ホーム > インフォメーション > 3月定期演奏会の聴きどころ「イタリアとフランスの美質が相乗効果で拡大する バッティストーニならではの管弦楽プログラム」 文=香原斗志

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2023年2月6日(月)

イタリアとフランスの奥深い組み合わせ


ⓒ三浦興一

 東京フィルの首席指揮者、アンドレア・バッティストーニの美点を挙げればキリがないが、なかでも以下の3つが抜きんでているのは疑いない。故国イタリアの音楽に特徴的な情熱やカンタービレを横溢させる力。エスプリと称されるフランスらしい軽妙洒脱、かつ色彩的な表現力。複雑な音楽を俯瞰して、その構造を合理的に把握し、ダイナミックかつ精妙に再現する手腕。
 3月定期演奏会は、これらの美質がからみ合い、相乗効果も期待される曲がたくみに並べられている。イタリアの音楽とフランスの音楽が、たがいにあたえ合った影響も聴きとれるように組み合わされているのである。


エクトル・ベルリオーズ(1803-1869)

 まずはエクトル・ベルリオーズ(1803-1869)の序曲『ローマの謝肉祭』(1843年)。「序曲」と名づけられてはいるが、失敗に終わったオペラ『ベンヴェヌート・チェッリーニ』(1838年初演)の主要なモチーフを再構成した、単独の管弦楽曲だ。ちなみに、チェッリーニとはルネサンス末期に強烈な自負心をむき出しにした彫刻家で、オペラはその自伝をもとに書かれていた。華々しい序章ではじまり、前半は夢想するように展開し、後半はイタリア中南部の郷土舞踊「サルタレッロ」をもとに、目まぐるしく展開する。
 まさしくイタリアらしい情熱が、ベルリオーズの大規模で色彩的な管弦楽で装飾されている。こうした音楽の輝かしさをさらに際立てるのがバッティストーニ十八番であることは、いうまでもない。


アルフレード・カゼッラ(1883-1947)

 続いて、今年が生誕140年にあたるイタリアの作曲家、アルフレード・カゼッラ(1883-1947)の狂詩曲『イタリア』(1909年)が演奏される。近年、再評価が進んでいるカゼッラの管弦楽曲は、レスピーギにも通じる色彩的なオーケストレーションが魅力で、なかでも交響的狂詩曲である『イタリア』が名高い。
 これをフランス人の作品ではさんだ選曲は心憎い。トリノ生まれのカゼッラだが、留学した先はパリ音楽院で、作曲はガブリエル・フォーレに師事している。また、この『イタリア』は1910年のパリ万博のために書かれた曲である。
『ローマの謝肉祭』はフランス人が描いたイタリアなら、こちらはフランスで学んだイタリア人が、フランスのために描いたイタリア。こうして伊仏の異なったからみ合いを、バッティストーニの鮮やかなタクトで聴けるのだ。
 曲の後半はナポリ歌謡「フニクリ・フニクラ」の素材が、さまざまに編曲されて大胆な盛り上がりを見せる。フランスのエスプリに支えられたイタリアらしい情熱。バッティストーニが高鳴らせるラテン的な高揚感に圧倒されるに違いない。
 

壮麗な曲からてらいなく力を引き出すバッティストーニ


カミーユ・サン=サーンス(1835-1921)

 そしてメインディッシュが、カミーユ・サン=サーンス(1835-1921)の交響曲第3番『オルガン付き』(1886年)である。  2歳でピアノを弾き、3歳で作曲したなど、天才神話に事欠かないサン=サーンス。51歳の円熟期に書いた交響曲がこの『オルガン付き』で、バッティストーニはこの曲を「19世紀末の最新鋭のオーケストラ・ショーピース」で、「音楽のエッフェル塔のような曲」だと語る。
 サン=サーンスがその特性を熟知していたオルガンを使いながら、明快な旋律線と澄んだ響きを、まさにエッフェル塔のように重ねていった曲で、事実、作曲家自身が「私のすべてをつぎ込んだ曲」だと語っている。それが証拠に、その後の人生でサン=サーンスは二度と交響曲を書くことはなかった。
 こうした壮麗な曲をてらいなく、作品の奥底から力を湧き上げながらダイナミックに聴かせるところに、バッティストーニの真骨頂がある。
 ところで、カゼッラを教えたフォーレは、サン=サーンスの教え子である。イタリアとフランスの複雑な連関を、曲の組み合わせにさり気なく織り込むのも、さすがはバッティストーニ。そんなマエストロの特性を知り尽くし、強い絆で結ばれた東京フィルとのコンビだから、知性と感性の双方が、強く刺激されるコンサートになるのはまちがいない。



©上野隆文



 香原斗志(かはら・とし)

オペラを中心にクラシック音楽全般について、さまざまな媒体に執筆。著書に『イタリアを旅する会話』(三修社)、『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)。毎日新聞クラシックナビに「香原斗志『イタリア・オペラ名歌手カタログ』」、「モーストリークラシック」誌に「知れば知るほどオペラの世界」を連載中。歴史評論家の顔も持ち、近著に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(共に平凡社新書)がある。

3月定期演奏会 

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3月9日[木]19:00開演
東京オペラシティ コンサートホール
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3月10日[金]19:00開演
サントリーホール
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3月12日[日]15:00開演
Bunkamura オーチャードホール

指揮:アンドレア・バッティストーニ
(東京フィル 首席指揮者)
オルガン:石丸由佳*

楽曲解説(PDF)


ベルリオーズ/序曲『ローマの謝肉祭』
カゼッラ/狂詩曲『イタリア』(カゼッラ生誕140年)
サン=サーンス/交響曲第3番『オルガン付き』
*


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主催:公益財団法人 東京フィルハーモニー交響楽団
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術創造活動活性化事業)| 独立行政法人日本芸術文化振興会
協力:Bunkamura(3/12公演)

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