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2022年6月7日(火)
――マエストロ プレトニョフとの共演について。
コンサートマスター 依田真宣 ©上野隆文
お元気そうですね。ご自身の雰囲気は変わらないのですが、より自然な音楽を求めるようになっているように感じます。より深く、それでいて自然な音楽です。フレーズは長いですし、器楽的な面で演奏上の難しいところはもちろん沢山あるのですが、そういったものを取り払って歌いこみ、どのようなフレーズのラインで作っていくと自然に聴こえるかといったことを構築するヴィジョンがあり、時に立体的、時にコンパクトな音楽へと、マエストロの音楽作りは自由自在です。それぞれの楽器というよりはすべてを含んだ構築の力を感じます。
――東京フィルとして、原曲としてはどちらも経験豊富な『白鳥の湖』と『カルメン』ですが、今回のプログラムの印象や特筆すべきことは。マエストロプレトニョフのカラーはどんなところに出ていると感じますか。
©上野隆文
リハーサル中のマエストロを見ていると、マエストロは頭の中には踊りが見えていて、頭の中で踊りを描きながら指揮しているような感じを受けます。今回はもちろんダンサーがいないので、テンポ設定の面で違いはあるとは思いますが、それぞれの場面でどういう踊りをしているか、どういう表現があるかということを前提としていらっしゃいます。『白鳥の湖』のリハーサルでも、たとえば「ここは振り向いて手を差し伸べる瞬間だから」といったことを話されたりと、バレエの情景を前提に音楽を作っている印象です。
©上野隆文
マエストロはもとからオーケストラに委ねてくださる側面も多く、演奏者それぞれが吹きやすい、弾きやすいように任せてくださるのですが、その中で、どうしたらより自然な音楽的描写ができるかというスパイスを出してくださいます。そのスパイスが私たちにとっては“魔法”なんですが、それがあるかないかで音楽が全く変わってくる。“ちょっと、こう”やるだけで変わるという。言葉で説明されることもあるのですが、細かいニュアンスはマエストロを見ていれば表情や身振りで伝わってくるのです。また表情を見ていると、本当にこの音楽を好きなのだな、楽しんでいるのだなとわかる瞬間があり、それを見るのはこちらも楽しいです。『白鳥の湖』は何度も演奏したことがありますが、こんなふうに新鮮に向き合うことができるのはマエストロならではだと思います。
――シチェドリンの『カルメン組曲』について
マエストロはシチェドリン氏ともお知り合いということですね。バレエ音楽だけを取り上げる定期は珍しいですが、よく知った曲の筈なのに、このシチェドリン版は、次に何が出てくるかわからないという感覚があります。曲の流れはわかっているつもりでも、突然違う場面が現れたり、打楽器の色々な音も出てくるものですから、初日は演奏しながらびっくりすることも(笑)。
作品は幻想的というか、最初に遠くの方から鐘が鳴って始まって、最後にまた鐘の音で締めくくられる、一つの物語として出来上がっている作品ですが、こういう幻想的な世界観が、マエストロの指揮で演奏することによってまた一つの音楽物語としてつながっている。踊りもついているとまた違ってくると思いますが、音楽でこういう世界観を作れるというのも面白いと感じています。シチェドリンのカルメンはなかなか演奏機会もないですし、視覚的にも楽しめる作品だと思います。
――「白鳥の湖」は、全曲での演奏経験や、よく知られた組曲版での演奏も経験があると思いますが、今回のプレトニョフ版はどういったところが特徴でしょうか。
マエストロの特別編集ということで、私たちも“次はこう来るだろう”と予想していた曲とは違う音が来たりするので、最初はマエストロの世界観に驚きながら演奏していました。前回共演した3月定期の後に「『白鳥の湖』は今ある楽譜をまた少し考えなおす」ということも仰っていたので、少しずつ手直ししているようです。
『白鳥の湖』は、皆さんがよく知った名曲の中で、マエストロならではのスパイスがどのように効かせられているか、それによってどういう表現がオーケストラから生まれてきているかを楽しんでいただけると思います。実はところどころ原曲よりも小節数が少しだけ少なかったりと、慣れた感覚でもしっかり数えていないと見失ってしまいそうになるんですよ。お客様には“当たり前のものがちょっと当たり前じゃない”、そういうマエストロならではの世界を楽しんでいただけると思います。
2022年3月定期演奏会©上野隆文
【特集】
▷ 【特別記事】『カルメン組曲』と『白鳥の湖』~作曲家を導いたミューズたち~(文=赤尾雄人)
▷ ミハイル・プレトニョフ、作曲家シチェドリンを語る
6月定期演奏会
6月8日[水]19:00開演
サントリーホール
6月9日[木]19:00開演
東京オペラシティ コンサートホール
6月12日[日]15:00開演
Bunkamura オーチャードホール
指揮:ミハイル・プレトニョフ
(東京フィル 特別客演指揮者)
シチェドリン/カルメン組曲
〈シチェドリン生誕90年〉
チャイコフスキー/『白鳥の湖』より
(プレトニョフによる特別編集)