ホーム > インフォメーション > 【特別記事】6月定期演奏会の聴きどころ 名匠ピンカス・ズーカーマンとおくる美しき正統の輝き

インフォメーション

2025年5月1日(木)

半世紀をこえて響く“レジェンド”の存在感



指揮者としては2023年に初共演となった
ピンカス・ズーカーマン


2023年5月「渋谷の午後のコンサート」のリハーサルより

 6月の定期演奏会にピンカス・ズーカーマンが登場する。今年77歳、半世紀以上にわたり世界のトップステージで活躍し続け、賞賛を浴びてきたヴァイオリニスト。聴く人も共演者も、彼のオーラに惹き込まれて思わず笑顔になってしまうような、まさに「レジェンド」と呼ぶにふさわしい存在だ。
 1948年イスラエルのテルアビブに生まれ、アイザック・スターンに見出されて10代でジュリアード音楽院に留学し、イヴァン・ガラミアンに師事。その後の欧米での活躍はめざましく、リリースされた録音は100を超える。指揮者としても20代から活動しており、弾き振りの機会も数多い。ズーカーマンの魅力は、なんといっても豊麗な美音とスケールの大きさで、楽曲のもつ美しさ、さらにはヴァイオリンという楽器の魅力を広く伝えてきた。特に昭和の時期からのリスナーにとっては親しみのある名前だろう。
 近年は来日の頻度や公演回数が減っていることもあり、「レジェンド」といっても昔の録音でしかわからない……という向きもあるかもしれない。しかし、決して“過去の人”ではなく、むしろいまこそ聴くべきアーティストであると強調したい。
 ズーカーマン独特の練達のボウイングと深いヴィブラートが生み出す音色はいまだ芳醇で、音楽はますます大きくなっている。今年1月にはウィーン・フィル(ズービン・メータ指揮)と共演。70代後半のヴァイオリニストと世界最高の楽団の共演は稀少であり、演奏スタイルの流行が変わり続ける現代だからこそ、ヴァイオリンの喜びにあふれる彼の演奏の価値が高まっていることを示している。



別格の存在感、オーケストラとの共鳴に期待



オーケストラメンバーから再共演を望む声が
多くあがったマエストロ・ズーカーマン

 ズーカーマンと東京フィルの共演は1995年と2023年。なかでも指揮者とソリストを務めた2年前の共演のインパクトは大きく、聴衆はもちろんのこと、オーケストラ楽員、ことに弦楽セクションの好評が顕著で、再共演を望む声がすぐにあがったという。
 いまだプレイヤーとしての存在感は別格で、その音に触れるだけでも忘れがたい体験になるが、指揮者としての側面も重要なポイントになる。第一線の豊富な経験から得られた知見や、自身の音楽観から演奏の奥義までを、ソロに留まらずオーケストラ楽曲を通して惜しみなく伝え、具現化していく。楽員が受ける刺激は大きいし、その影響は演奏にダイレクトに反映される。レジェンドならではの存在感と、持ち前の明るいキャラクターが生み出す演奏の喜びが加わり、普段と違った東京フィルの響きが実現する期待が膨らむ。
 プログラムもズーカーマンの特長が活きるものになっている。まず、エルガーの「弦楽セレナード」。英国の大作曲家の優しくも深い情感が込められた名品。弦楽器を知り尽くし、イギリスで特に愛されてキャリアを重ねたズーカーマンの指揮で聴けるのは嬉しい。メイン曲はモーツァルトの交響曲第41番『ジュピター』。“音楽の喜び”そのものといえるような傑作であり、名匠のイメージにも通じるものがある。会場全体が充実感と興奮に包まれるに違いない。
 さらに注目したいのが、弾き振りの協奏曲にハイドンのヴァイオリン協奏曲第1番が選ばれたこと。本作はズーカーマンの弾き振りで2種類の録音(1977年、1991年)がリリースされている。最初の録音は48年前で、半世紀にわたりレパートリーとして弾き振りを続けてきた、自家薬籠中の1曲なのだ。これらの録音を改めて聴くと、彼の特長である甘く温かい音色と、豊かな歌心が感動的ですらある。これほどの美音と歌に満ちた古典作品の演奏は、いまや稀少な存在。20世紀の演奏スタイルをいまに伝える意義はもちろんのこと、近年多いソリッドな演奏法を愛好する人であってもこの世界を体験する価値はある。



