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2024年3月19日(火)
【(再録)特別記事】
オンド・マルトノ奏者原田節インタビュー「オンド・マルトノの魅力に迫る!」
6月定期演奏会は名誉音楽監督チョン・ミョンフンの指揮による、待ち望まれた傑作メシアン『トゥランガリーラ交響曲』。本作では第一次世界大戦中にフランスの電気技師であったモーリス・マルトノによって生み出された電子楽器「オンド・マルトノ」の音色が効果的に使用されています。
東京フィルの6月公演には、この楽器の第一人者であり、世界中の名だたるマエストロやオーケストラと本作を350回以上演奏している原田節(はらだ・たかし)氏が登場。今年2月に実施したインタビューでは「こんなに何度も演奏していると、中には『飽きるんじゃない?』と言う人もいるのですが、とんでもない。毎回毎回、新しいものが生まれてきますし、私自身も今あらためてこの曲に向かうことによって本当に自分自身が面白いことになっている」と語ってくださっています。
ここでは2007年の「トゥランガリーラ交響曲」で原田氏と共演した際の記事を抜粋してご紹介します。
取材:三田村 宗剛(広報)2007年実施インタビューより
―オンド・マルトノとは、どのような楽器なのでしょうか?
音楽に電気を用いようとした動きはもう100年以上前からすでにあったのですが、1920年代にフランス人であるモーリス・マルトノが発明したのがオンド・マルトノという楽器です。彼はエンジニアであり音楽家でもありましたが、電気的な知識を持っていたので、第二次世界大戦で通信兵として従軍していました。その際、ラジオから出てくる通信音に着目し、これを楽音としてコントロールできれば楽器となるのではないかということで10年以上の歳月を経て発明しました。昔のラジオにはダイヤルが付いていて、周波数を合わせるときにノイズが出ていましたが、そのノイズをうまくコントロールして音楽にしたもの、といえば容易に想像できるかと思います。
―オンド・マルトノは1928年に発表されたこともあり、まだ新しい楽器といえますが、世界的にもまだ台数が少ない楽器です。
モーリス・マルトノはメーカーによる大量生産を拒絶したのです。彼にとって、オンド・マルトノとはひとつの芸術作品であり、他人に作成を任せるなんてことは考えられなかったのです。自分が作ることに意義があったのです。
―オンド・マルトノは第8世代まで開発されましたが、どのように変化していったのでしょうか?
リボン。鍵盤とリボンの2つの奏法がある。
発音原理が真空管からトランジスタを経てIC(集積回路)に変わったなどの変化はありましたが、それは中身の変化であって、表面の、つまり、身体に触れる部分は絶対に変化させませんでした。楽器を演奏するのは人間ですから、新製品が誕生するごとに奏法が変化してしまうと、非常に混乱をきたすのです。ヴァイオリンにしても、師匠から弟子に技術を伝える際、言葉だけでは伝承することができません。実際に演奏し、それを目で見て盗むことで弟子に引き継がれていくのです。そういった受継ぎができるように、モーリス・マルトノは表面上の変化はさせないことを守り通したのです。それは、彼が音楽家であったことの証です。ただエンジニアのみとしてのモーリス・マルトノであったならば、そうではなかったでしょう。電子楽器=機械として見られるならば、どこにどういった機能が追加されているのかという論点になってしまいますが、彼はチェロ弾きでもありましたから、「楽器とは何か?」を常に考え、奏法や一瞬の音にどれだけの説得力があるかを目標としていたと思うのです。
―音は似ていても、シンセサイザーとは全く違う楽器ですね。
トゥッシュと呼ばれる、強弱を表現する特殊なスイッチ。
オンド・マルトノは楽器も奏者もなかなか少ないので、同じ電子楽器であるシンセサイザーで代用されることもあったのです。しかし、シンセサイザーではオンド・マルトノを代用できないことに誰もが気づくのです。皆さん今でこそお馴染みのチェレスタもそうなのですが、70年代まではチェレスタが日本に数台しかなく、シンセサイザーで代用していました。ですが、チェレスタの音はチェレスタ以外では再現できないのです。チェンバロも、ピアノの出現により影を潜めつつありましたが、ではバッハの通奏低音をピアノで演奏したらどうなるのか?当たり前のようにそうしていた時代もあったわけですが、現代では想像だけでも違和感があるはずです。
―オンド・マルトノの音は生で聴いてみると、絶対に他の電子楽器では再現できないことがわかります。
一瞬だけの波形でしたら似ているかもしれません。ですが、音作りは全て演奏者が関わっていて、そこに楽器としての大きな意義があるのです。音程も演奏者のちょっとした動作で変化しますし、ビブラートも然りです。オーケストラにおいて、コンサートマスターがソロをワッと前面に出したいときは音 程を高めに取ったりとかビブラートを大きくしたりします。別に立ち上がったり楽器を取り替えたりするわけではなく、そのままの形で音を前に出してきます。そういったことができる電子楽器は、オンド・マルトノ以外には無いのです。
