ホーム > インフォメーション > 【特別寄稿】3月定期演奏会の聴きどころ「カール・オルフ『カルミナ・ブラーナ』によせて――ミュンヘンを歌う現代の詩人」 」

インフォメーション

2024年1月26日(金)

3月定期演奏会には首席指揮者アンドレア・バッティストーニが登場。待ち望まれた大曲、カール・オルフ『カルミナ・ブラーナ』をメインに、20世紀の2人の作曲家、レスピーギとオルフが生み出した中世と現代の架け橋ともいうべき2作品を取り上げます。昨年12月、バイエルン州立歌劇場への出演で作曲家オルフゆかりの土地ミュンヘンに滞在中のマエストロから、当地を舞台に生まれた大作『カルミナ・ブラーナ』によせたエッセイが届きました。




カール・オルフ『カルミナ・ブラーナ』の世界を掴み取るために



カール・オルフ(Carl Orff , 1895-1982)
ミュンヘンに生まれ同地に没した
©Anne Kirchbach


マリエン広場(Marienplatz)にある新市庁舎。
オルフが創作した『世界劇』のファンタジックな
世界が見てとれるだろう
©Adobe Stock


マリエン広場の新市庁舎にある機械式時計
(Glockenspiel) ©Adobe Stock

 カール・オルフは、世に名高い『カルミナ・ブラーナ』と同じほど、バイエルンの民間伝承とドイツ南部のこの地域で親しまれてきた童話の登場人物たちに題材を得た一連の劇作品(オペラ『月』『賢い女』『ベルナウアーの女』他、多作品)においても、彼の生地であるバイエルン、ミュンヘンを歌う現代の詩人であった。
 オルフの代表作である『カルミナ・ブラーナ』の精神を直観的に把握したいと望むなら、ミュンヘンの中央部にあるマリエン広場を訪れるといい。
 有名なカリヨンの仕掛け時計を備えた堂々たるネオ・ゴシック様式の新市庁舎の正面で、それを見つけるだろう。
 ファサードを飾る数々の彫像を注意深い眼差しで検分することは、オルフの作品がその舞台としているおとぎ話の世界に近づくのと同義である。市庁舎の数多の小尖塔から、仕掛け時計の人形たちの輪舞に至るまで、オルフが『カルミナ・ブラーナ』の中で見事に描いてみせた聖と俗の、敬虔さと異教の、幻想と陳腐さの非凡な混淆の中で、中世のおとぎ話を起源とする、かの “世界劇 ”(訳注:オルフは音楽・言語・舞踏の統合を目指した自身の劇作品にこう名付けた)の舞踏を我々は目にするのである。
 市庁舎と同じように、このカンタータは、外面のきらびやかさという見かけの下に、宗教的とは言えないまでも聖なる色合いを持つ世界の叙述の深みを隠している。いわば、宇宙的かつ生気論的汎神論に裏打ちされた神秘主義である。
 この作品はもちろん、聴衆に注ぎ込む表面的なリズムによる興奮、オーケストラと合唱の熱狂的な音の輝かしさによって広く知られている。だがこの曲はさらに、とりわけ、密やかな言葉と深い内省をもって寛大な愛の喜びを描く箇所で、平和と詩のオアシスに引きこもることもできる。




あらゆる様式を駆使した折衷主義者カール・オルフ


 音楽的観点からすると、オルフは20世紀の偉大な折衷主義の一派に属している。つまり、彼は嗜好によって特定の要素を軽んじたりしないし、聴衆を驚かせ惹き込むために彼が使いこなせない音楽様式は存在しない。オペラのアリアからビヤホールの歌まで、ジャムセッションからグレゴリオ風の合唱まで、この作曲家は軽やかに移り行く。
 そしてたとえオルフにかけられた、ナチスへの協力者であるという疑いが決して完全には晴れなかったとしても、多くのリズムのパッセージにジャズの強い刻印があることに気づくだけで、彼を疑惑から解放するには十分だろう。̶ナチスが好んだのはワーグナーやリヒャルト・シュトラウス、デカダンス的なロマン派の伝統の賛美だったが、オルフはそこから明らかに、当時のより革新的な音楽へと移行していた。ストラヴィンスキー(当時の政権に最大限に嫌悪された作曲家)の記憶や、まさにオルフ自身が劇場やコンサートホールに導入した、多くの聴衆に好まれていた『退廃芸術』である。




現代と中世という遠い時代が互いに手を差し伸べている


 巨大なフレスコ画には巨大な道具が必要であり、『カルミナ・ブラーナ』が要求する楽団編成は、オーケストラと合唱によるレパートリーの中でも最も巨大なものの一つである。大人数の(大人の)合唱、児童合唱、3人の独唱者、打楽器を多く含む巨大なオーケストラと2台のピアノ。器楽的な面でいえば『カルミナ』は、オルフが子供や学生相手の音楽教育活動(シュールヴェルク)を通して培った、打楽器のリズムと色彩が豊かな音楽様式の大人バージョンというべきもので、ここでも太鼓や木琴、シンバルやタンバリン、グロッケンシュピールやチェレスタやピアノの音が、間違えようのない独特な魅力のリズムのパレットを再び作り出している。現代と中世という2つの遠い時代がここでは、人間らしさに満ちた打ち解けた喜びの現れの中で互いに手を差し伸べているように感じられ、その音楽言語は、踊ること、物語を語ること、古の伝説に即興で歌をつけること、これらの行為と共に音を奏でるという最も原初の音楽行動に端を発している。
 オルフはおそらく、自身を古代の音楽家と為すことで、未来の音楽の鍵を発見したのだろう。



世界の歌劇場で活躍するマエストロ。声楽と合唱を伴う大規模な管弦楽作品は待望のプログラムだ ©K. Miura



3月定期演奏会 

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3月10日[日]15:00開演
Bunkamura オーチャードホール
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3月13日[水]19:00開演
東京オペラシティ コンサートホール
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3月15日[金]19:00開演
サントリーホール

指揮:アンドレア・バッティストーニ
(東京フィル 首席指揮者)
ソプラノ:ヴィットリアーナ・デ・アミーチス*
カウンターテナー:彌勒忠史*
バリトン:ミケーレ・パッティ*
合唱:新国立劇場合唱団*
児童合唱:世田谷ジュニア合唱団*


楽曲解説(PDF)


レスピーギ/リュートのための古風な舞曲とアリア 第2組曲
オルフ/世俗カンタータ『カルミナ・ブラーナ』*


特設ページはこちら


1回券料金

  SS席 S席 A席 B席 C席
チケット料金

¥15,000

¥10,000
(\9,000)

¥8,500
(\7,650)

¥7,000
(\6,300)

¥5,500
(\4,950)

※( )…東京フィルフレンズ、WEB優先発売価格(SS席は対象外)


主催:公益財団法人 東京フィルハーモニー交響楽団
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(創造団体支援))| 独立行政法人日本芸術文化振興会(3/15公演)
協力:Bunkamura(3/10公演)

公演カレンダー

東京フィルWEBチケットサービス

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