ホーム > インフォメーション > 6月定期演奏会の聴きどころ 「桂冠指揮者 尾高忠明が語る尾高惇忠『イマージュ』とラフマニノフ」

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2023年3月17日(金)

6月定期演奏会は桂冠指揮者尾高忠明が登場。2021年に急逝した兄で作曲家の尾高惇忠氏と、今年アニヴァーサリーを迎えたラフマニノフ、それぞれの若き日の作品を取り上げます。マエストロに作品についての思いをたずねました。




兄・尾高惇忠と「イマージュ」の想い出


尾高惇忠
(1944年3月10日-2021年2月16日)


『イマージュ』初演時のプログラムノート
出典:第7回民音現代作曲音楽祭
(主催:民主音楽協会)

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 「兄(作曲家・尾高惇忠)はつい最近(2021年2月)亡くなりました。兄と僕は子供の頃から非常に仲も良かったし、喧嘩もよくしました(笑)。僕たち兄弟は母から「何の職業でも選びなさい。でも音楽家はだめ」って言われていたのだけれど、兄貴が作曲で僕は指揮者になった。すごい親不孝にも思えるけれど、でも、それしかできなかったのかなと思いますね。
 兄は作曲で藝大に入り、フランスのパリに留学し、帰国して色々な曲を書き始めました。その頃、僕は民主音楽協会の現代音楽祭の選考委員をしていたのですが、僕以外の選考委員の方々が『お兄様に書いてもらいましょう』と言い出した。でも、当時、兄はオーケストラの曲をまだ書いていなかったからちょっと怖いと僕は言ったんです。ところが他の人たちがみんな一致して『いや書いてもらいたい』とおっしゃった。兄は弟が選考委員だから頼まれたと人が思うだろうから嫌だなとか言っていたのですが、頑張って書き出しました。ところが、なかなか筆が進まなくてすごい難産でした。
 それでも、どんどん日にちが迫ってきて一応完成した(初演は尾高忠明指揮東京フィル)。さあ、明日から練習だというときに、兄が指揮をする僕の家までやってきたんです。泊まって『一緒に行こう』と。ところが一緒に食事してもほとんど何も食べない、心配で何も手につかない。ご飯もほとんど食べず、ちょっと食べて、どうしよう、音が一つも出なかったらどうしようと言っている。僕が『楽譜に書いてあるんだから、みんな絶対絶対弾いてくれるから、弟を信用しなさい』と言うのだけれど、それでももうガクガク震えているような感じでした。その日の朝はもう目がうつろでしたね。そして、練習したらやっぱりちゃんと音は出るし、東京フィルがとても良い演奏をしてくれたので、やっとほっとした。かなり難しい曲なので苦労しましたけど、本番はある程度うまくいって、「尾高賞」(1982年)をいただけることになりました。

※「尾高賞」は、作曲家で尾高惇忠・忠明兄弟の父・尾高尚忠氏(1911-1951)の生前の音楽界に遺した功績を讃えて1952年(昭和27年)に制定された音楽賞。「過去1年間に公開あるいは放送によって初演された交響管弦楽曲(独奏あるいは声楽をともなうものも含む)のうち、民族文化に根ざし、演奏者及び聴衆の共感が期待できる創造的内容を有する邦人作品」に与えることを目的とする。

 その後、兄はずいぶんたくさん、色々なオーケストラの曲を書きました。それぞれに立派な作品で、最後には40分とかのものができた。それに比べて、この「イマージュ」という曲はとても短いです。実は最近もあるオーケストラで演奏しましたが、短いけど「いやあ凝縮されているな」と思いました。あのときに浮かんだものを全部詰め込んだんだな、ってすごく懐かしい思いがしました。オーケストラの作品の処女作というのはその本人が非常に出ます。それが、短い時間に凝縮されている。本当に兄貴がものすごい苦労をして、でもすごいパワーを秘めて書いていた日々を思い出しました。そして、それを、音が出るか心配した東京フィルでもう1回再演できるのが、僕としては楽しみです。今の東京フィルにはそのときの演奏者は誰もいないでしょうから、どんなふうになるでしょう、面白いなと思います」

 

