ホーム > インフォメーション > 【特別記事】指揮者 出口大地が東京フィルとの共演と10月のプログラムを語る

インフォメーション

2024年8月22日(木)

2022年に東京フィル定期で日本デビューを飾った俊英、出口大地が東京フィル定期に再び登場します。ハチャトゥリアン、ファジル・サイ、コダーイと、20~21世紀の“中央ヨーロッパで生まれた西洋音楽”プログラムを取り上げるマエストロ。演目について、また東京フィルとの音楽づくりや今後に向けた思いを語ってもらいました。

聞き手:広瀬大介(音楽学・音楽評論)




―――マエストロと東京フィルの直近の共演は、2022年7月のデビューに続き、昨年(2023年)末のベートーヴェン『交響曲第9番』でした。その時の想い出も含めつつ、東京フィルとの音楽作りのことなど、教えて頂けますか?


 日本のオーケストラの皆さんは数え切れないほど『第九』を演奏していて、隅から隅まで暗譜するほど熟知していますよね。かたや私にとってプロのオーケストラで『第九』を指揮するのはこの時が初めてだったので、オーケストラの皆さんも正直不安があったと思います (笑)。しかしいざリハーサルが始まると、私のような若い指揮者でも、まずはやりたいことに向き合ってみようというスタンスをとってくださり、大変ありがたかったです。



2022年12月『第九』特別演奏会よりⒸ上野隆文


―――私にはわりと、ゆったりと構えた感じのベートーヴェンに聞こえました。



Ⓒ上野隆文


Ⓒ上野隆文

 実は、テンポが遅かった、ゆったりとしていた、と仰る方と、推進力があった、若さがあふれていた、と仰る方、一見すると両極端の感想を頂いています。
 東京フィルの皆さんはもちろん速いテンポでもすばらしく演奏できるわけです。しかし一方でエンジンが非常に大きくてパワーがあるので、私としてはそのパワーをいかに無理なく響かせるか、『第九』ならば、あれぐらいのテンポ感が、推進力を維持しつつ会場でもっとも効果的に響くのではないか、と感じました。最初のリハーサルではもっと速いテンポを取っていたと思いますが、響きを聴いているうちに徐々に落ち着いたテンポになっていきました。
 その一方で、ここは普段こうやって弾いている、という奏者の皆さんの考えや慣習をうかがうこともできました。解釈について話し合ったり、教えてもらったりすることもたくさんあって、若い指揮者に対してどこか家族のように接してくださいました。指揮者を助けつつ、一緒に音楽を楽しむオーケストラというのは、特に私みたいな若手にとっては、とてもありがたいことです。本当に大好きなオーケストラですね。



―――次の10月定期演奏会の曲目は、ご自身の希望も含め、オーケストラと話し合って決められた、ということですが。



アラム・ハチャトゥリアン(1903-1978)


コダーイ・ゾルターン(1882-1967)

 そうですね、お互いに意見交換して決めていきました。ハチャトゥリアン『ヴァレンシアの寡婦』組曲は全6曲から3曲を抜粋します。本当は全て演奏したいくらいなのですが、私がプログラミングすると「演奏会が長い」とご指摘いただく傾向にあり(笑)今回は断腸の思いで抜粋にしました。ハチャトゥリアンを「剣の舞」と『仮面舞踏会』のワルツでしか知らない、という方には、ぜひ聴きに来てほしいです。ハチャトゥリアンの旋律のセンスはどこか昭和歌謡的で、日本人にも染み入る旋律だと思うので。こんな素敵な旋律を書ける作曲家がいたんだと知っていただきたいですね。
 コダーイの『ガランタ舞曲』『孔雀変奏曲(ハンガリー民謡『孔雀は飛んだ』による変奏曲)』は、学生時代からよく聴いていました。コダーイについて馴染みのない方も多いかもしれませんが、ハンガリーの民族音楽に根ざした作曲家、民謡収集という多大な功績を持つ研究者、そしてコダーイ・メソッドという音楽教育メソッドの礎となった教育者、そのすべての顔をもちあわせた偉人です。
 裏のテーマとしては、コダーイの2曲は、実はどちらも戦争に絡んだ作品です。前者はあらたに徴兵する兵隊を鼓舞する民謡(ヴェルブンコシュ)ですし、後者は第二次世界大戦下で書かれ、変奏主題として使われた民謡「孔雀は飛んだ」は、オスマン帝国の支配下にあったマジャール人たちが自由を求めて歌った旋律でもあります。特に「孔雀は飛んだ」は現存する最古のハンガリー民謡の一つとも言われており、その自由を求めた太古の旋律が時に激しく時に寂しく、そして最後には力強く変奏されていく様は、まさに古の時代から続く人間の存在そのものを変奏形式で描いた傑作であり、時空を超えた反戦歌でもあります。



―――これからの『夢』などはありますか?


