ホーム > インフォメーション > オーボエ首席奏者 加瀬孝宏が語る チョン・ミョンフン指揮「オール・フレンチ・プログラム」

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2022年5月17日(火)



――マエストロとのオール・フレンチ・プログラムへの期待感


オーボエ首席奏者 加瀬孝宏 ©上野隆文

 私が東京フィルに入団してすぐに、マエストロのもとでメシアンの『トゥーランガリラ交響曲』を演奏しました。そのとき、マエストロのこだわりや色彩感、リスクを顧みないで演奏を追求するというフランス音楽を演奏する際のマエストロの姿勢に惹きつけられ、またフランス音楽を一緒に演奏したいとずっと望んでいました。マエストロはフランスにお住まいで、パリ・オペラ座バスティーユやフランス国立放送フィルの監督もしていらして、フランス音楽のスペシャリストであると言っても過言ではないと思います。
 私はフランス語圏であるスイスのジュネーヴに留学し、フランス人の先生に習っていました。ですから音楽的なものも技術的なものも、自分がフランス音楽を背景に身に着けてきたものをマエストロのもとで確かめ、“答え合わせ”ができるのではないかという期待感があります。
 マエストロとの共演は最近動画がYouTubeで公開された2018年のサン=サーンス交響曲第3番『オルガン付き』での演奏会以来です。リハーサルで「安易な音色にならないように」とよくおっしゃっていたのを覚えています。音楽的にきちんと解釈して掘り下げた演奏をマエストロはいつも目指しますので、演奏する私たちも気を引き締めて臨みたいです。
 今回演奏するラヴェルとドビュッシーはよく比較されますが、私は似ているところはない気がします。ラヴェルはごりっとしていて、縦がしっかりしていてスコアが四角いイメージ。ドビュッシーは場面が繋がるときにセクションを超えて継ぎ接ぎがあるようなオーケストレーションという印象があります。東京フィルは色々なジャンルの音楽を演奏するオーケストラなので、今回の公演もマエストロの求める音をリハーサルの早い段階でキャッチして、表現できると思いますので、曲ごとの表現の違いを楽しみにしていてほしいと思います。
 個人的には、お客様が来場されて、音楽が始まった時に、〈照明が変わったわけでもないのに景色がさっと変わる〉ような、聴く人を瞬時に別世界へと導くような音を出したいです。


――フランス音楽を演奏する際に気をつけていること


©上野隆文

 フランス人が一番大事にしているものは”アタック”と”アーティキュレーション”だと思います。アタックというのは、音の出し方のことで、発音の出方で色彩感が変わるということをとても大事にしている文化だと思います。アーティキュレーションで大事なのは、重たくさせないということです。管楽器の世界においては、重たいと馬鹿にされてしまうくらい気を付けないといけないことで、リズムをきちんと発音するし、テンポにも厳しい。留学中は少しでも不正確だと怒られる日々でした。
 フランス人の演奏する音楽は日本人のイメージだと「ふわふわしている」ように思われますが、実際にフランス人の演奏に触れてみるとそうではないのだと分かりました。それぞれが楽譜通りに正確に演奏して、それが積み重なってスコアの音になる。最初からふにゃふにゃで演奏すると音楽にならないのです。譜面通り、アタック(発音)とアーティキュレーションをしっかりやると、ドビュッシーやラヴェルなどの印象主義音楽の色彩感になる。フランス音楽は間違った先入観で演奏に臨むと目指したような演奏にならないのです。
 印象派の絵画は離れて見ると柔らかいイメージですが、5センチの近さに寄って間近で見てみると細かく点描が打ってあったり、筆致もしっかりしています。近くで見ると印象がまったく変わりますよね。同じように、音楽も一つ一つ正確に音にしなくてはいけません。アタックはいつも鋭いわけじゃないし、いつも甘いわけじゃない。どういう音で演奏するかという選別に気を配っています。
 普段は楽譜からだけでなく、実際にリハーサルでオーケストラの中で音を出してみて、全体のなかで自分の音量を調整するというオーケストラ奏者ならではの繊細な感覚を使って演奏することがあります。けれども、フランス音楽では「とくに」音量を楽譜に書いてある通りに演奏することで抜群の効果が生まれるので、演奏している時の感覚と楽譜上の指示とのぎりぎりのラインを狙って音量を調整するようにしています。たとえば、もし自分のソロが「p(ピアノ:弱く)」と書いてあったら、「小さい音で演奏したら聞こえないから、想定された音より大きく吹いてみよう」というような普段の感覚だけに頼らずに、本当に「p」で吹いてみて、どこまで「p」で演奏できるか試してみる、というみたいなことがあります。


――フランス音楽の魅力について

 バロック時代のフランス音楽作曲家クープランの通奏低音の和声に、既にちょっとひねった和音が出てきています。「こんな和音、使います?」みたいな、その時代の他の国の音楽では通例ではないような和音を積極的に使う、そういう伝統がずっと続いてきていて、近代のドビュッシーやラヴェルに受け継がれているのが非常に面白いです。ふっと湧いてきた和声でなく、大昔から使っているのです。
 たとえば「ドミソ」に「ドミソシ」と1音加えたセブンス(7の和音)、「ドミソシレ」で2音加えたナインス(9の和音)、と、つまり同時代の多くの音楽が「ドミソ」の3つの音で済ませていた和音に、さらに違う音のエッセンスを加えている。それを超えて「ドミソシレファラ」までいくコード進行がバロック時代の音楽に、既に出てきています。バロック時代の楽譜というものは一般的には、和音が書かれていなくて、基音となる旋律の音が1つ書かれているだけで、その他の和音は奏者がアドリブで入れるというようなものでした。けれども、クープランは楽譜に数字で和音を指定させて書いてあります。楽譜通りに演奏させるというのはクープランの時代からあったみたいですね。


【特集】

 ▷ 【特別記事】5月定期の聴きどころ マエストロ チョン・ミョンフン&東京フィルの“スペシャル”なオール・フレンチ・プログラム(文=柴田克彦)
 ▷ 【特別記事】作曲家が歩いたパリの街並み(写真・文=永井玉藻)
 ▷ 【楽団員インタビュー】ファゴット首席奏者 チェ・ヨンジン
 ▷ 【楽団員インタビュー】テューバ奏者 大塚哲也


【動画】

チョン・ミョンフン指揮 サン=サーンス/交響曲第3番『オルガン付き』





5月定期演奏会

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5月18日[水]19:00開演(18:15開場)
サントリーホール
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5月20日[金]19:00開演(18:15開場)
東京オペラシティ コンサートホール
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5月22日[日]15:00開演(14:15開場)
Bunkamura オーチャードホール

指揮:チョン・ミョンフン
(東京フィル 名誉音楽監督)

曲目解説(PDF)

フォーレ/組曲『ペレアスとメリザンド』
ラヴェル/『ダフニスとクロエ』第2組曲
ドビュッシー/交響詩『海』(管弦楽のための3つの交響的素描)
ラヴェル/管弦楽のための舞踏詩『ラ・ヴァルス』

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