ラフマニノフ「交響曲第1番」について


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「ラフマニノフの「交響曲第1番」は、大変な名曲であるにもかかわらず、初演でひどいことを言われて落ち込んじゃって、演奏されなくなったという経緯がある。ラフマニノフの三つある交響曲の中で、「第3番」はすごく洗練されて、非常にフォームが整っている。「第2番」も、若気の至りもあっても実に立派な作曲家になった堂々たる作品。「交響曲第1番」は、ラフマニノフのいわゆる若気の至りです。至るところに火花を飛ばしている。最初からすごく激しいところがあったり、おセンチなところがあったり、ラフマニノフを好きな人は絶対好きだという曲です。
 若い頃に録音した「第1番」をBBCウェールズ・ナショナル管弦楽団の楽員も「いい曲じゃないですか」と言ってくれました。ただ問題が一つあって、当時使っていた譜面が見にくくて、どこのオーケストラも苦労して「曲はいいし解釈も良いから、この譜面を何とかして」と言われるぐらい。ずいぶん損していた曲だと思います。 けれど、初演のときに批評でひどいことを言った人たちが、もしも、ある程度でもあの曲の価値を認めてあげていたら、もっとこの曲の生い立ちは変わってきていると思うんです。ぜひとも初演で評判が悪かった曲だと思って聴かないでほしい。こんな若気の至りで、いわゆる溌剌とした、ラフマニノフとしては「これも書きたい、あれも書きたい」という思いがてんこ盛りです。長い曲ですけれど、多分聴いていてあっという間に進んでしまうと思います。
 今の東京フィルは非常にレベルが高い、特に歌心がすごくわかる。難しい曲だけれど、いい演奏になると思います。すごく情緒が必要な曲ですから、それを東京フィルがどんな風にやってくれるか。数年前に「第2番」を一緒にやりましたが、あのときもみんな素晴らしかったし、良い「第1番」になるんじゃないかと思います」



ラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番」について


セルゲイ・ラフマニノフ(1873-1943)

「ピアノ協奏曲はもちろん「第2番」が一番有名だけれど、ラフマニノフは4つ書いてそれ以外に、『パガニーニ・バリエーション』を加えると5つ。それぞれ全部違います。 このラフマニノフの第2番の協奏曲は、ある意味で「交響曲第2番」のように、欠点なしというか非の打ち所ないというか、非常にバランスのとれた素晴らしい曲。皆さんが好きなメロディも、ピアニスティックな良さのところもたくさんあるし、オーケストラのいわゆる独特のうねりというのがある。他の作曲家にはないものが、至るところにある。そしてなおかつ、ラフマニノフさんはピアニストですから、オーケストラもピアノの音楽的に演奏するところがたくさんあって、第3楽章の掛け合いのところなんかはオーケストラの力量次第ではピアノとうまく繋がらないようなこともある。日本のオーケストラはラフマニノフの「第2番」の協奏曲は数多く演奏していますし、そして東京フィルとも一緒にやったことはありますから、絶対にいい演奏になるでしょう。


ピアノ:亀井聖矢

 ソリストの亀井聖矢さんとは初めてご一緒します。桐朋にいい人がいるというのは前から話は聞いていて、その彼の名前が出てぜひそれでやりましょうと言っていたところでロン=ティボー国際音楽コンクールで優勝した。あれは大変なコンクールです。僕は民音のコンクールの審査員をやっているからよくわかります。審査員がした投票と聴衆が入れた投票というのは違うことが多いですが、彼の場合、聴衆賞も評論家賞も1位も全部取ったということで、本当に正真正銘素晴らしいんだろうなと、すごく楽しみです。ラフマニノフのピアノ協奏曲2番も徹底した定番ですから、これは亀井聖矢くんという若い人を聞いてみましょう、僕を含めて一緒に聞きましょう、と申し上げたいです。
 僕が若い頃は、日本で優れたソリストといえばヴァイオリンでした。でも日本のピアニストはものすごい人たちが出てきて、海外で評価が全然変わって、もう安泰です。亀井さんはまだ21歳でしょう。僕と半世紀以上という歳の差で、どんな共演になるのか楽しみです。それと、ラフマニノフと兄貴(尾高惇忠)がいかに苦労して最初の曲/最初の交響曲を書いたか。ここで改めて一緒に演奏することによって、その2曲の新しさ、いわゆるニューウェーブを感じていただきたいと思います」。

(2022年12月・談)


2021年6月定期演奏会 ©中崎武志


6月定期演奏会 

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6月23日[金]19:00開演
東京オペラシティ コンサートホール
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6月25日[日]15:00開演
Bunkamura オーチャードホール
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6月27日[火]19:00開演
サントリーホール

指揮:尾高忠明(東京フィル 桂冠指揮者)
ピアノ:亀井聖矢*
(2022年ロン=ティボー国際音楽コンクール優勝)

楽曲解説(PDF)


尾高惇忠/オーケストラのための『イマージュ』
ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第2番*
ラフマニノフ/交響曲第1番

(ラフマニノフ生誕150年)


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主催:公益財団法人 東京フィルハーモニー交響楽団
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術創造活動活性化事業)| 独立行政法人日本芸術文化振興会(6/27公演)
協力:Bunkamura(6/25公演)

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