ホーム > インフォメーション > テューバ奏者 大塚哲也が語る チョン・ミョンフン指揮「オール・フレンチ・プログラム」

インフォメーション

2022年5月18日(水)



――マエストロとのオール・フレンチ・プログラムへの期待感


テューバ奏者 大塚哲也 ©三浦興一

 マエストロとは、サン=サーンスの交響曲第3番『オルガン付き』とベルリオーズの幻想交響曲は演奏した経験がありますが、ラヴェルやドビュッシーなどの印象主義音楽の作曲家をご一緒させていただくのは今回が初めてです。以前マエストロがリハーサルでおっしゃっていた「音楽家は常に美しい音で演奏しなくてはいけない。」という言葉を一奏者としていまでも大切にしています。その「美しい音」というのはいわゆる綺麗な音だけではなくて、音楽上において必要な音ということで、時と場合によってはバイオレンスな音も「美しい」にあてはまります。その楽譜から導き出される「”美しい音”とは、どういうものか」という根本的なことをマエストロは大切にしていらっしゃって、オーケストラのサウンドに対するコミットが強い指揮者だと思っています。ですから、マエストロはどういう風に印象主義音楽を作っていくのだろうと興味深く、一緒に演奏するのを楽しみにしていました。実際リハーサルは期待していた以上で、授業料を払いたいと思うほど奏者として勉強になることがたくさんありました。
 オーケストラの指揮者のことを「シェフ」とも言いますが、マエストロはオーケストラを料理していると思う時があります。楽譜通りに演奏するだけではマエストロは満足されないので、私たちもただ材料として受け身ではなく、自ら率先して出汁を出して一緒に料理に参加しています。マエストロがおっしゃっていた「作曲家が与えた台本(楽譜)をどう演じるかというのを大事にしなくてはいけない。」ということを、それぞれが高次元で考えなければならない。フランス物でよりそれを感じています。
 今回フレンチプログラムということで、どういう色彩を出していくかということに非常に情熱をかけてリハーサルを積み重ねています。出来る限りマエストロの要求にこたえられるように、それが大きい音であれ、小さい音であれ、目立つところであれ、そうでないでないところであれ、出来るだけ多くの音色を出したいと思っているので、探してみて欲しいです。そして何よりも、今回マエストロ チョン・ミョンフンと東京フィルが一連の絵であったり、料理となったときの全体を見て欲しいなと思います。
 どの演奏会もそうですが、今回の演奏は特に、3会場で演奏が様変わりするのではないかと予想しています。曲自体にもそういう要素はありますし、マエストロもなにか仕掛けてくるのではという期待感があります。100人近い個人のアイディアと天候などの不確定要素がスパイスになるのが生演奏の面白いところで、ぜひご都合がよろしければ3回の公演を聴き比べてみて欲しいです。


――フランス音楽の魅力について


©上野隆文

 テューバという楽器はオーケストラというチームのなかで、どのように存在し関わるかを常に要求され、地味ですがそこにやりがいを感じています。作曲家が楽譜にしたためる音というのは、色々な意味を持っていると思うのですが、フランスものに関しては、ラヴェルもドビュッシーも二分音符一個でもすごく意味を持たせて演奏しなくてはいけないところがあり、それが難しく、また魅力的なところでもあると思います。
 その音にどういう意味があるのかということは、印象派の画家の点描だけを見ても実態が分からないのと同じで、テューバのパート譜を見ただけでは分からないことが多いです。テューバだけでなく、すべてのパートに言えることですが、パート譜を見ると重要性が低そうに思える音でも、スコアで見てみると重要な意味を見出すことができます。
 フランス音楽は自由で、各パートがバラバラな方向を向いて演奏しているように聞こえるかも知れませんが、他の国の音楽よりも全員がひとつのことを考えて個々の役割を果たしていかないといけません。今回マエストロもオーケストラにそれを要求していると思いました。フランス音楽は一見すると個々がバラバラなのに、それが翻って全体になる。そのためには各パートが最終的に出来上がったものをちゃんとイメージしなくてはいけません。その全体像をオーケストラに伝えるために、今回マエストロは多彩な語彙を駆使してリハーサルを進めています。


――ラヴェルとドビュッシーの違いについて

 テューバのパート譜から読み解く感覚ですと、ドビュッシーはミニマリストでシンプル、ラヴェルの方が複雑に書いてある気がします。金管楽器の扱い方の面で見ると、ドビュッシーはトランペットが好きなのか、トランペットに難しいソロをやらせることが多いです。一方、ラヴェルは金管楽器の特性をよく理解していて機能的に書いている印象があります。金管楽器に色々なことを課していくとリスクが増えるということをドビュッシーは恐れず、金管セクションに技術的に大変なことをさせているのかもしれません。



――「テューバ」という楽器について

 テューバという楽器は実は歴史が浅くて、土方歳三とサン=サーンスと同じ1835年生まれです。ドビュッシーは1862年、ラヴェルは1875年生まれなので、テューバはそれに遡ること約30年前に誕生しました。
 テューバをオーケストレーションの中で重要視していたのはドイツ音楽で、ワーグナーがいないと金管楽器はここまで発展していないと思います。フランス音楽に限定すると、テューバを活用してくれた作曲家はベルリオーズ(1803- 1869)です。現在はテューバで代用していますが、ベルリオーズの時代にはテューバはなく、バリトンサックスにマウスピースが付いているような「オフィクレイド」という楽器を使用していました。
 出来たばかりのテューバという楽器を、各国の作曲家たちそれぞれが実験的に使っていました。ラヴェルも『スペイン狂詩曲』と『ダフニスとクロエ』から編曲した『展覧会の絵』ではテューバの書き方が変わっています。ラヴェルの『ダフニスとクロエ』とドビュッシーの『海』を一回の演奏会のなかで一緒に聴けることはなかなかありませんし、今回のプログラムは、フランスの管弦楽作品のなかでテューバがどのように使われているのか生で聴くいいチャンスだと思います。


【特集】

 ▷ 【特別記事】5月定期の聴きどころ マエストロ チョン・ミョンフン&東京フィルの“スペシャル”なオール・フレンチ・プログラム(文=柴田克彦)
 ▷ 【特別記事】作曲家が歩いたパリの街並み(写真・文=永井玉藻)
 ▷【楽団員インタビュー】オーボエ首席奏者 加瀬孝宏
 ▷【楽団員インタビュー】ファゴット首席奏者 チェ・ヨンジン


【動画】

チョン・ミョンフン指揮 サン=サーンス/交響曲第3番『オルガン付き』





5月定期演奏会

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5月18日[水]19:00開演(18:15開場)
サントリーホール
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5月20日[金]19:00開演(18:15開場)
東京オペラシティ コンサートホール
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5月22日[日]15:00開演(14:15開場)
Bunkamura オーチャードホール

指揮:チョン・ミョンフン
(東京フィル 名誉音楽監督)

曲目解説(PDF)

フォーレ/組曲『ペレアスとメリザンド』
ラヴェル/『ダフニスとクロエ』第2組曲
ドビュッシー/交響詩『海』(管弦楽のための3つの交響的素描)
ラヴェル/管弦楽のための舞踏詩『ラ・ヴァルス』

公演カレンダー

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