インフォメーション
2024年7月23日(火)
――神田さんはブルックナーの『ロマンティック』には非常に思い入れがあると伺いました。
「プロの演奏家として活動していると若い演奏家の方から『どうすれば緊張を克服できますか?』と聞かれることが多くなりました。私の経験からの答えは『緊張から逃れるのは不可能』ということ。結局、体が思うように動かせない状態での演奏に慣れるしかない、ということなのですが、いま、定期演奏会で演奏するブルックナーの交響曲第4番『ロマンティック』は、まだ私が学生あがりだった頃に死ぬほど緊張しながら演奏した思い出の曲です。
当時、とあるプロ・オーケストラで、ブルックナーの『第4番』で客演首席奏者を務めさせていただきました。第2楽章の鳥が穏やかに鳴いているようなフルート・ソロは、リハーサルから本番まで、毎回口から胃が出そうな程緊張しました。
本番でそのソロが上手く行ったかどうかは私には判断できませんが、そのソロの直前の弦楽器のメロディが、極限の心理状態の私にはこの世で最も美しい音楽に聞こえました。同時に、その美しいメロディは私にとっては死神がこちらに近づいてくるのと同義でもあり『ああ、死ぬ時ってこんな感じなのかな』とも思ったものです」。
――ブルックナーの音楽について
「お祈り、正拳突き、素振り、筋トレ……目的は違えども『繰り返しの美学』はどのようなジャンルにも存在します。ブルックナーの音楽は、異なる音楽の羅列、リズムの繰り返しからなり、そして全交響曲の構成も同じです。これぞまさに信仰であり自己陶酔の極致だと思います。彼自身の可能性にひたすら挑戦し続けたという点が、私がブルックナーの音楽に惹かれる理由の一つかもしれません。
現実の人生とは物語のように勧善懲悪も起承転結もない、毎日の他愛もない喜怒哀楽の繰り返しです。マエストロ チョン・ミョンフンはブルックナーの音楽は『永遠に続く信仰の旅』だとおっしゃっていました。コンサートでは聴衆の皆様とその旅の一幕を共有したいと思います」。
――モーツァルトのピアノ協奏曲第20番について
「コンサートの前半で演奏するモーツァルトのピアノ協奏曲20番は、ブルックナーの大編成の陰に隠れているように見えますが、人類史に残る偉大な楽曲の一つです。これだけメロディが胸に染み込んでくる曲は他にないと思います。小ぶりな編成ではありますが、どこかで聞いたことがあるようなノスタルジックなメロディと、モーツァルトの遊び心がギュッと濃縮された名曲です。東京フィルと何度も共演しているピアニストの阪田知樹さんのピアノソロもとても楽しみです」。
――マエストロ ダン・エッティンガーとの共演について
「マエストロとは、先日千秋楽を迎えた東京二期会のオペラ『蝶々夫人』で初めて一緒に演奏しました。『蝶々夫人』のリハーサル中にも感じたことですが、マエストロの音楽の要求には、聞き手を飽きさせない様々なギミックがありますが、根底には絶えず“歌”が流れています。弦楽器の合奏から、木管の旋律、金管のコラールなど、すべてに歌のフレーズ感を重ねているのです。オペラ演奏の伝統のある東京フィルとの親和性がとても高いと感じました。歌のある自然な音楽と奇抜な発想が混在しているマエストロが、ブルックナーの描いたストーリーをどう調理していくのかとても楽しみです」。
7月定期演奏会
7月24日[水]19:00開演
東京オペラシティ コンサートホール
7月28日[日]15:00開演
Bunkamura オーチャードホール
7月29日[月]19:00開演
サントリーホール
指揮:ダン・エッティンガー(桂冠指揮者)
ピアノ:阪田知樹
モーツァルト/ピアノ協奏曲第20番*
ブルックナー/交響曲第4番『ロマンティック』(ノヴァーク版)
〈ブルックナー生誕200年〉
1回券料金
SS席 | S席 | A席 | B席 | C席 | |
---|---|---|---|---|---|
チケット料金 | ¥15,000 |
¥10,000 |
¥8,500 |
¥7,000 |
¥5,500 |
※( )…東京フィルフレンズ、WEB優先発売価格(SS席は対象外)
主催:公益財団法人 東京フィルハーモニー交響楽団
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(公演創造活動))| 独立行政法人日本芸術文化振興会
協力:Bunkamura(7/29公演)