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【2020年2月定期演奏会】カルメン役マリーナ・コンパラート インタビュー(1)
2017年ヴェネツィアのフェニーチェ歌劇場でのチョン・ミョンフン指揮『カルメン』公演にて、カルメン役デビューを果たしたマリーナ・コンパラート。次回2月の定期演奏会では、マエストロ・チョン・ミョンフンと2度目の共演となります。
翻訳:本谷麻子/インタビュアー:シモーネ・トメイ(2019年10月11日公開)
出典:「E dove ti porterà prossimamente questo ruolo?」
オペラ歌手になるまで
――オペラ歌手になる前のマリーナさんは、どんな人生を送ってきたのでしょうか?
生まれはペルージャで、故郷の街で文科高校に通いつつ、モルラッキ音楽院でピアノを勉強しました。
18歳の時に進学のためにフィレンツェに移って大学の政治学部に通い、イタリア憲法と比較憲法学で学位を取得しました。
――音楽への情熱が生まれたのはいつですか?
子どもの頃ですね。やはり家族に負うところが大きいと思います。
母はピアノを、母方の祖父はヴァイオリンを演奏していたので、クラシック音楽やオペラを愛する気持ちは、家庭に根づいていました。
子どもの頃の大のお気に入りは『イル・トロヴァトーレ』のジプシーの合唱でした。父方の祖母もピアノとオルガンを弾いていて、私の両親にアップライト・ピアノを贈ってくれました。
そんなわけで、かなり小さいころからピアノに触れていました。
その後、ペルージャの音楽院に通うようになって、5年生の試験まで終えました。ピアノをやめたのは、高校の授業がとても大変だったということもあるのですが、それだけが理由ではなかったの。いきなりブレイク・ダンスに「転向」してしまったのよ!
その後もオペラが好きだったのは、母の影響だと思います。母はペルージャのオペラ友の会の会長で、観光バスを手配してはフィレンツェやローマでのオペラ鑑賞を企画していたのです。
――声楽ではどんな勉強をしてきたのですか?
フィレンツェ大聖堂
大学時代、とにかく音楽は続けていたかったので、気晴らしにいくつかの合唱隊で歌うようになりました。
最初はフィレンツェ大聖堂の合唱隊、それからフィエーゾレ音楽学校の合唱団でも歌うようになり、そこで声楽の最初の恩師に出会いました。
合唱団の指揮をなさっていたエリオ・リッピ先生です。先生が私の声の土台を作り、非常に緻密にプロの目で声楽の技術を教えてくださいました。
3年後、たいてい大学の学業を終えた若者は進路に迷うものですが、例に漏れず迷っていた私に、リッピ先生が「大学も卒業して、自由な夏休みを過ごすわけだから、フィレンツェのケルビーニ音楽院の声楽中級過程の外部生試験を受けてみないか?」と声をかけてくれました。
そこで、ピアニストのジャンニ・ファッブリーニさんと試験準備を始めました。
彼はその後、ピアニストとして私の頼みの綱となって、今でも新しい役を歌うときには必ず彼とレッスンをしています。
9月の試験では緊張はしましたが、私にとっては記念受験のようなものだったので、割と冷静でしたね。
ところが、蓋を開けてみると自分の最高の予測を上回るほどの結果でした。
ケルビーニ音楽院の教授陣を束ねる役職に就いていらしたレナータ・オンガロ先生が、ぜひとも本科生として入学して、彼女の指導のもとで学ぶべきだと強く勧めてくださったのです。
母と父に音楽院に合格したことを告げて「どうしよう?」と相談すると、両親は全面的に私を応援し、支えてくれました。たとえ声楽の道が望み通りに行かなかったとしても、大学卒業資格は手の内に残っていましたし。
ところが、2年後には音楽院も無事に修了し、直後に各地のコンクールに参加するようになりました。
当時受けたコンクールの中で最も権威あるスポレート“A.ベッリ”実験オペラ劇場のコンクールが、私にオペラ界への扉を開いてくれました。
というわけで、大学の学位のほうはその時「夢の引き出し」にしまいこんで、今も引き出しの中にしまってあります。
――これまでに出会った先生方にはどんな思い出がありますか?
リッピ先生やオンガロ先生の他にも、ファッブリーニ先生とは、かれこれ20年お世話になっていて、優れたピアニストであるとともに、非常に優秀なトレーナーだと思っています。
私が歌ってきた役は全て、先生と一緒に一歩一歩積み重ねて作り上げ、今なお磨き続けているものです。
そのほかにも二人、私のキャリア形成にとっても、私生活でも友人として大切な存在がいます。
一人はスザンナ・リガッチ。彼女は私が声楽を始めたころに私をケルビーノ音楽院に導いてくれた人です。
もう一人は現在私の声楽の先生でもあるドナテッラ・デボリーニで、声楽テクニックの調整と発声法をコーチしてくれています。
彼女こそ「マリーナ/カルメン」のみならず、私に自分のレパートリーを発見させてくれた導き手です。
(Part 2 へ続く)
(翻訳者プロフィール)
本谷麻子(ほんや・あさこ)/
東京外国語大学大学院博士課程前期修了。イタリア政府奨学生としてヴェネツィア大学に留学。言語学修士。2000年よりフリーランスのイタリア語通訳・翻訳業。オペラ・演劇・映画関係の通訳多数。オペラの舞台字幕も多く手がける。
【2月定期演奏会】
オペラ演奏会形式
ビゼー/歌劇『カルメン』
2月19日[水]19:00開演
東京オペラシティ コンサートホール
2月21日[金]19:00開演
サントリーホール
2月23日[日・祝]15:00開演
Bunkamura オーチャードホール
指揮:チョン・ミョンフン
カルメン(メゾ・ソプラノ):マリーナ・コンパラート
ドン・ホセ(テノール):キム・アルフレード
エスカミーリョ(バリトン):チェ・ビョンヒョク
ミカエラ(ソプラノ):アンドレア・キャロル
スニガ(バス):伊藤貴之
モラレス(バリトン):青山貴
ダンカイロ(バリトン):上江隼人
レメンダード(テノール):清水徹太郎
フラスキータ(ソプラノ):伊藤晴
メルセデス(メゾ・ソプラノ):山下牧子
合唱:新国立劇場合唱団
児童合唱:杉並児童合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術創造活動活性化事業)、独立行政法人 日本芸術文化振興会
公益財団法人 花王芸術・科学財団、公益財団法人 三菱UFJ信託芸術文化財団、公益財団法人 ローム ミュージック ファンデーション(2/21)
後援:駐日韓国大使館 韓国文化院、在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
協力:Bunkamura(2/23)