ホーム > インフォメーション > オンディスト、原田節が語る メシアン「トゥランガリーラ交響曲」によせて 3)メシアンがオンド・マルトノに託したものは

インフォメーション

2024年4月11日(木)

インタビューは2024年2月に原田さんのご自宅で行われました



―メシアンが『トゥランガリーラ交響曲』でオンド・マルトノに託したものは・・


 メシアンがなぜオンド・マルトノのために作品を残してくれたのかな、と思うわけですが、オンド・マルトノが入っていない曲に関しては、メシアンの作品は“きちっ”と書かれている。もともとメシアンは分析に長けていて、この『トゥランガリーラ交響曲』もメシアン自身は「一音たりとも説明できない音はない」というくらいきっちりと書かれていますが、どうもオンド・マルトノに関してはかなり自由度があり、他が決まっているなかで「ふわっ」と上を行くような、そういう要素を残してくれていました。
 それでも、私がご一緒したときはメシアンからの注文はすごく多かったですけれど、他の楽器に対しては「そこはこうで、ああで」と身を乗り出して何回でも説明する一方、オンド・マルトノに関しては、奏者の私がやっていることをすごく受け入れてくださっていた感覚があります。トゥランガリーラは『トリスタンとイゾルデ』とか、アメリカのクーセヴィツキ財団の委嘱だったためかちょっとガーシュウィンっぽい部分があったり、メシアンとイヴォンヌ・ロリオ(メシアンの2人目の妻で『トゥランガリーラ交響曲』初演ピアニスト)との二人にとって色々な意味での絶頂の時の作品で、あたたかみというか、余裕というか、自由というか、そういうものがあるような気がします。


務川慧悟 ⓒM.Yamashiro

 メシアンがお亡くなりになったときに、イヴォンヌ・ロリオはこの曲だけは弾けないと仰って、他の曲のコンサートはやったけれど『トゥランガリーラ』だけは全部キャンセルしたそうです。それだけ二人の思いのある曲だったのだろうと思います。
 この作品のピアノ・パートは、1950年~60年頃はイヴォンヌ・ロリオにしか弾けないと言われていたけれど、だんだん色々な人に弾ける曲になり、今回は務川慧悟さん、もしかしたら私の孫くらいの年齢になりますけれど、20世紀の古典くらいの感覚で取り上げてくださるようになっています。務川さんとの共演、大変楽しみにしています。




―トゥランガリーラ交響曲の演奏史を担ってきた原田さんですが



初演ピアニストでメシアンの妻だったイヴォンヌ・ロリオ(左)、
その妹でオンド・マルトノ奏者、原田氏が師事した
ジャンヌ・ロリオ(右)の各氏とともに(原田氏提供)。
2024年はイヴォンヌ・ロリオの生誕100年にあたる

 この3~4年は、私自身、音楽に対する考え方や生きていく上で何を大切に思うかが随分変化したと思っています。昨年、他のオーストラとも『トゥランガリーラ』を共演したのですが、そのときに自分自身で試してみたことに手ごたえを感じていまして、次の東京フィルとの公演ではさらにそれを推し進めてみたいと考えているところです。ですので、私自身の中でもすごく面白いことになっています。350回以上演奏してきて「『トゥランガリーラ』飽きたでしょ」と言う人もいるのですが、飽きるなんてとんでもない。
もちろん協奏曲ではないので「私についてこい」ということではなく、あくまでシンフォニーとして演奏するわけですが、この作品はオンド・マルトノに関してはとても自由度が高く、とても重要なところを担います。下世話な言い方をすれば「おいしい」ところでオンド・マルトノが“かっさらっていく”。
 オンド・マルトノは弦楽器のアンサンブルと一緒に弾く箇所が多いのですが、あるとき弦のヴィブラートと自分のヴィブラートが全く合っていないと気付いた。それに合わせることを一度やったら、その後の演奏でも合わせるのがとても楽になった。そういった積み重ねが今の自分を作っているのだろうと思います。




―暗譜したり経験を積んだりして見えてくるものがあるのですね


 楽曲の全体を把握していないと、自分がよりどころにしていた楽器の音が合奏では聴こえてこない、ということはあるじゃないですか。その意味で曲の全貌を把握しておいたほうがよいのは確かです。オーケストラのリハーサルで何が面白いって、特定のパートだけを拾って練習したりすると、そこでものすごく構造がよくわかる。全体を聴いていると把握できていなかったことが分かるから、リハーサルってすごく楽しい。
 それと、私がものすごくこだわっている場所は、メシアン先生のこだわりからきているのだけれど、たとえば第5楽章と第10楽章のテンポの違い。楽譜の指定では第10楽章のほうが遅いのですけれど、勢いで弾き飛ばしてしまうこともあった。そのあたりの志向が自分の中でも変わってきたという気がします。



―そのように経験を重ね、また、時代の変化もあり、いま、この『トゥランガリーラ交響曲』を演奏する意味はどのようなものとお考えでしょうか


 それはですね。万物への愛情をこの曲には感じることができると思っています。
 もちろん『トリスタンとイゾルデ』のテーマがあり、この曲が描く男女の愛もあるでしょうが、それだけではない、もっと、生きとし生けるものすべてに愛を感じることができる作品……というとちょっと大げさでしょうか。今の時代こそ人類が感じるべき、というのも大げさでしょうか。しかし、そこにこそ音楽の意義があるのではないかなと私は思います。それなくして何の音楽よ、と。
 もともと私はジャンルで音楽を聴かないのです。クラシックでもロックでも歌謡曲でも、なんでも聴くけれど、嫌な音楽はある。それは愛がないもの。愛がない、哲学のない音楽はどんなジャンルでも聴きたくない。それが感じられるものであればジャンル分けすることに全くはなくて、私はそこ(愛があるかどうか)で音楽をやりたいと思っています。
 だから、愛、哲学のある音楽を、マエストロチョン・ミョンフンと東京フィルと一緒にやれることが嬉しいと思います。



―2007年にマエストロ チョンと演奏した時の思い出はありますか?



