ホーム > インフォメーション > 【特別記事】7月定期演奏会の聴きどころ ダン・エッティンガーは語る「マーラーからブルックナー、私の音楽の重要な転換点を東京フィルで示します」

インフォメーション

2024年4月26日(金)

 2024年7月。桂冠指揮者ダン・エッティンガー(1971-)が10年ぶりに東京フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会に戻ってくる。メインは今年が生誕200年に当たるブルックナーの「交響曲第4番『ロマンティック』」。東京フィルとブルックナーを演奏するのは今回が初めてで、エッティンガーも自身の音楽の新たな展開の場と位置付ける。ドイツの自宅と東京を結び、その意気込みを語ってもらった。




アントン・ブルックナー(1824-1896)。
自身の交響曲に繰り返し改訂を加えたことでも知られる

――東京フィルとはオペラやマーラーの交響曲の印象が強く、ブルックナーは意外です


 「若い頃からマーラーをたくさん指揮してきましたが30代、40代と経験を積んで50代に入り、自身の音楽語法を拡張していく主軸として、ブルックナーへの転換を意図的に進めています。すでに『交響曲第4、5、7番と〝0番〟(習作)』を手がけ『第8番』を準備中です。東京フィルとブルックナーを初めて演奏するのに際して『第4番』を選んだのは、最も指揮した回数が多く、日本でも演奏頻度の高い作品だからでした」。




――ブルックナーのどこに魅力を覚えたのですか?


 「天才建築家の仕事を思わせる、建築的構造の美意識です。長い音楽の伝統と一体の素材と天啓を一切の夾雑物(混じりけ)なしに直接結びつけ、オルガンのように響かせるブルックナーの作曲手法はまさに、偉大な宮殿を思わせます。私の個人的な考えでは、とても正直な音楽です。何かを暗示したり投影したりはせず、極めて古風で純粋なままの音の素材から独自の響きを成し遂げてしまうブルックナーのサウンド・コンセプトに惹かれます」。



――ブルックナーは自作に何度も改訂を施した結果、同じ曲に複数の版が存在します


 「ブルックナーはオルガン奏者を長く務め、遅くに作曲を始めたことを絶えず意識していました。だからこそ慣習にとらわれず、保守的とはならなかった半面、本当にそれで良いのか先生や同僚に意見を求めるのはもちろん、自身でも4回、5回......とスコアを読み直し、改訂を重ねたのです。自分に厳しく、一貫して学び、拡張する作業をやめませんでした。この終わりない作曲プロセスを通じ、構造はますます拡大していきました」。



2010年から2015年まで東京フィル常任指揮者をつとめたマエストロエッティンガー。現在はシュトゥットガルト・フィル、イスラエル・オペラ及びイスラエル響、ナポリ・サンカルロ劇場音楽監督を兼任。マンハイム国民劇場音楽総監督も務めた。近年、意識的にブルックナーを多く取り上げているという ©niedermueller




――東京フィルとの『ロマンティック』は、どの版で?


 「ごく一般的なレオポルド・ノヴァーク版です。初稿版をはじめ、いくつかの版が存在し、色々な意見があるのも知っていますが、ノヴァーク版は現時点で最も信頼され頻繁に演奏されています。東京フィルとブルックナーを演奏するのは初めてですから、一番普通の版を採用するに越したことはありません」。



――マーラーからブルックナーへの転換を強調されましたが、同じ文化圏に生きた時間が重なり、時代精神もある程度共有したとすれば、音楽上の共通点も多いはずですが


 「ブルックナーとマーラー、私は全く違うという意見です。今日、オーケストラの演奏能力は飛躍的に高まり、作曲技法も複雑さを増していますが、結果として、多くのことが似たり寄ったりになりがちで、差異を感知しにくい状況にあります。2人の作曲家は『ドイツ・ロマン派』の枠組みを共有しているだけで、音楽、特にエモーションのあり方は対照的です。マーラーの狂気一歩手前の領域で大きく揺れ動く感情に対し、ブルックナーはエモーションの境界線をよくわきまえ、構造的に組織された枠の中に収め、パワーを発揮します。目下は私自身がブルックナー交響曲全曲サイクルの途上にある状況で、それぞれのオーケストラに固有の響きを確かめつつ、構造美の世界を究めていくつもりです」。



