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2024年4月26日(金)
6月定期演奏会は名誉音楽監督チョン・ミョンフン指揮、メシアン『トゥランガリーラ交響曲』。1990年にマエストロチョン自身が初めてこの作品を指揮した際、最晩年のメシアンがそこに立ち会い、その演奏に最大の賛辞を贈られたという記念碑的な作品です。
巨大な編成のオーケストラから特殊な音響が紡がれる本作のなかでも大きな特徴を示すのは打楽器のオーケストレーション。合計10人の打楽器奏者が必要とされ、緻密なアンサンブルで音像を創り上げてゆく様はライブでしか味わえない音世界、視覚的にも気になるところが満載です。今回、東京フィルの打楽器奏者に『トゥランガリーラ交響曲』の聴きどころと、オーケストラ奏者としての演奏の秘訣を存分に語ってもらいました。
【登場人物】
岡部亮登:2018年入団。首席奏者
木村達志:2007年入団。
中村勇輝:2023年入団。
縄田喜久子:2007年入団。
船迫優子:2007年入団。
――10人の打楽器奏者が必要とされるメシアン『トゥランガリーラ交響曲』。なかなかお目にかかれない、作曲家自身による割り振りや楽器配置の指定もあり、好奇心を刺激するオーケストレーションです。今回、打楽器セクションにお話を伺うにあたり楽器と演奏者の割り振りを決める「割り振り表」を見せていただきましたが、これはどこのオーケストラでも使っているものなのでしょうか?
『トゥランガリーラ交響曲』のスコアに掲載されている打楽器の配置図
縄田喜久子 ⓒ上野隆文
3月定期演奏会『カルミナ・ブラーナ』公演で
使用した「割り振り表」
縄田 よく演奏する曲では特に作らないです。『トゥランガリーラ』のように使う楽器の数が人数に対してものすごく多かったりするときに必要になるので、必要な時に作るという感じですね。
――通常、楽器の舞台上の配置、レイアウトはどのような形で決まるのでしょうか?
船迫 割り振りができたら、この表をステージマネージャーさん(※ステージ上の楽器の配置を担当する)に渡すという流れが最近定着してきました。
縄田 大体こういう配置で楽器が並んでいると良いな、というレイアウトをセクションで作ってお渡しすることもあります。
木村 作曲賞の選考会などは大変なことが多いですね。楽器ではないもので音を出すミッションが発生することもあり。
一同 多いね(笑)
木村達志 ⓒ上野隆文
木村 演奏している時間よりも準備している時間のほうが長いですね。特に、譜面関係の。以前、新国立劇場でツィンマーマン『軍人たち』を初めて演奏した時は、最初、何人の奏者が必要なのかも分からなかった状態から始まりました。演奏時間は2時間くらいの作品で、楽譜を見て譜分けするのに1ヶ月かかりました。
船迫 バレエ『アラジン』もそうでしたね。
――メシアンの『トゥランガリーラ』のように、最初から「何人必要ですよ」とスコアに書かれている方がむしろ珍しいのでしょうか。
木村 バレエ『アラジン』は、楽譜上はティンパニ奏者と打楽器奏者3名で演奏できるように書かれているのです。でも、バレエのピットで1人の打楽器奏者の周りにそれだけの楽器を並べることができないのです。ピットの広さとして並べられる場所が限られている。そのために、新国立劇場バレエで演奏するときは人数を増やして7人で演奏することにしました。
船迫 そうです。楽譜としては「3段」しかないのに……
――作曲家としては、楽器を並べる空間さえあれば3人で演奏できるはずだったということなのですね。
縄田 実際に音を出すというところのシミュレーションができていない作品というのは、現代作品は特によくありますね。
木村 「楽譜は3人分で書いてあるんだから3人で演奏できるようにしてくれよ!」と言いたくなりますね(笑)
一同 (笑)
船迫優子 ⓒ上野隆文
船迫 音符としてはもちろん、例えば打楽器奏者が手や身体で音を「止める」ことや、持ち替えのために用意したりする段取りをすることまでは多くの作曲家は知らない、想像がつかないのだろうなと思います。
縄田 「1小節休みがあったら1拍、音を入れられる」と思ってしまうみたい。そうはいかない。
一同 (笑)
――2月定期演奏会の『春の祭典』しかり、6月の『トゥランガリーラ』も変拍子や複雑なメロディが多く、小節を数えたりタイミングを取ったりすることも一筋縄ではないと思うのですが……
木村 リハーサルで「落ちる」のは実は、起こりうることで。「あっ」と思ったらその部分は終わっています。
縄田 リハーサルの最初の方はいろいろなことがいろいろなところで起きていますね。
