ホーム > インフォメーション > 【特別記事】名誉音楽監督チョン・ミョンフン&東京フィル2025年10月定期演奏会に寄せて

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2025年9月3日(水)

10月定期演奏会

強烈な印象を残した1995年の出会い


チョン・ミョンフン(名誉音楽監督)
チョン・ミョンフン(名誉音楽監督)
Ⓒ上野隆文


 チョン・ミョンフンという音楽家のことを考えるとき、私がまず思い出すのはちょうど30年前の1995年という年である。戦後50年の節目であり、阪神大震災や地下鉄サリン事件など、さまざまな衝撃に列島が揺さぶられた年だった。
 そんな年の9月にチョン・ミョンフンが英国のフィルハーモニア管弦楽団と来日した。当時チョンは専属契約を結んだドイツ・グラモフォンからメシアンやサン=サーンス、ビゼーなどのカラフルなレパートリーで注目すべき新譜を次々に出し、時代の寵児というべき活躍を見せ始めていた。当時浪人中だった私はコンサートには行けなかったものの、NHKのラジオ中継でサントリーホールでの公演に耳を傾けた。
 前半のショスタコーヴィチの交響曲第6番から躍動に脈打つ演奏だった。聴衆の熱狂に応えて、終楽章がもう一度繰り返された記憶があるのだが、実際はどうだっただろう。とにかく、そのときのチョン・ミョンフンとの出会いは強烈そのもので、次はぜひ実演に接したいと思った。
 翌96年11月、その願いは叶えられた。チョンが今度はロンドン交響楽団と来日したのだ。東京公演は、プロコフィエフのバレエ音楽『ロメオとジュリエット』とマーラーの交響曲第1番『巨人』をメインとした2つのプログラムが組まれた。大学生の経済力で両方は聴けない。さんざん迷った挙句、私は後者を選び1万6000円のチケットを奮発した。
 その甲斐はあったと今でも思っている。マーラーの『巨人』はその後数え切れないほど実演に接したけれど、チョン&ロンドン響のこの夜の演奏ほど揺さぶられたことはない。フィナーレでの畳みかけるような迫力は言語に絶するほどで、椅子から転げ落ちそうになったほど。また、前半に演奏されたドヴォルザークの交響曲第8番では、東洋的ともいえる間合いや静謐な美に心打たれた。終演後、私は居ても立っても居られなくなり、チョンのサインをもらいに楽屋口に向かったことをよく覚えている。
 この2回のコンサートだけでも、チョン・ミョンフンという人は私に絶大なインパクトを残した。しかし、2000年に私がドイツに渡ってからは、彼の実演に触れる機会がなかなかなかった。数少ない例のひとつは、2015年春、当時音楽監督を務めていたフランス放送フィルハーモニー管弦楽団とベルリンのフィルハーモニーに客演した演奏会だ。マキシム・ヴェンゲーロフと共演したチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲、そしてベルリオーズの幻想交響曲というプログラム。15年近い任期の最後における「幻想」では、彼特有の火を吹くような激烈さの中にも円熟味を感じ、うれしい「再会」を果たした気持ちになった。


第1000回定期演奏会
東京フィルにとって記念碑的演奏のひとつ、第1000回定期演奏会メシアン『トゥランガリーラ交響曲』
Ⓒ上野隆文


 それからさらに10年が経過した。私にとってチョン・ミョンフンという音楽家との最初の強烈な出会いと、その後の長い空白期間を埋めるために、東京フィルハーモニー交響楽団の存在は欠かすことができない。2001年に東京フィルと初共演して以来、25年にわたって関係を深めてきたというから驚く。それもベートーヴェンの交響曲ツィクルスから数々のオペラの演奏会形式上演まで、豊穣な成果を残した。
 チョンの過去のインタビュー記事を読むと、コミュニケーションに徹底的に時間をかけること、それゆえ共演するオーケストラの数を極力絞ってきたことを率直に語っている。そのパートナーのひとつが「日本の家族」と彼が呼ぶ東京フィルであり、イタリアではミラノ・スカラ座フィルやヴェネツィアのフェニーチェ座なのだろう。世界中をせわしなく飛び回るのではなく、地域的に的を絞った、それゆえ濃密な仕事を続けてきたチョンは、結果的にミラノ・スカラ座音楽監督というとてつもないポストをアジア出身者として初めて手にすることになった。楽団の人事に普段さほど関心のない私でも、このビッグニュースには心躍った。



