ホーム > インフォメーション > 【特別記事】ヴィオラ首席奏者小峰航一が語る 6月定期演奏会の聴きどころ

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2025年6月19日(木)

6月定期は指揮者、ヴァイオリン奏者、そしてヴィオラ奏者としても世界的に活躍するピンカス・ズーカーマンが「弾き振り」で登場。6月から東京フィル首席ヴィオラ奏者として入団した小峰航一が語ります。




出会いは“ヴィオラ奏者”ズーカーマン



初日リハーサルより

 「私は6歳からヴァイオリンを始め11歳でヴィオラに転向したのですが、その時の先生を通じて高校1年生の時にズーカーマン氏にヴィオラのレッスンをしていただいたことがあるのです。中学校の時の音楽の教室にはズーカーマン氏の写真が貼られていました。モーツァルトやクライスラーといった歴史的な世界の音楽家と並んで、その一人として。その人にレッスンを受けられると聞いて、最初は信じられなかったのですが。今回もズーカーマン氏とメンデルスゾーンの弦楽八重奏をご一緒できるということで、『嘘みたい』と思いましたが、現実なのですね。
 当時のレッスンでは氏は私のヴィオラを持って弾いてくださいました。『こんなにいい音が出るんだ』と衝撃を受けましたし、曲のレッスンよりもクロイツェルの「42のカプリス」の2番を『リラックスして、いい音を』と、ひたすらにそれだけのレッスンでした。当時の私が曲のレッスンに至らないぐらいのレベルだったのかもしれませんが、ズーカーマン氏は音をどう出すかということをずっと指導してくださいました。今でも強烈に覚えています。



ヴァイオリニスト・ズーカーマン



初日リハーサルより

 「ヴァイオリンとヴィオラを両方演奏して、両方とも超一流という方は世界でも数少ないです。私にとっては当時の師が『ズーカーマンが今世界で一番うまいヴィオリストだよ』と教えてくれたので、最初はヴィオラ奏者だと思っていたくらいです。ダヴィッド・オイストラフもヴァイオリンとヴィオラを弾いた演奏家の一人ですが、それくらい世界最高峰という方は本当に限られています。ただ、ハイフェッツの師でもあったレオポルド・アウアー教授の生徒は必ず副科でヴィオラを学んでいたそうで、おおやけの場では演奏しませんでしたがハイフェッツもヴィオラが非常に上手だったそうです。私の前任の首席でおられた髙平純さんの師ウィリアム・プリムローズが何かでハイフェッツがヴィオラを弾いたのを聴いて『ヴィオラを辞めたくなった』と言ったという話があるくらい。今回ズーカーマン氏はヴィオラではなくヴァイオリンを弾かれますが、それもとても楽しみです。
 プレ・コンサートではメンデルスゾーンの「弦楽八重奏曲」でもご一緒します。とにかく夢のようですし、中学校の時に音楽の教室に飾ってあった人が目の前に来て、そして音楽の教科書にも載っているモーツァルトの『ジュピター』を指揮される。私にとっては中学校の時の音楽の教室、音楽の授業を思い出す、そんな瞬間に思えます。夢みたいですが、現実なんですね。」



