域を拡大する活動を続けている。災害時に役立つデザインを共有する「OLIVE PROJECT」代表。


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