ホーム > インフォメーション > 【特別寄稿】5月定期演奏会の聴きどころ アンドレア・バッティストーニが綴るローベルト・シューマンとグスタフ・マーラー:幼時の記憶を呼び覚ます音楽

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2026年2月3日(火)

5月定期演奏会

5月定期演奏会には首席指揮者アンドレア・バッティストーニが登場。自身の編曲によるシューマンのピアノ曲『子供の情景』(世界初演)とマーラー「交響曲第4番」を取り上げます。夢見るような調べをふんだんに湛えた二つの作品を、マエストロはどのように奏でるのでしょう。


音楽史上もっとも偉大な作曲家の一人、シューマン


 音楽の勉強を始めた頃から、ローベルト・シューマンの音楽は、私のレパートリーの中で常に特別な位置を占めてきました。チェロを学んでいた若い頃、私は「民謡風の5つの小品」から協奏曲まで、チェロのために書かれた多くの作品に取り組みました。また、若い音楽家への助言や批評家としての文章など、シューマンの著作はいずれも興味深く、深い感銘を与えてくれました。さらに「交響曲第4番」は、私が指揮者としてデビューした演奏会で取り上げた作品でもあります。
 シューマンは、音楽史上もっとも偉大な作曲家の一人だと思います。その遺産は、ロマン派の中でもとりわけ独創的な作品群として、今なお強い存在感を放っています。加えて私が共感するのは、「音楽は物語である」という考えです。シューマンの音楽は常に何かを語りかけ、秘密めいた物語をほのめかしますが、ベルリオーズやリストに見られるような、音楽とは無縁の事柄をいかにもそれらしく描写するものではありません。詩と響きの対話を、繊細かつ示唆的な方法で掘り下げているのです。



「小品」の天才


ローベルト・シューマン(1810-1856)
ローベルト・シューマン(1810-1856)。
妻クララとともに

 小品の名手であるシューマンは、親しい仲間と語らうような親密な音楽で真価を発揮します。ソナタや交響曲といった、これぞ「クラシック」という楽曲になると、時に力が入りすぎて発想をまとめきれなくなることもありますが、ピアノの小品集のような形態では常に優れた成果を生み出しました。それは即興を、あるいはイメージやテキストから呼び覚まされた感興を、そのまま書き留めたメモのような音楽です。
 有名な「子供の情景」は、シューマンが小品でこそ才能を発揮することを示す代表例です。子供時代のささやかな記憶に触発された13の小品はいずれも、簡潔さを超える表現の深さを備えています。そこで描かれるのは、好奇心が喜びに、涙が笑顔へと変わるような、子供の気まぐれで移ろいやすい姿です。
 私たち大人は、こうした変化を表面的なものとして捉えがちですが、痛ましい病歴を持つシューマンにとって子供とは、現実と幻想のあいだを生きるロマン派芸術家の原型でした。「子供の情景」の子供は理想化された存在です。物語の世界で進軍ラッパを吹き鳴らしながら木馬にまたがっていたかと思えば、自分の手に負えない問題に直面して真顔になる。突然の知らせに興奮して走り回っていたかと思うと、幸福な夢を見ながら眠りにつく。その姿が音楽に映し出されています。



オーケストレーション


 聴き手の想像力をかき立てるシューマンのピアノ書法に魅了された私は、この偉大な作曲家へのオマージュとして、その独自の音の世界を損なうことなく、この名曲を管弦楽曲にしようと考えました。編成は、シューマン自身が用いたであろう中規模のオーケストラです。トロンボーンやハープ、華やかな打楽器は用いず、室内楽的な親密さを保つ響きを目指しました。



マーラーと交響曲第4番


グスタフ・マーラー(1860-1911)
グスタフ・マーラー(1860-1911)

高橋 維
マーラー「交響曲第4番」で
ソプラノ独唱を担う高橋 維

 今夜の演奏会は、子供心をどこかに残した人々に、幼時の記憶が語りかけるような流れで進みます。その点でマーラーもまたシューマンに引けを取りません。マーラーは生涯を通して子供時代の記憶に向き合い、おとぎ話の世界と悪夢、天上的な美しさと恐ろしいイメージの両面を音楽に描きました。
 名高い交響曲第4番もその一例です。もとは第3番のための歌曲に由来し、そこから他の楽章へとさかのぼる形で作曲されました。ファンファーレやグロテスクな場面、濃厚なロマン性といったマーラーらしい要素が、ハイドンやシューベルトを思わせる新古典的な雰囲気と結びついています。
 この曲にも独特の緊張感があります。甘美な旋律は、いつ何時皮肉な笑みへと変わるかもしれません。第2楽章で、わざと高く調弦したヴァイオリンによって象徴される「死」の影は、その後も消えることなく、理想をあざ笑い、ソプラノが歌う小さな天使たちの世界さえ揺さぶります。
 この交響曲では、壮大で英雄的なポスト・ワーグナー的要素は後景に退いています。そこに響くのは、剣を取って争う世界ではなく、失われた子供時代の余韻です。手にする剣があるとしても、せいぜい木のおもちゃの剣。人はそれを手に、心の中で自分自身と向き合いながら、成熟への最初の小さな闘いを経験するのです。





松村哲哉(まつむら・てつや)/(翻訳家)慶應義塾大学経済学部卒。27年の会社勤務を経て、現在はおもにクラシック音楽に関する書籍の翻訳を手がける。主な訳書に『指揮者は何を考えているか』『オーケストラの音楽史』『音楽史を変えた五つの発明』(以上、白水社)、『若い読者のための音楽史』(すばる舎)、など。


5月定期演奏会

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5月13日[水]19:00開演
サントリーホール
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5月17日[日]15:00開演
Bunkamura オーチャードホール

指揮:アンドレア・バッティストーニ
(東京フィル 首席指揮者)
ソプラノ:高橋 維*


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シューマン(バッティストーニ編)/『子供の情景』〈世界初演〉
マーラー/交響曲第4番*


【聴きどころ】5月は首席指揮者アンドレア・バッティストーニが指揮台に上る。前半で演奏されるのは、バッティストーニ自身オーケストラ編曲によるシューマン『子供の情景』。今回が世界初演となる。原曲のピアノ曲は有名だが、これをオーケストラで演奏するという発想は新鮮だ。「トロイメライ」や「詩人は語る」など、オーケストラならではの表現によって違った魅力が生まれてくるのではないだろうか。作曲家としての顔も持つバッティストーニがどんなオーケストレーションを施すのか、実に興味深い。今年、第一子をもうけたことが編曲のきっかけになっているのだろうか。後半はマーラー交響曲第4番。終楽章ではソプラノの高橋維が天上の歌をうたう。このうえもなく清澄な音楽に身を委ねたい。
文:飯尾洋一



1回券料金

  SS席 S席 A席 B席 C席
チケット料金

¥15,000

¥10,000
(\9,000)

¥8,500
(\7,650)

¥7,000
(\6,300)

¥5,500
(\4,950)

※( )…東京フィルフレンズ、WEB優先発売価格(SS席は対象外)



主催:公益財団法人 東京フィルハーモニー交響楽団
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(公演創造活動))| 独立行政法人日本芸術文化振興会
協力:Bunkamura(5/17公演)

公演カレンダー

       

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