ホーム > インフォメーション > 【特別対談】11月定期演奏会 聴きどころ 翻訳家・松岡和子×指揮者・アンドレア・バッティストーニ「シェイクスピアとチャイコフスキー ~音が語る、物語の世界」Vol.3

インフォメーション

2023年5月31日(水)


音楽ってそういうふうに作られるんですね。


テオドール・シャセリオー
『3人の魔女と出会ったマクベスとバンクォー』
(1855、オルセー美術館蔵)

松岡 バッティストーニさんも作曲なさいますよね。もしもバッティストーニさんが『ハムレット』でも『ロミオとジュリエット』でも作曲なさるとしたら、何から始めるのでしょうか。メロディが出てくるのか、絵が出てくるのか……



バッティストーニ 毎回同じではありませんが、シェイクスピア作品だったらおそらくまずは情景にインスピレーションを受けると思います。より正確に言うと、そこから出てくるイメージです。モノローグとか、私に何か特別な感情を与えた場面とか。



 シェイクスピアにインスピレーションを得た音楽はまだ書いたことがないのですが、『マクベス』を書くと想像すると、最初に頭に浮かぶのはマクベスのモノローグ“tomorrow and tomorrow and tomorrow”(明日も、また明日も、また明日も)だと思います。そのイメージから音が想起されて、そのリズムを音楽の中に入れることも。それから、魔女たちを描いたようなグロテスクな音楽とか、それぞれの人物の悲劇のテーマですね。マクベスの闘いの場面ではバーナムの森が動いいて彼を脅迫するようなイメージがあったり。そういった「こういうイメージがあるのではないか」ということを、少しずつ集めていって音楽にしていく。そうして、最後には構成を与えなければならないですね。その出来上がり品は、シェイクスピアとも『マクベス』とも関係のない純粋な音楽だけになってしまうけれども、生まれたのはシェイクスピアの悲劇からだということです。


松岡 それが一番聞きたかった!音楽ってそういうふうに作られるんですね。



バッティストーニ 飽くまで、普段やっているプロセスから想像してみただけですけれど。




すべての芸術ってトランスレーションだと思っているんです。




松岡 私にとって音楽を創る世界というのは、何かとっても特別なんです。自分が譜面も読めないという劣等感もあるのかもしれないけれど。
 19世紀の文芸評論家のウォルター・ペイターという人の言葉に「All arts constantly aspires towards the condition of music.」(すべての芸術はたえず音楽の状態に憧れる)というのがあります。画家であれ彫刻家であれ、詩人であれ、みんなアスパイア(熱望)するのが音楽。だから小説や戯曲を読んでも、みんな音楽へと向かっていくという。私は翻訳家、トランスレイターなんですけれど、すべての芸術ってトランスレーションだと思っているんです。



バッティストーニ そうですね。



松岡 だから、実際に「海があって、空があって」というところに行ったときに、それを絵にすると「ヴィジュアルトランスレーション(視覚的な翻訳)」、音に翻訳すると曲になるし、言葉に翻訳すると詩になるし、そのトップに音楽があるのかなって。



バッティストーニ 音楽がトップにあるかどうかはわからないですけれど、19世紀はまさに、こういうスタイルの標題音楽の時代でした。音楽が絵を描いたり、物語を語ったり、悲劇を描いたりしようとした。音楽が音楽の中だけで完結しないで、音楽が音楽自身から外に出ようとした試みなんです。そこで、音楽が言葉に近い働きをしようとした。
 でも、音楽は言葉ではありませんから、その全体の形は言語の紡ぎ方に似た形を持っているんです。動きを模倣したり、田舎の風景を模倣しようとしてみたり、色彩を紡いだり。
 音楽について話をしなければいけないとき、音楽家どうしでも文学的・絵画的なメタファーで話すことが多いですね。音楽はある意味でやっぱり捕まえられないものである一方、私たちはそれを描写したい、書き留めたい。輝かしい音とか暗い音とか言うわけです。



松岡 音楽を聴いても言葉にしたくなるんですね。



指揮の仕事と翻訳の仕事。




松岡 私が、指揮の仕事と翻訳の仕事で通じるなと思ったことが一つあって、私はシェイクスピアの作品を日本語に翻訳してきて、私の翻訳を使って実際の舞台上演が行われたりしました。そこで色々な感想をいただくけれど、言葉に関して私が嬉しいのは、「松岡さんの翻訳が良いわね」と言われるよりも、「シェイクスピアの言葉って素敵ね」と言われることです。たぶん、バッティストーニさんも、「すごくいい指揮だね」と言われることももちろん嬉しいだろうけれど、それ以上に嬉しいのは「いい音楽だね」って言われることじゃないかなと思ったのですが、どうでしょう。



バッティストーニ まさにそうです。そんなことが何度もありました。一番嬉しい大きな賞賛は、オーケストラのメンバーが私のところに来て、これまで今やっているこの曲をよくわかっていなかった、好きじゃなかったけれど、いま一緒にやっているとよくわかるし好きだな、と言ってくれるということ。同じことですよね。私たちの仕事が、その作者の精神を翻訳することだからなのだと思います。



松岡 おそらくそういう気持ちで演奏家が演奏すれば、お客さんに届きますね。


バッティストーニ そう思います。



アンドレア・バッティストーニ ©K.Miura



11月定期演奏会 

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11月10日[金]19:00開演
サントリーホール
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11月12日[日]15:00開演
Bunkamura オーチャードホール
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11月16日[木]19:00開演
東京オペラシティ コンサートホール

指揮:アンドレア・バッティストーニ
(東京フィル 首席指揮者)
チェロ:佐藤晴真*
(2019年ARDミュンヘン国際音楽コンクール優勝)


チャイコフスキー/幻想曲『テンペスト』
チャイコフスキー/ロココの主題による変奏曲*
チャイコフスキー/幻想序曲『ハムレット』
チャイコフスキー/幻想序曲『ロメオとジュリエット』
(チャイコフスキー没後130年)


特設ページはこちら



1回券料金

  SS席 S席 A席 B席 C席
チケット料金

¥15,000

¥10,000
(\9,000)

¥8,500
(\7,650)

¥7,000
(\6,300)

¥5,500
(\4,950)

※( )…東京フィルフレンズ、WEB優先発売価格(SS席は対象外)


主催:公益財団法人 東京フィルハーモニー交響楽団
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(創造団体支援))| 独立行政法人日本芸術文化振興会(11/10公演)
後援:日本シェイクスピア協会
協力:Bunkamura(11/12公演)

公演カレンダー

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