ホーム > インフォメーション > バッティストーニ:フルート協奏曲『快楽の園』(日本初演)プログラム・ノート | 11月定期演奏会

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2021年10月20日(水)


 「フルート協奏曲『快楽の園』〜ボスの絵画作品によせて」は、トンマーゾ・ベンチョリーニの依頼により彼の楽器のための協奏曲を作曲したものです。トンマーゾは常に私の音楽の強力な支持者であり、理想的な演奏家でもあるので、私は彼の能力と才能に合わせた作品を作曲することで、彼の期待に応えようと最善を尽くしました。
 この協奏曲は、おそらく私が今までで一番好きな絵、初期フランドル派の画家ヒエロニムス・ボスの神秘的で崇高な三連祭壇画「快楽の園」からインスピレーションを得ています。
 4つの絵画(1つ目の外翼パネルは三連絵画の両側を閉じた時にしか見えません)は、別世界のような雰囲気、グロテスクな想像力、中世の象徴主義、そして野生的な色彩で私の想像力をかきたて、20世紀のフルート協奏曲と同様にロマン派の交響詩に強いルーツを持つこの作品を生み出しました。


ヒエロニムス・ボス『快楽の園』(The Garden of Delights、1503-1504、プラド美術館蔵)
第1楽章 天地創造(外面)


 作品は、祭壇画の閉じられた部分の主題である「天地創造(第1楽章)の描写で始まり、ボス(Bosch)の名前にソロ・フルートの最初の4音[B(シ♭)-S(Es:ミ♭)-C(ド)-H(シ)]で音楽的に言及しています【譜例1】。この楽章では、霧深い暗澹とした色の大地と水の中から浮かび上がるフローラを想起させます。

【譜例1】




 この緊張感は保たれたまま、祭壇作品の左パネルの絵画の主題である「エデンの園(第2楽章)の描写へと途切れることなくつながって行きます。
 豊かな自然とエキゾチックな鳥の鳴き声がハープと木管楽器の旋風によって映し出される一方、ソロ・フルートは、原始人類の失われた世界を描写する不規則で異質な書法で書かれています。この伴奏つきの即興的演奏は、絵画の中心にいる神の存在を象徴する神聖なコラールによって一時的に中断され、やがて多数の鳥たちの合図や鳴き声の中に消えていきます。最後の数小節でボスのモチーフ[B-S-C-H:シ♭-ミ♭-ド-シ]が再び登場し、神と芸術的創造者が再び一つの象徴的な姿で融合します。

ヒエロニムス・ボス『快楽の園』(The Garden of Delights、1503-1504、プラド美術館蔵)
第2楽章 エデンの園(左)、第3楽章 地獄 ― カデンツァ(右)、第4楽章 庭(中央)

 「地獄(第3楽章)は、この曲の最も象徴的なイメージである、ぞっとするような想像力と奇怪なユーモアへの歓びが渾然となった黄泉の国への恐怖を音楽的に表現しています。鐘が火事を告げるように鳴り響き、ソリストとオーケストラはグロテスクな効果の不穏なカーニバルへと駆り立てられます。弦楽器はボスの想像力が生み出した悪魔的な小動物となって這い回り、ソロ・フルートはコウモリの化け物となって金切り声をあげ、灼熱の鉄槌の一撃に続いて、ボスが地獄の亡者たちの一人の臀部に容赦なく入れ墨した音符に基づく悪魔の行進曲が挑みかかります。この荒々しい楽章は慌ただしいクライマックスへと上昇し、ソロ・フルートのカデンツァはこれまでの楽章の最も重要なテーマを映し出します。
 「(最終楽章)は、前の楽章で喚起された緊張を和らげようとしています。
 この楽章は一種のロンドのように表現されており、円環的な音楽形式の中では踊るような祝祭的なテーマによって、ボスの三連画の最も大きな画面(中央のパネル)で勝利を収めている一風変わった自由と不条理とが想起されます。実際のところ、輪舞(=ロンド)がこの絵画の核心をなしており、音楽はオーケストラや観客をこのエロティックなイメージが醸し出す気楽な愉悦へと誘っています。
 終盤、盛り上がりが最高潮に達すると、踊りは消え、音楽は私たちが訪れた魅惑の世界への憧れと哀愁を感じながらゆっくりと別れを告げます。
 人間の姿と未知の物語がモザイク状に描かれたこのユニークな絵画の中で、ボスの描いた人々がたっぷりと享受している自然発生的で祝福された状態を、私たちはいつか体験することができるのでしょうか。

[作曲年代] 2019
[初演] 2020年3月8日 ベルリンにて、デヴィッド・ロバート・コールマン指揮ベルリン交響楽団、トンマーゾ・ベンチョリーニの独奏による


【特別記事】

 ▷ マエストロ アンドレア・バッティストーニが語る 東京フィルとの『新しい景色』
 ▷ ヒエロニムス・ボス『快楽の園』をよみとく(文=中野京子)
 ▷【ダブルインタビュー】アンドレア・バッティストーニ&トンマーゾ・ベンチョリーニ

11月定期演奏会

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11月1日[月]19:00開演(18:15開場)
サントリーホール
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11月3日[水・祝]15:00開演(14:15開場)
Bunkamura オーチャードホール
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11月4日[木]19:00開演(18:15開場)
東京オペラシティ コンサートホール

指揮:アンドレア・バッティストーニ
(東京フィル 首席指揮者)
フルート:トンマーゾ・ベンチョリーニ*

― バッティストーニの作品 ―

バッティストーニ/フルート協奏曲『快楽の園』~ボスの絵画作品によせて(2019)(日本初演)*
I. 天地創造 II. エデンの園 III. 地獄ーカデンツァ IV. 庭
チャイコフスキー/交響曲第5番



令和3年度(第76回)文化庁芸術祭参加公演(11/1公演)
主催:公益財団法人 東京フィルハーモニー交響楽団
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術創造活動活性化事業)| 独立行政法人日本芸術文化振興会
協力:Bunkamura(11/3公演)

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