スペシャル・プレコンサートはメンデルスゾーン「弦楽八重奏曲」


 加えて、開演前に「スペシャル・プレコンサート」として、ズーカーマンと東京フィルメンバーによる、メンデルスゾーンの弦楽八重奏曲第1楽章が演奏されることになった。彼の演奏でこの傑作を味わえるのは望外のチャンスで、共演メンバーの喜びの大きさもはかり知れない。本プログラム開演前から熱い空気になること間違いなし。
 圧倒的な“陽のオーラ”をもつズーカーマンが、得意の名作をそろえたコンサート。「レジェンド」の何たるかを示す、語り草となるような快演が実現するのでは。



2023年「午後のコンサート」
2023年「午後のコンサート」ではお話コーナーで客席に「一緒に歌って!」と促す場面も



林昌英(はやし・まさひで)/出版社勤務を経て、音楽誌制作と執筆に携わり、現在はフリーライターとして活動。「ぶらあぼ」等の音楽誌、Webメディア、コンサートプログラム等に記事を寄稿。オーケストラと室内楽(主に弦楽四重奏)を中心に執筆・取材を重ねる。2020年桐朋学園大学カレッジ・ディプロマ・コース音楽学専攻修了、研究テーマはショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲。



6月定期演奏会 

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6月22日[日]15:00開演
Bunkamura オーチャードホール
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6月23日[月]19:00開演
サントリーホール
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6月24日[火]19:00開演
東京オペラシティ コンサートホール

指揮・ヴァイオリン:ピンカス・ズーカーマン


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エルガー/弦楽セレナード
ハイドン/ヴァイオリン協奏曲第1番
モーツァルト/交響曲第41番『ジュピター』


スペシャル・プレコンサート
出演:ピンカス・ズーカーマン(ヴァイオリン)&東京フィルメンバー
曲目:メンデルスゾーン/弦楽八重奏曲第1楽章
各公演開演の30分前から舞台上にて約15分間の室内楽演奏がございます。

ピンカス・ズーカーマンと東京フィルメンバー

第一ヴァイオリン ピンカス・ズーカーマン
第二ヴァイオリン 三浦 章宏(東京フィル コンサートマスター)
第三ヴァイオリン 榊原 菜若(第一ヴァイオリンフォアシュピーラー)
第四ヴァイオリン 藤村 政芳(第二ヴァイオリン首席奏者)
第一ヴィオラ 小峰 航一(ヴィオラ首席奏者)
第二ヴィオラ 加藤 大輔(ヴィオラ副首席奏者)
第一チェロ 渡邉 辰紀(チェロ首席奏者)
第二チェロ 黒川 実咲(チェロ フォアシュピーラー)


【聴きどころ】世界に轟く名ヴァイオリニスト、ピンカス・ズーカーマンが弾き振りで登場。2023年の「午後のコンサート」に続いての共演となる。指揮者としてのズーカーマンは、作品への共感と作曲家への尊敬を込めた温かい音楽を作り上げる。ハイドンヴァイオリン協奏曲第1番では、ソリストとして美音を響かせながら、オーケストラに寄り添った演奏を聴かせてくれるだろう。エルガー「弦楽セレナード」では、オーケストラの弦楽器セクションから全幅の信頼を寄せられるマエストロのもと、味わい深い旋律を歌い上げるとともに、高密度のアンサンブルが期待される。モーツァルト交響曲第41番『ジュピター』はまさに至福の時。「崇高無比」な交響曲は、まばゆい光を放つに違いない。
文:柴辻純子(音楽評論家)


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