ホーム > インフォメーション > コンサートマスター 近藤 薫が語る アンドレア・バッティストーニ指揮9月定期演奏会

インフォメーション

2022年9月14日(水)



――マーラー交響曲第5番について


コンサートマスター 近藤 薫 ©三浦興一

 マエストロ・バッティストーニと東京フィルのマーラーは東京フィル定期デビューの2014年に『巨人』、それから私は「第8番『千人の交響曲』」(2019年)でご一緒しています。イタリアでのマーラー演奏というのは1960年台以降に浸透してきたそうで、イタリア人にとって重要なレパートリーになったのは時期的には日本とそう変わらないんですね。

 マエストロのマーラーは私にはオペラ的に聴こえます。『千人』のときも思いましたが、とても見通しが良い。マーラーの交響曲は長大だけれど、マエストロはひとつひとつのエピソードごとに深堀りしていくというよりも、全体の流れが明解で、ストーリー性が重視されている。今どんなストーリーであるのかがわかりやすいです。
 マエストロの音楽は、それでも「全てを聴いたあとにお客様の心に感動を届けられる」、そういう作りです。マーラーの「第5番」には標題として明確な記載はされていないけれど物語性はあり、具体的にではなく、全体としてなにか大きな命題を音楽で表そうとしていると感じます。言ってみれば、命とは、時間の流れとは、といったような。


©上野隆文

 マエストロのリハーサルで第4楽章の「アダージェット」を弾きながら、私は夕焼けを眺めているところを想像します。一日を終えて夕陽を見ている。光り輝く水平線の向こうに太陽がゆっくり沈んでいって、次第に水平線も見えなくなる。海と空の境界線も、自分がいまいる場所も時間もわからなくなって、自分と世界が溶け合っていくような。どこか生と死がひとつながりになっている。そういう錯覚に陥るような演奏です。
 その後の5楽章は、「ぽーん」と何かが生まれるじゃないですか。葬送行進曲から始まって、途中の道のりがあって最後にまた何かが生まれる、という構造は円環的ですね。西洋音楽の時間の流れは本来一方通行なのですが。
 マーラーがどういう人物だったのか詳しいことまではわかりませんが、偉大な作品は作曲家のパーソナリティ以上のものを持っています。後世に残る作曲家の音楽はそういうものだと思っています。
 色々な解釈がありますし、マエストロがどう考えているのかはわかりませんが、マエストロはひとつひとつのエピソードに一喜一憂しない。第5番は音楽的にすごい場面がたくさんあるのですけれど、そこに固執しない。良い意味で達観している。良い音楽家にはそういう方が多いです。


――『ダンテを読んで』について


フランツ・リスト (1811-1886)


グスタフ・マーラー (1860-1911)


 元々の曲がすごい曲ですから、あれをオーケストレーションしようというのは良いアイディアだなと思いました。マーラーとリストは近い存在ですし、サウンド的にも近く、プログラムの組み合わせとしても非常に良いですよね。ソナタ風幻想曲と呼ばれているように原曲のピアノ作品は幻想曲風な演奏が多い作品です。ただオーケストラで演奏する上では機能的にそれが難しい面もあると思うのですが、マエストロの編曲は原曲の魅力を損なわない、それどころか「本当はこんな曲だったんじゃないかな」と思わせるようなものです。
 それから、マエストロのアレンジの特徴は「オーケストラがよく鳴る」ことでしょうか。リストらしさももちろんありますが、ヴェルディ、プッチーニ、マーラーといった作曲家の空気を感じます。

 マエストロ・バッティストーニは、オーケストラのコントロールが非常に上手く、生粋のリーダーですが、高圧的なところは全然ありません。いつも明快ですし、奏者に任せてくれる局面もたくさんあります。定期演奏会と長岡での4公演で一回ごとにどう作ってくるか、とても楽しみです。

 19世紀と20世紀の間に生まれた今回の作品は、言ってみれば古典クラシックと現代音楽の間の作品です。近年私たちのいる環境は非常に変化のスピードが速く、ここ数年特に多様なジャンルの演奏の機会が増えてきました。この流れに負けずに成長していくためには、同じくらいの速さで根っこを伸ばしていかなければ押し流されてしまうと感じています。そのような環境の中で、前世紀の過渡期にあった作品に取り組むという今回の機会は、幅広い時代とジャンルの音楽を日常的に演奏し、得意としてきている東京フィルならではのサウンドが生かされると思います。

 マエストロは今回マーラーを指揮するにあたって、古い指揮者──マーラーと一緒に仕事をしていたようなマエストロたち──の録音をたくさん聴いたとおっしゃっていました。マエストロが物事に向き合う態度は常に、このように一貫していると感じます。自分一人の考えではなく、必ず過去に学び、流行りに流されないものを構築する。マエストロの選曲や取り組みには彼自身の人生全体のプロジェクトが投影されている印象があり、今回のような取り組みからも、みんながマエストロをもっと好きになってくれるのではないかなと感じています。

【メッセージ動画】


【特集】

 ▷ 【特別記事】アンドレア・バッティストーニが語る「ダンテを読んで」(文=アンドレア・バッティストーニ/訳=井内美香)
 ▷ 【特別記事】9月定期演奏会の聴きどころ「リスト、マーラーとゆく地獄の門と天上への道」(文=ロバート・マルコウ)
 ▷ 【解説動画】リスト作曲=バッティストーニ編『ダンテを読んで』を語る!(お話:野本由紀夫)

9月定期演奏会 

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9月15日[木]19:00開演
東京オペラシティ コンサートホール
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9月16日[金]19:00開演
サントリーホール
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9月19日[月・祝]15:00開演
Bunkamura オーチャードホール

指揮:アンドレア・バッティストーニ
(東京フィル 首席指揮者)

曲目解説(PDF)


リスト(バッティストーニ編)/『巡礼の年』第2年「イタリア」より ダンテを読んで
マーラー/交響曲第5番


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主催:公益財団法人 東京フィルハーモニー交響楽団
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術創造活動活性化事業)| 独立行政法人日本芸術文化振興会
協力:Bunkamura(9/19公演)

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