――東京フィルとのケミストリー(化学反応)にも期待が募ります


 「新国立劇場の『ファルスタッフ』で日本デビュー、東京フィルを初めて指揮してから20年です。常任指揮者だった時期(2010〜2015年)、東京フィルと私が一緒に育んだ響きの記憶が残っていることを確信します。定期公演を振るのは10年ぶりですが、この間に私も音楽の旅を続け、指揮者として成長を続けてきました。今、両者が再び巡り合い、ブルックナーとモーツァルトを演奏するのは絶対、特別な瞬間となるはずです」。




マエストロエッティンガーとは
初共演となるピアニスト阪田知樹。
モーツァルト「ピアノ協奏曲第20番」で登場
©Ayustet

――モーツァルトの「ピアノ協奏曲第20番ニ短調」のソロは阪田知樹さんです


 「選曲は阪田さんの希望ながら、手を傷めるまでは私もピアニストとして弾き、とても大切な作品です。ニ短調協奏曲を『ロマン派的』と考える傾向には与しませんが、ロマンティックな気分を喚起するのは確かで、ブルックナーの交響曲のタイトルにも合致します。阪田さんとは初共演。新しい世代のアーティストとの出会いはいつも楽しみです」。



――今回は東京二期会の宮本亞門演出『蝶々夫人』(プッチーニ)のピットにも東京フィルとともに入ります


 「外国人の指揮者が53歳にして初めて日本で、日本人を主役としたオペラを振る!ヨーロッパの歌劇場でも『椿姫』と並ぶ人気作品だから何度も指揮し、自分にとっては“パンとバター”のようなレパートリーなのですが、”寿司とワサビの国”での体験は私のキャリアにとって、新たな1章に違いありません。しかも、東京フィルとプッチーニ全幕を演奏するのは初めてなので、すごく楽しみにしています」。



――最後に東京フィル定期会員の皆様、日本の聴衆にメッセージを


 「7月定期は単なる再会ではなく、チームの再構築です。私と東京フィルの“内輪”ではなく、聴衆の皆さんも交えたエキサイティングな体験を期待します」。



――ありがとうございました。東京での再会が楽しみです。





池田卓夫(いけだ・たくお)/音楽ジャーナリスト@いけたく本舗
1958年東京都生まれ。81年に早稲田大学政治経済学部政治学科を卒業、(株)日本経済新聞社へ記者として入社。企業や株式相場の取材を担当、88~91年のフランクフルト支局長時代に「ベルリンの壁」崩壊からドイツ統一までを現地から報道した。音楽についての執筆は高校在学中に始め、専門誌へも寄稿。日経社内では93年に文化部へ移動、95〜2011年に編集委員を務めた。18年9月に退社後は「音楽ジャーナリスト@いけたく本舗」を名乗り、フリーランスの執筆、プロデュース、解説MC、コンクール審査などを続けている。
https://www.iketakuhonpo.com/



7月定期演奏会 

チケットを購入
7月24日[水]19:00開演
東京オペラシティ コンサートホール
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7月28日[日]15:00開演
Bunkamura オーチャードホール
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7月29日[月]19:00開演
サントリーホール

指揮:ダン・エッティンガー(桂冠指揮者)
ピアノ:阪田知樹


モーツァルト/ピアノ協奏曲第20番*
ブルックナー/交響曲第4番『ロマンティック』(ノヴァーク版)
〈ブルックナー生誕200年〉


特設ページはこちら


1回券料金

  SS席 S席 A席 B席 C席
チケット料金

¥15,000

¥10,000
(\9,000)

¥8,500
(\7,650)

¥7,000
(\6,300)

¥5,500
(\4,950)

※( )…東京フィルフレンズ、WEB優先発売価格(SS席は対象外)


1回券発売日

最優先(賛助会員・定期会員)

4月13日(土)10時~

優先(東京フィルフレンズ)

4月20日(土)10時~

一般発売

5月7日(火)10時~

WEB優先発売期間 / 期間中はどなたさまも定価の1割引き!

4月20日(土)10:00 ~ 5月6日(月)23:59

※東京フィルチケットサービスはチケット発売初日の土日祝のみ10時~16時営業


主催:公益財団法人 東京フィルハーモニー交響楽団
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(公演創造活動))| 独立行政法人日本芸術文化振興会
協力:Bunkamura(7/29公演)

公演カレンダー

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