誰もが聴いたことのある音色と練り上げられたプログラム



ピンカス・ズーカーマン ⒸCheryl Mazak

 「ズーカーマン氏の名前は、仮に音楽の授業で触れていなくても、お店やラジオでかかっているような録音で誰でもが触れたことがあるはずです。とんでもなく素晴らしいエルガーの「愛の挨拶」の録音なんて、世界中で何百万回、何億回再生されていることかと思います。ズーカーマン氏のような音を出す方は今あまりいないように思います。上手い方はたくさんいらっしゃいますが、“最後の巨匠”の部類でしょうね。
 今回の選曲は、本当によく考えてあるプログラムですね。1曲目、エルガーの「弦楽セレナーデ」はヴィオラから始まる曲なのです。大好きな曲ですが、なぜこの曲を!と緊張しております。
 弾き振りで演奏されるハイドンの「ヴァイオリン協奏曲第1番」に関しては、おそらく初演当時も指揮者なしで演奏されていたのではないかと思います。エステルハージ候の宮殿で、侯爵を楽しませるために演奏された楽団ですから。
 そしてモーツァルトの交響曲第41番『ジュピター』は、演奏者としては良く取り組む作品ではありますが、いまだに“怖い”ですし、同時に何度弾いてもいい曲ですよね。「ジュピター」という愛称はモーツァルト本人がつけたのではないそうですが、ゼウス、すべての神々の中の神の名のとおり交響曲の中の王にふさわしい傑作です。すべてを包み込む「ハ長調」ですし。
 今回のプログラムは、エルガー「弦楽セレナーデ」は可愛らしいシャープひとつのホ短調、ハイドンの協奏曲とモーツァルトの交響曲でハ長調。すごく親しみのある曲で、“ズーカーマンそのもの“という感じで、いい選曲だなと思います。
 余談ですが、私はエルガーのヴァイオリン協奏曲の録音ではズーカーマン氏の録音が一番好きで、私の中でエルガーとズーカーマンは非常にリンクします。先ほどお話しした「愛の挨拶」もそうですし。氏の演奏には録音で触れた方がすごく多いだろうなと思いますが、その演奏もライヴで聴きつつ、指揮を味わいつつ、プレ・コンサートで一緒に弾くことができる、というのは非常に幸せな3日間になると思います。楽しみです」



6月定期演奏会 

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6月22日[日]15:00開演
Bunkamura オーチャードホール
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6月23日[月]19:00開演
サントリーホール
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6月24日[火]19:00開演
東京オペラシティ コンサートホール

指揮・ヴァイオリン:ピンカス・ズーカーマン


特設ページはこちら


エルガー/弦楽セレナード
ハイドン/ヴァイオリン協奏曲第1番
モーツァルト/交響曲第41番『ジュピター』


スペシャル・プレコンサート
出演:ピンカス・ズーカーマン(ヴァイオリン)&東京フィルメンバー
曲目:メンデルスゾーン/弦楽八重奏曲第1楽章
各公演開演の30分前から舞台上にて約15分間の室内楽演奏がございます。

ピンカス・ズーカーマンと東京フィルメンバー

第一ヴァイオリン ピンカス・ズーカーマン
第二ヴァイオリン 三浦 章宏(東京フィル コンサートマスター)
第三ヴァイオリン 榊原 菜若(第一ヴァイオリンフォアシュピーラー)
第四ヴァイオリン 藤村 政芳(第二ヴァイオリン首席奏者)
第一ヴィオラ 小峰 航一(ヴィオラ首席奏者)
第二ヴィオラ 加藤 大輔(ヴィオラ副首席奏者)
第一チェロ 渡邉 辰紀(チェロ首席奏者)
第二チェロ 黒川 実咲(チェロ フォアシュピーラー)


【聴きどころ】世界に轟く名ヴァイオリニスト、ピンカス・ズーカーマンが弾き振りで登場。2023年の「午後のコンサート」に続いての共演となる。指揮者としてのズーカーマンは、作品への共感と作曲家への尊敬を込めた温かい音楽を作り上げる。ハイドンヴァイオリン協奏曲第1番では、ソリストとして美音を響かせながら、オーケストラに寄り添った演奏を聴かせてくれるだろう。エルガー「弦楽セレナード」では、オーケストラの弦楽器セクションから全幅の信頼を寄せられるマエストロのもと、味わい深い旋律を歌い上げるとともに、高密度のアンサンブルが期待される。モーツァルト交響曲第41番『ジュピター』はまさに至福の時。「崇高無比」な交響曲は、まばゆい光を放つに違いない。
文:柴辻純子(音楽評論家)


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