ヨーロッパ・ツアー2025に向け


小曽根真
ピアノ:小曽根 真 ⒸYosuke Suzuki

 この10月の定期演奏会は、名誉音楽監督としてチョンが随行するヨーロッパ・ツアーのプログラムAと同内容で、筆者はベルリンのフィルハーモニーで聴くことになる。プロコフィエフの『ロメオとジュリエット』は、言うまでもなくチョンの代表的なレパートリー。これをシェークスピア恋愛悲劇の20世紀アメリカ版ともいえるバーンスタイン『ウエストサイド物語』の「シンフォニック・ダンス」とのカップリングで聴けるのはうれしい。
 この2作品をつなげるガーシュウィン『ラプソディー・イン・ブルー』でソロを務める小曽根真は、近年活躍の場をドイツにも広げている。昨年はベルリン放送交響楽団へのデビューコンサートで自作のピアノ協奏曲『もがみ』を披露し、好評を博した。
 思えば、1995年の指揮者としての初来日は、チョン・ミョンフンにとって音楽家としての転機ともいえる出来事だった。それまで日韓の不幸な歴史へのわだかまりを抱えていた彼が、日本の聴衆の大喝采を前に「ついに受け入れられたとの手応えに涙が出てきた」と後に語っているからだ。あれから30年、時間をかけて共同作業を重ねてきた東京フィルとチョンが、ヨーロッパ・ツアーでその成果をどのように開花させるのか、いまから楽しみでならない。



ヨーロッパ・ツアーの最初の公演地、ベルリン・フィルハーモニー
ヨーロッパ・ツアーの最初の公演地、ベルリン・フィルハーモニー ⒸHeribert Schindler



中村真人(なかむら・まさと)/音楽ジャーナリスト、フリーライター。1975年、神奈川県横須賀市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、2000年よりベルリン在住。著書に『明子のピアノ』(岩波ブックレット)、監修を務めた『おとうさんのポストカード』(講談社)などがある。


10月定期演奏会 

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10月5日[日]15:00開演
Bunkamura オーチャードホール
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10月16日[木]19:00開演
サントリーホール
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10月20日[月]19:00開演
東京オペラシティ コンサートホール

指揮:チョン・ミョンフン
(東京フィル 名誉音楽監督)
ピアノ:小曽根 真*


特設ページはこちら


バーンスタイン/『ウエスト・サイド物語』よりシンフォニック・ダンス
ガーシュウィン/ラプソディー・イン・ブルー*
プロコフィエフ/バレエ音楽『ロメオとジュリエット』より

東京フィルヨーロッパ・ツアー2025(10/28~11/11)プログラムA
「東京フィルハーモニー交響楽団 ヨーロッパ・ツアー2025」の開催について
https://www.tpo.or.jp/information/detail-europetour2025.php


1回券料金

  SS席 S席 A席 B席 C席
チケット料金

¥15,000

¥10,000
(\9,000)

¥8,500
(\7,650)

¥7,000
(\6,300)

¥5,500
(\4,950)

※( )…東京フィルフレンズ、WEB優先発売価格(SS席は対象外)



主催:公益財団法人 東京フィルハーモニー交響楽団
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(公演創造活動))| 独立行政法人日本芸術文化振興会
協力:Bunkamura(10/5公演)

公演カレンダー

       

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