ホーム > インフォメーション > 【特別対談】11月定期演奏会 聴きどころ 翻訳家・松岡和子×指揮者・アンドレア・バッティストーニ「シェイクスピアとチャイコフスキー ~音が語る、物語の世界」Vol.2

インフォメーション

2023年5月24日(水)


「チャイコフスキーはシェイクスピアの戯曲世界の中のどこに連れて行ってくれるのかな」と期待しながら聴きます



マドックス・ブラウン
『ロミオとジュリエット』
(1869-1870、デラウェア美術館蔵)

松岡 聴く立場としても、チャイコフスキーが『テンペスト』を読んで作曲した作品で、その戯曲の世界の中のどこに連れて行ってくれるのかなということを期待しながら聴きます。



バッティストーニ チャイコフスキーは、これらのストーリーを順を追って辿っているわけではありませんね。私のイメージでは、物語を読んで、いくつかのシチュエーションを絵画的に捉えたときに頭に残るのは、人物や、たとえば真夜中の墓場といった特定の場面です。
 楽曲の中で王子ハムレットのキャラクターやオフィーリアの優しさを感じたり、トランペットのメロディでマーチを感じるとか、そういったことはありますが、ストーリーを物語るということはないと思います。音楽で物語を語るというのは難しいと思うのです。



ドラクロワ『ハムレットと二人の墓堀人夫』
(1843、大英博物館蔵)

松岡 そうですよね。同じチャイコフスキーで同じシェイクスピアから素材をとっていても、聴いている私はどちらかというと、幻想曲『テンペスト』からは絵(場面)が浮かんできたんです。だけど、幻想序曲『ロメオとジュリエット』の場合は「ストライフ(strife)」…騒乱の中を2人の愛の気持ちが流れていく、という感じがありました。で、幻想序曲『ハムレット』はというと不思議なことにあまり絵が浮かばなくて、むしろハムレットという人格の中で、あれこれ考えたり落ち込んだり……。



バッティストーニ ええ、私もそう感じます。




松岡 そして、『ハムレット』の曲の最後はどうしても……私の知識が邪魔してしまっているのかもしれませんが……最後の、音楽が沈んでいくところが、ハムレットの最後の言葉「The rest is silence.」のイメージになってしまう。ハムレットの最後の言葉「The rest is silence.」…「あとは沈黙」というのですが、あの音楽の終わり方も私にとってはそこへ向かってしまいます。






バッティストーニ 確かにそうなのだと思います。先ほど申し上げた“ゲーム”というのがまさにそういう意味です。
 物語を知っていると、より「ああ、これがインスピレーションの元だったんじゃないか」と、知れば知るほど発見できるというような。

 これは、チャイコフスキーがまるで演出家みたいにこの三つの作品の解釈を提示しているということでもありますよね。「どこにスポットライトを当てようか」とか、こういうキャラクターやシチュエーションを描こう、とか。シェイクスピアがどこに一番深く感じて書いたのかといった場面に、チャイコフスキーも光を当てて書いているけれど、もしかすると、それはチャイコフスキーの個人的な感性で感じたところかもしれません。
 たとえば幻想曲『テンペスト』で言うと、物語の最後で問題が解決するあたりで、音楽はとても輝かしかったのが突然、曲の冒頭の嵐のような音楽が出てきて、少し宙に浮かんだような、哀しみがある雰囲気になります。これは、ハッピーエンドを迎えたヒロインのミランダではなく、その父のプロスペローが、娘の幸せはハッピーだけれど、自分の魔力がなくなって、哀しさとか憂鬱さといった個人的な感情が沸いているのを感じます。



ヨーロッパ的な面とロシア的な面が拮抗しているチャイコフスキーに惹かれます


バッティストーニ チャイコフスキーの読みはとてもヨーロッパ的ですけれどロシアの要素もすごくあると思うのです。たとえば幻想序曲『ロメオとジュリエット』の最初の方で、ロレンス神父を描いているだろうなという部分、私にはこれはカトリックの神父ではなくてロシア正教の神父さんに感じられます。幻想序曲『ハムレット』のオフィーリアの旋律と思われるオーボエで演奏されるメロディも、とてもロシアの民族的な、シベリア的なものを感じます。
 チャイコフスキーは、ロシアではとてもヨーロッパ寄りの作曲家だと非難されました。他のロシアの作曲家がオペラやバレエなどを多く書いたのに比べて交響曲を6曲も書いていたり、より国際的な、西欧に視線が向いていました。でも、彼自身は非常に深くロシア的なところもありました。ヨーロッパ的な面とロシア的な面が拮抗しているところがチャイコフスキーの大きな特徴なのです。



松岡 それはチャイコフスキーのどの作品にも言えることなのですか?




バッティストーニ そうです。


Vol.3へ続く




11月定期演奏会 

チケットを購入
11月10日[金]19:00開演
サントリーホール
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11月12日[日]15:00開演
Bunkamura オーチャードホール
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11月16日[木]19:00開演
東京オペラシティ コンサートホール

指揮:アンドレア・バッティストーニ
(東京フィル 首席指揮者)
チェロ:佐藤晴真*
(2019年ARDミュンヘン国際音楽コンクール優勝)


チャイコフスキー/幻想曲『テンペスト』
チャイコフスキー/ロココの主題による変奏曲*
チャイコフスキー/幻想序曲『ハムレット』
チャイコフスキー/幻想序曲『ロメオとジュリエット』
(チャイコフスキー没後130年)


特設ページはこちら



1回券料金

  SS席 S席 A席 B席 C席
チケット料金

¥15,000

¥10,000
(\9,000)

¥8,500
(\7,650)

¥7,000
(\6,300)

¥5,500
(\4,950)

※( )…東京フィルフレンズ、WEB優先発売価格(SS席は対象外)


主催:公益財団法人 東京フィルハーモニー交響楽団
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(創造団体支援))| 独立行政法人日本芸術文化振興会(11/10公演)
後援:日本シェイクスピア協会
協力:Bunkamura(11/12公演)

公演カレンダー

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