 オペラをやりたいですね。ミュージカルなども含め、小さい頃から舞台が好きでした。小説を読むのも好きだったので、オペラという世界を知ったときは、文学と音楽が組み合わさるなんて、こんな幸せなジャンルは他にないと思いました。まだプロの現場で本番を指揮したことがないので、いつかかかわりたいです。なかでもリヒャルト・シュトラウス、ヤナーチェクやブリテンの作品は高度な文学性を感じられ、本当に好きなんですよ。
 それと、管弦楽ではモーツァルトなどの古典派、シューベルトの後期、メンデルスゾーンなどの前期ロマン派に特に親近感を感じます。私は細身で、重心も少し高くなりがちなので、重い響きよりは重心の軽い音楽のほうがピッタリくるところがある気がします。水墨画のように音楽を構成する要素が少ない分、その要素に対するアイディアをいかに、どれだけ出していけるのか、というアプローチを色々考えるのが楽しいです。今後積極的に取り組んでいきたいですね。



―――10月定期演奏会に向けてお客様へのメッセージを。


 コダーイは、「真の芸術は真の民族性に向き合ったところに生まれる」と語りました。ハンガリーに根ざした活動を続けたローカルな音楽家がこれほどの国際的な知名度を残せたということは驚異的で、まさに彼自身の信念を体現した結果といえるでしょう。
 その意味で、『ヴァレンシアの寡婦』でスペインを描こうとしてもアルメニアが滲み出てしまうハチャトゥリアン、自身の出身であるトルコ的な要素に根ざした音楽を創るファジル・サイら、ひとつのアイデンティティに向き合ったからこそ生まれる芸術性も、同時に深く味わえる演奏会になるのではないかと思います。東京フィルのような柔軟性と爆発力を兼ね備えたオーケストラにとっては、ぴったりなレパートリーだと信じています。私自身、この演奏会をとても愉しみにしています。






広瀬 大介(音楽学、音楽評論)/1973年生まれ。青山学院大学教授。日本リヒャルト・シュトラウス協会常務理事・事務局長。著書に『オペラ対訳×分析ハンドブック シュトラウス/楽劇 サロメ』『同/楽劇 エレクトラ』(アルテスパブリッシング)など。『レコード芸術』など各種音楽媒体での評論活動のほか、NHKラジオへの出演、演奏会曲目解説・CDライナーノーツの執筆、オペラ公演・映像の字幕・対訳などを多数手がける。


10月定期演奏会 

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10月17日[木]19:00開演
サントリーホール
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10月18日[金]19:00開演
東京オペラシティ コンサートホール
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10月20日[日]15:00開演
Bunkamura オーチャードホール

指揮:出口大地
ヴァイオリン:服部百音*


ハチャトゥリアン/『ヴァレンシアの寡婦』組曲より
ファジル・サイ/ヴァイオリン協奏曲『ハーレムの千一夜』*
コダーイ/ガランタ舞曲
コダーイ/ハンガリー民謡『孔雀は飛んだ』による変奏曲


特設ページはこちら


1回券料金

  SS席 S席 A席 B席 C席
チケット料金

¥15,000

¥10,000
(\9,000)

¥8,500
(\7,650)

¥7,000
(\6,300)

¥5,500
(\4,950)

※( )…東京フィルフレンズ、WEB優先発売価格(SS席は対象外)


主催:公益財団法人 東京フィルハーモニー交響楽団
共催:公益財団法人 東京オペラシティ文化財団(10/18公演)
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(公演創造活動))| 独立行政法人日本芸術文化振興会
協力:Bunkamura(10/20公演)

公演カレンダー

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