ホーム > インフォメーション > 9月定期演奏会の聴きどころ(文=ロバート・マルコウ)

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2022年8月8日(月)



フランツ・リスト (1811-1886)


グスタフ・マーラー (1860-1911)


 リストとマーラー──コンサートのプログラムとして何と素晴らしい組み合わせだろうか!この2人の作曲家の生涯はちょうど1世紀にわたる。フランツ・リストは1811年に生まれ、グスタフ・マーラーは1911年にこの世を去った。この100年の間に、今日私たちがコンサートで聴くことのできる音楽の大部分が存在しており、アンドレア・バッティストーニが選んだこの2人は完璧なペアと言えるだろう。彼が選んだ2つの曲は、音楽的素材が互いに補完的であるだけでなく、どちらも伝記作家にとって夢のような生涯を送った作曲家の作品である。



1811年の大彗星のスケッチ
作:ウィリアム・ヘンリー・スミス

 リストに関するある本の冒頭はこうだ。「1811年の大彗星の年、地上の星が誕生した。その夜、彗星があまりに明るく燃えたので、地元のジプシーはこれを幸運の前兆とみなし、生まれたばかりの子供のまばゆいばかりの未来を予言した」。また、レナード・バーンスタインはマーラーの音楽をこう評した。「彼はドイツ音楽のあらゆる基本的要素を取り入れ……それらを究極の限界まで追い詰めた。休符を戦慄の沈黙に、弱拍を爆発的な死の一撃の前の準備に、息継ぎをショックの喘ぎや恐怖への予感に、アクセントを巨大な圧力へと変化させたのである。マーラーの行進曲は心臓発作のようであり、彼のコラールは狂気に陥ったキリスト教世界のようである」。

 明らかに、2人ともカリスマ的な存在であり、複雑で魅力的で、人を惹きつける力と限りないエネルギーと決意のオーラを放っていた。臆面もない感傷、華やかな名人芸、鮮やかな色彩、個人主義の賛美など、この2人の作曲家の音楽ほどロマン派時代の精神を特徴的に描いているものはない。



ヨーゼフ・ダンハウザー『ピアノを弾くフランツ・リスト』
(Franz Liszt Fantasizing at the Piano、1840、旧国立美術館 (ベルリン)蔵)




マーラーの指揮姿をカリカチュア化した
ハンス・シュリースマン
『超モダンな指揮者』


リストとマーラーは、単なる作曲家ではない。リストは19世紀を代表するヴィルトゥオーゾ・ピアニストであり、聴衆をあっと言わせるような“ぶっ飛んだ”プログラムを携えてヨーロッパを駆け巡った。彼はまた指揮者でもあり、新しい音楽と古い音楽の両方を推進した(彼の何百ものピアノ編曲は、作品を知るためにはほとんど自分で演奏する必要があった時代に、何十もの作曲家が有名になるのに役立った)。マーラーもまた指揮者であった。実際、当時、彼は作曲家としてよりも、ブダペスト歌劇場、ウィーン国立歌劇場、メトロポリタン歌劇場、ニューヨーク・フィルハーモニックなどの指揮台で活躍したことではるかによく知られていた。指揮台に立ち、当時では考えられないほど高い水準を要求する暴君として恐れられた。


マーラーと同時代のウィーンで活動し、
マーラー夫妻とも交流のあったという
グスタフ・クリムト『接吻』
(Der Kuss、1908、オーストリア・ギャラリー蔵)


アンドレア・バッティストーニ
東京フィル 首席指揮者 Ⓒ青柳 聡

 興味深いことに、2人とも歌劇場で盛んに指揮をしていたにもかかわらず、自らオペラを作曲することはなかった(リストが14歳で書いた1幕ものの歌劇『ドン・サンシュ』が辛うじて数えられるものの)。両者の音楽には、神々しいものと邪悪なもの、静謐なものと激情的なもの、高貴なものと低俗なもの、荘厳なものと落ち着きのないものが、しばしば同じ作品の中で隣り合わせに存在しているのだ。アンドレア・バッティストーニがこのコンサートのために選んだのは、そんな音楽である。
 「ダンテを読んでーソナタ風幻想曲」あるいは「ダンテ・ソナタ」は、こうした偉大な音楽の画家が作曲した15分間の作品である。リストがダンテの『神曲 地獄篇』の一節を読んで思い浮かべた、目の前に広がる地獄の門、そこで死後の世界を過ごすことを宣告された者たちの魂が受ける苦痛、悲惨さ、恐ろしさを音で表現したものだ。しかし、途中には静かな安息があり、最後にはリストの音楽の中で最も対照的な天上の光景が一瞬現れる。リストは、この「ダンテ・ソナタ」を独奏ピアノのために作曲した。指揮者のアンドレア・バッティストーニは、レスピーギ、ラヴェル、ストコフスキーといった20世紀初頭の作曲家のオーケストレーションに見られるような、まばゆいばかりの色彩感をもってこの作品を編曲している。


 マーラーの「交響曲第5番」は、特にその万華鏡のようなオーケストレーションにおいて、どれほど似ていることだろう。マーラーは私たちが地獄の光景を想像することを期待していなかったが、交響曲の第1、2楽章の荒々しく熱っぽい、ほとんど狂気的なパッセージの中に、そうした場所を想像することは、多くの聴衆にとって難しいことではないだろう。対照的なのは、第3楽章の完全に生命を肯定する音楽、第4楽章の至福の間奏曲、第5楽章の勝利の結末である。リストの作品では、悲しみと死の世界が最後まで聴き手に寄り添うが、マーラーの交響曲では、悲しみと死から喜びと生への変容が完結しているのである。


サンドロ・ボッティチェリ
『ダンテの肖像』
(Portrait of Dante、1495、個人蔵)


サンドロ・ボッティチェリが
ダンテ『神曲:地獄篇』をもとに描いた『地獄図』
(La Carte de l'Enfer、1490、ヴァチカン教皇庁図書館蔵)



ロバート・マルコウ Robert Markow


モントリオール在の音楽評論家。元モントリオール交響楽団ホルン奏者。オーケストラや音楽祭などのために執筆するほか、長年に渡りマクギル大学で講義を行い、数か国を訪問する音楽ツアーの案内、数多くのクラシック音楽ジャーナルに記事を執筆している。



【特集】

 ▷ 【特別記事】アンドレア・バッティストーニが語る「ダンテを読んで」(文=アンドレア・バッティストーニ/訳=井内美香)
 ▷ 【解説動画】リスト作曲=バッティストーニ編『ダンテを読んで』を語る!(お話:野本由紀夫)
 ▷ 【楽団員インタビュー】コンサートマスター 近藤 薫

9月定期演奏会 

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9月15日[木]19:00開演
東京オペラシティ コンサートホール
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9月16日[金]19:00開演
サントリーホール
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9月19日[月・祝]15:00開演
Bunkamura オーチャードホール

指揮:アンドレア・バッティストーニ
(東京フィル 首席指揮者)

曲目解説(PDF)


リスト(バッティストーニ編)/『巡礼の年』第2年「イタリア」よりダンテを読んで
マーラー/交響曲第5番


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主催:公益財団法人 東京フィルハーモニー交響楽団
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術創造活動活性化事業)| 独立行政法人日本芸術文化振興会
協力:Bunkamura(9/19公演)

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