――そのような段階から、本番を迎えるまでにマエストロが描くように音色やタイミング、アンサンブルなどを仕上げていく過程は、演奏者にとってどのようなものなのでしょうか。なかなか言語化する機会はないとは思うのですが。
一同 相当、人それぞれですね。こういうことは確かに人に話しませんね。
船迫 経験も違いますし。
ティンパニ奏者 岡部亮登 Ⓒ上野隆文
岡部 例えば私の場合は、最近は事前に「準備しない」。ここはこういうふうに、ということをあまり「決めない」で臨むようにしています。決めてしまうとそれを発揮しなければと思ってしまうし、自分の頭で想像できる以上のことがきっと起こっているのだろうから、なるべく「決めない」ようにしていた方が、ひょっとしたら音楽的になるのかな、なんて、最近は考えています。
船迫 音楽上で思った通りにならないことの方が多い。だから、フレキシブルにできるような方が良いのかもね。
――「こうなるはずだったのに」となってしまう。
木村 あまり「決め」過ぎてしまうと、そうじゃなかった時の反動が大きいですね。次、じゃあどうしよう、みたいになってしまう。だから、曲はこんな感じ、と大きくとらえて「じゃあ、それで」と。
岡部 打楽器は指揮者によって何とでもできてしまう楽器なんです。極端な話、同じ音符について「ものすごく大きく」とも、「ものすごく小さく」とも。なんとでも「いじられ」やすいポジションなんです。
船迫 そうですね。
中村勇輝 ⓒ上野隆文
中村 私も同様で、最近は「準備しなく」なりました。スコアは今も読んで行くのですけれど、以前はガチガチに練習して作って行くと、実際に現場でリハーサルに臨んだ時に全く違う音楽の作り方だと、自分のやり方の癖がついてしまっていて対応できないということもあったので。それと、あまり「自分が演奏している」という意識を持たないで、俯瞰してやっているという状態で演奏した方が、周りが何をやっているかも気づけて、音も掬い取りやすいのかなと。
一同 すごいね。核心を突いているね。
木村 もちろん、彼らが言っているのはその曲がどんな感じの曲かと言ったことは知った上で、の話ですからね。
縄田 事前準備ゼロで来るっていうことじゃなくてね(笑)
木村 初めてやる人が何の予備知識も無く来たら何も音出せないで終わってしまう(笑)
――東京フィルの持ち味としてフレキシビリティを上げる方が多いのも、この辺りに理由があるのかもしれません。
縄田 バレエ等が一番わかりやすいと思うのですが、ダンサーさんのテンポや動き、決めどころなども全然違うので、オーケストラが決めたテンポでやっていても全然意味がなかったりするんです。
――バレエのピットで演奏する場合、舞台の上は見えないわけですよね?
船迫 「何か起こりそう」という気配がある時があるんです。
木村 起こる時は起こる気配がします。
船迫 「何かあるな」と気配で察しながら演奏しているとテンポがこう、揺らいだり、一番最後でちょっと「間(ま)」が空いたり。でも、そのアンテナは東京フィルの人たちはみんな凄いです。
(続く)
2024年2月定期演奏会 チョン・ミョンフン指揮『春の祭典』より ⓒ上野隆文
6月定期演奏会
6月23日[日]15:00開演
Bunkamura オーチャードホール
6月24日[月]19:00開演
サントリーホール
6月26日[水]19:00開演
東京オペラシティ コンサートホール
指揮:チョン・ミョンフン
(東京フィル 名誉音楽監督)
ピアノ:務川慧悟
オンド・マルトノ:原田 節
メシアン/トゥランガリーラ交響曲
公演時間:約80分(休憩なし)
本公演「メシアン:トゥランガリーラ交響曲」は休憩がございません。
また、全10楽章(約80分)を続けて演奏いたしますので、開演後にご到着されたお客様、一度ご退席されたお客様は客席内にお入りいただくことができないため、ホワイエのモニターでのご鑑賞となります。
お時間に余裕を持ってご来場くださいますようお願い申し上げます。
1回券料金
SS席 | S席 | A席 | B席 | C席 | |
---|---|---|---|---|---|
チケット料金 | ¥15,000 |
¥10,000 |
¥8,500 |
¥7,000 |
¥5,500 |
※( )…東京フィルフレンズ、WEB優先発売価格(SS席は対象外)
主催:公益財団法人 東京フィルハーモニー交響楽団
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(公演創造活動))| 独立行政法人日本芸術文化振興会
協力:Bunkamura(6/23公演)
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