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2016年9月8日(木)

ニッポンの音楽教育の「不思議」
音楽の父はバッハ、音楽の母はハイドン、そしてクラシック音楽の歴史はモーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、シューマン、ブラームス……と続く、と私たち日本人は、小中高校の音楽の授業で学ぶ。それがオーソドックスな音楽教育となっている。
ところが、アレグロ、アンダンテ、ダカーポ、フェルマータ、ピアノ、フォルテ……などなど、音楽用語は、ほとんどがイタリア語なのだ。その「不思議さ」については、学校教育を離れ、クラシック音楽の一ファンとして音楽を楽しむうちに、新たな事実に気づいた。
学校でイタリア音楽を教わらない本当のワケ
じつはグレゴリオ聖歌以来、ルネサンス・バロック音楽を経て、ヨーロッパ近代音楽のトップランナーを走ってきたのは、イタリア人の作曲家たちだったのだ。モンテヴェルディ、スカルラッティ、ペルゴレージ、ヴィヴァルディ……。彼らが西洋音楽を開拓。西洋音楽のルーツはイタリアであり、だから音楽用語の多くはイタリア語なのだ。なのに、どうしてイタリア人作曲家の音楽は、学校であまり教えられない(聴かされない)のか。ベートーヴェンやブラームスが活躍した時代にも、イタリアでは、ロッシーニ、ドニゼッティ、ベッリーニ、そしてヴェルディ、プッチーニ、マスカーニ、レオンカヴァッロ、レスピーギ……と、才能溢れる作曲家たちが素晴らしい作品を数多く残した。にもかかわらず、学校で教わる音楽は、ほとんどがドイツ音楽なのだ。いったい、何故?
この疑問に対する回答は簡単だ。
イタリアの作曲家たちは、主にオペラを作り続けたから、である。
イタリア・オペラは「大人の音楽」
オペラのテーマは、9割近くが恋愛劇。男と女の愛憎劇。そこには純愛もあるが、多くは熱愛、盲愛、悲恋、邪恋。さらに三角関係、岡惚れ、よろめき、嫉妬、憎悪、略奪愛、加虐愛、被虐愛……etc.時にはそれが殺人事件にもつながる。それほど強烈な、ありとあらゆる「愛のカタチ」が、素晴らしい音楽のなかに描かれている。それが、オペラだ。そんな物語の音楽を、まだ恋も知らず、愛にも未熟な十代の若者たちに教えるのは不適切……かどうかはともかく、ムズカシイのは事実だろう。男女の愛の音楽よりも、ダダダダーン……と運命が鳴り響くほうが、よほどカンタンに子供心にも響くに違いない。
早い話がイタリア・オペラの音楽とは大人の音楽にほかならない。大人の男女の愛憎劇だから、音楽は、シットリ、ネットリ、タップリ……と響く。特にイタリア人が演奏すると、まるで日本人が演歌を唸るように、アモーレにコブシを効かせて「泣き」が入る。
いやあ、「大人の音楽」は、実にイイモノです。

アンドレア・バッティストーニ
きっと、トスカニーニ、アバド、シャイー……に続く、新たなイタリア人世界的オールラウンド指揮者が誕生する瞬間に立ち合えるに違いない。
玉木 正之(たまき・まさゆき/スポーツ&音楽評論家)
スポーツ&音楽評論家。1952年京都市生。東京大学教養学部中退。筑波大学大学院、立教大学、静岡文化芸術大学等で講師・客員教授を務める。主な著書は『スポーツとは何か』『スポーツ解体新書』『クラシック道場入門』『オペラ道場入門』『音楽は嫌い歌が好き』など。
アンドレア・バッティストーニ指揮 10月定期演奏会 公演詳細
マスカーニ/歌劇『イリス(あやめ)』(演奏会形式・字幕付)
2016年10月16日(日) 15:00 開演(14:30 開場)
Bunkamura オーチャードホール

2016年10月20日(木) 19:00 開演(18:30 開場)
サントリーホール

指揮・演出:アンドレア・バッティストーニ
【出演】
イリス(ソプラノ):ラケーレ・スターニシ
チェーコ(バス):妻屋秀和
大阪(テノール):フランチェスコ・アニーレ
京都(バリトン):町 英和
ディーア/芸者(ソプラノ):鷲尾 麻衣
くず拾い/行商人(テノール):伊達英二
合唱:新国立劇場合唱団 ほか
2016年10月19日(水) 19:00 開演(18:30 開場)
東京オペラシティ コンサートホール

指揮:アンドレア・バッティストーニ
ヴェルディ/歌劇『ルイザ・ミラー』序曲
ヴェルディ/歌劇『マクベス』より舞曲
ロッシーニ/歌劇『ウィリアム・テル』序曲
ベートーヴェン/交響曲第5番『運命』
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