表情をつけた演奏と、表情をつけない演奏の比較。
リボンの奏法
―シンセサイザーなどの電子楽器では、例えるならば音は耳の鼓膜で止まります。ですが、オンド・マルトノの音は鼓膜を越えて体の隅々に響き渡ってくるのがわかります。電子楽器という括りでは収まらないですね。
スピーカーの1つ。24本の弦が張ってある。
確かに音源は電気の力を利用するのですが、音の出口であるスピーカーに着目したとき、普通の電子 楽器がアンプを通しさらにスピーカーで音を増幅して出すといった、いわゆる“電機の音”に対し、オンド・マルトノはスピーカーに弦や銅鑼が使用されていて、発音に関してはアコースティックだという、“電気の力を利用して出すアコースティックな音”なのです。ですから、空間に響き渡る振動が感じられるのです。
―オンド・マルトノの音を聴いていると、俗世を忘れられる気分になります。
モーリス・マルトノは教育者でもあるのですが、その研究の中に、いま流行のリラクゼーションについて何十年も前に着目していて、オンド・マルトノの音自体が、人々の心をリラックスさせることに大 きな目標を持っていたのです。このとっても独特な音は、人を惹きつけ、癒す力も持っているのです。
―最後に皆様へメッセージをお願いします。
今度演奏するトゥランガリーラ交響曲は、戦後という時代を高らかに宣言した、実際20世紀後半以降の作品の中で、オーケストラのレパートリーとして定着した初めての作品と言えるでしょう。お聴きにいらっしゃったお客さんは絶対に満足して帰られるのは間違いないのです。余計な言葉は要らない、とてもわかりやすい曲です。愛をテーマにした曲です。ピアノが男でオンド・マルトノが女として聴くだけでも非常に楽しめますよ(笑)
原田 節
Takashi Harada, Ondes Martenot
©Yutaka Hamano
三歳よりヴァイオリン、七歳よりピアノを始める。強烈な自己表現能力に優れたオンド・マルトノとの出会いを期に、慶應義塾大学経済学部を卒業後渡仏、パリ国立高等音楽院(コンセルヴァトワール)オンド・マルトノ科を首席で卒業、オンド・マルトノを独奏楽器として扱う世界でも数少ないソリストとしての演奏活動を開始した。ピアノを遠山慶子、オンド・マルトノをジャンヌ・ロリオ女史に師事。作曲家としても、オーケストラ作品から独奏曲、また数々の映画やアニメに至るまで幅広い分野でその才能を披露している。出光音楽賞、横浜文化奨励賞、ミュージック・ペンクラブ賞など受賞も多数。また、20世紀を代表するフランスの作曲家オリヴィエ・メシアン作曲「トゥランガリーラ交響曲」は、オンド・マルトノが主役として活躍する楽曲であり、日本国内はもちろん、ソリストとしてカーネギーホール、ベルリンフィルハーモニーホール、シャンゼリゼ劇場、パリ・オペラ座、ミラノ・スカラ座といった主要な劇場における世界最高峰のオーケストラとの共演は20ヶ国350回を超える。
オフィシャル・ホームページ:
https://harady.com/onde/index.html
2007年1月の東京フィル定期『トゥランガリーラ交響曲』より(指揮:チョン・ミョンフン、ピアノ:横山幸雄)
6月定期演奏会
6月23日[日]15:00開演
Bunkamura オーチャードホール
6月24日[月]19:00開演
サントリーホール
6月26日[水]19:00開演
東京オペラシティ コンサートホール
指揮:チョン・ミョンフン
(東京フィル 名誉音楽監督)
ピアノ:務川慧悟
オンド・マルトノ:原田 節
メシアン/トゥランガリーラ交響曲
公演時間:約80分(休憩なし)
本公演「メシアン:トゥランガリーラ交響曲」は休憩がございません。
また、全10楽章(約80分)を続けて演奏いたしますので、開演後にご到着されたお客様、一度ご退席されたお客様は客席内にお入りいただくことができないため、ホワイエのモニターでのご鑑賞となります。
お時間に余裕を持ってご来場くださいますようお願い申し上げます。
1回券料金
SS席 | S席 | A席 | B席 | C席 | |
---|---|---|---|---|---|
チケット料金 | ¥15,000 |
¥10,000 |
¥8,500 |
¥7,000 |
¥5,500 |
※( )…東京フィルフレンズ、WEB優先発売価格(SS席は対象外)
主催:公益財団法人 東京フィルハーモニー交響楽団
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(公演創造活動))| 独立行政法人日本芸術文化振興会
協力:Bunkamura(6/23公演)
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