2007年1月定期 チョン・ミョンフン指揮
『トゥランガリーラ交響曲』にて
©三好英輔


 お客様の反応については、口で言うのは簡単なのですがすごく大切で、何かそこにエネルギーがありますよね。マエストロ チョンの演奏会のお客様の熱量はすごい。それと、17年前のことを振り返ると、オーケストラの皆さんがすごい笑顔で、すごく楽しいという感じでいたのが印象的でした。私は東京フィルとの公演のあと、急遽ソウルにも呼んでいただいて、そこでもすごい熱気のコンサートになりました。



―『トゥランガリーラ交響曲』の音像、色彩


 この作品は、こんなにいっぱい、色々な楽器がいっぺんに鳴らなくてもいいじゃないかというふうに書かれているようにも思えるけれど、そこから見えてくるステンドグラスのような音像や色彩を感じられたら決して「饒舌」な作品という印象にはならないと思います。それは、水墨画のような色彩感覚とは違うかもしれませんが。この作品の根底にはカトリックの信仰があるということは感じてほしいと思います。

 この曲に関して私自身がメシアン先生から学んだことだけではなく、そこから今、20~30年経って、すごく大きな時代の変化を迎えている。ですから、5年前までに私たちが聴いていた演奏会とは全然違う演奏会にならなくちゃいけないし、なりつつあるんじゃないのかなと思っているのです。時間が限られたオーケストラとのリハーサルだと、言葉で何かするというよりも基本はやっぱりその場で起きている化学反応をちゃんと感じられるか。相手から出てきたものを受けてこちらから出すものが大切です。本番はお客様もいるし、マエストロ チョンは本番で全然エネルギーが変わります。すごいパワーが伝わってくるので、それにはちゃんと応えなくちゃいけない。

 たとえば私がすごく好きなところ、――第3楽章(「トゥランガリーラⅠ」)の冒頭にクラリネットとオンド・マルトノが対話をする箇所があります。クラリネットの独奏に応えて同じフレーズで受け答えをする場所があるのですが、「世界にこの二人以外誰もいらない」というような、すごく親密なシーン。あとは第8楽章(「愛の展開」)、『トリスタンとイゾルデ』のモチーフでホールを揺るがすような大音響を出す場所がある。そこでメシアン先生が仰っていたのですが、「ここはマルトノがすべてを支配する場所だから、絶対に恐れたり遠慮したりしてはいけない」と。



―お客様に向けてメッセージをお願いします


 このコンサートは梅雨時の公演になるのかな。梅雨時の鬱陶しさを吹き飛ばすエネルギーの塊を、とにかくエンジョイですね。シートベルトをしっかり締めて、楽しんでいただければと思います。やっている側は難しいことを言うかもしないけれど、そんなことはどうでも良い。オンド・マルトノの音で心地よくなって癒されて、ピアノの素晴らしい演奏で驚かされて、オーケストラの素晴らしい音色、たぶん金管は今回もやってくれるんじゃないかなと期待していますけれど、音のステンドグラスの中で敬虔な祈りをしつつ、「ちょっと外のカフェで一杯飲んでいこうぜ」というくらいの気持ちで、聴いていただければと思います。


(終)





6月定期演奏会 

チケットを購入
6月23日[日]15:00開演
Bunkamura オーチャードホール
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6月24日[月]19:00開演
サントリーホール
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6月26日[水]19:00開演
東京オペラシティ コンサートホール

指揮:チョン・ミョンフン
(東京フィル 名誉音楽監督)
ピアノ:務川慧悟
オンド・マルトノ:原田 節


特設ページはこちら


メシアン/トゥランガリーラ交響曲
公演時間:約80分(休憩なし)


本公演「メシアン:トゥランガリーラ交響曲」は休憩がございません。
また、全10楽章(約80分)を続けて演奏いたしますので、開演後にご到着されたお客様、一度ご退席されたお客様は客席内にお入りいただくことができないため、ホワイエのモニターでのご鑑賞となります。
お時間に余裕を持ってご来場くださいますようお願い申し上げます。


1回券料金

  SS席 S席 A席 B席 C席
チケット料金

¥15,000

¥10,000
(\9,000)

¥8,500
(\7,650)

¥7,000
(\6,300)

¥5,500
(\4,950)

※( )…東京フィルフレンズ、WEB優先発売価格(SS席は対象外)


主催:公益財団法人 東京フィルハーモニー交響楽団
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(公演創造活動))| 独立行政法人日本芸術文化振興会
協力:Bunkamura(6/23公演)
後援:在日フランス大使館アンスティチュ・フランセ

公演カレンダー

東京フィルWEBチケットサービス

お電話でのチケットお申し込みは「03-5353-9522」営業時間:10:00~18:00 定休日:土・日・祝