ホーム > インフォメーション > 1月定期演奏会の聴きどころ「コロナ禍でいっそう絆を深めたコンビの“更なる進化”、そして“独墺交響曲における唯一無二の深化」 文=柴田克彦

インフォメーション

2022年12月27日(火)

マエストロチョン・ミョンフンと東京フィルにしか成し得ない境地


©上野隆文

 2020年12月にインタビューした際、マエストロ チョン・ミョンフンは、2001年以来ポストを持ち、現在は名誉音楽監督を務める東京フィルとの関係についてこう語っていた。
「東京フィルとは20年間、常にポジティブな関係を続けてきました。これはある意味奇跡的なことです。人との関係において最良の到達点は“信頼”だと思います。ただし、そこに至るまでには時間と段階を要します。まずはプロフェッショナルなレベル、そしてそれがうまく行った次に“良い”プロフェッショナルなレベル、最後にパーソナルな関係です。私は今、東京フィルのメンバー一人ひとりに対して心から幸福を願い、愛情を感じています」


©三浦興一

 “スペシャル”と言うべきこの佳きコンビネーションは、2021年7月&9月の「ブラームス交響曲全曲演奏」、22年5月の「オール・フレンチ・プログラム」、10月のヴェルディ『ファルスタッフ』(オペラ演奏会形式)と続いた、コロナ禍で共演できる喜びも相まったその後の公演で、如実に示されていた。いや、信頼関係はさらに強化されているとさえ思えた。特に直近の2公演、あらゆる音の動きに新たな命が吹き込まれた「フレンチ・プログラム」と、軽妙にして雄弁で生気に富んだ『ファルスタッフ』を聴いて、もう一段先の、このコンビ以外には成し得ない境地─それは、行間や味わい、良い意味での余裕をも感じさせる─に達していることを実感させられた。
 となれば、2023年の共演も、聴き逃せるはずがない。

「オーストリア王道の7番プロ」で、新シーズンの幕開け


©上野隆文

 マエストロ チョン・ミョンフンは、シューベルトの交響曲第7番『未完成』とブルックナーの交響曲第7番が並んだ1月定期の「オーストリア王道の7番プロ」で、新シーズンの幕開けを告げる。
 これは大きく2つの点で期待が高まるプログラムだ。ひとつは、マエストロ チョンが東京フィルで力を注いできた独墺音楽の本流に位置する作品であること。マエストロはこれまで当楽団で、歴史的なベートーヴェン・チクルスや入魂のブラームス・チクルス(2回)を行ったほか、モーツァルトやマーラーなどの独墺作曲家をたびたび取り上げ、数多の快演を展開してきた。それは、“情熱的で前進力のある”2002〜3年のベートーヴェンから、“凄み漂う円熟の味”で魅了した21年のブラームスに至るまで、関係の強化に即した深化を遂げてきた。


©上野隆文

 その中で、シューベルトの交響曲第7番『未完成』は、第8番『グレイト』と共に披露した2006年2月定期以来、久々の演奏となる。美しきロマンと堅牢な構築が共存した前回の演奏は、当時「生で聴いたシューベルト交響曲のベスト!」と感嘆したのを覚えている。あれから17年、スペシャルな境地に達した当コンビが、いかなる『未完成』を聴かせてくれるのか? もはや夢のような時間が待っているように思えてならない。
 ブルックナーの交響曲は、2002年9月の第7番、05年7月の第4番、07年11月の第6番、10年11月の第8番に続く演奏。最後の共演だった第8番の、低弦を厚くした編成によるダイナミックかつ劇的なパフォーマンスは、いまだ忘れ難いが、それでさえ12年以上も前の話だ。ましてや20余年ぶりの再演となる第7番がどう表現されるのか? 今の当コンビならば、壮大にして味わい深い、感動的な音楽を期待して当然だろう。
 もうひとつのポイントは、今回の2曲が“歌に溢れた交響曲”であること。マエストロがオペラを滅法得意とし、カンタービレと器楽的な語法の共生・融合に長けているのは、改めて言うまでもない。“歌曲王”シューベルトの『未完成』はもとより、ブルックナーの第7番も同作曲家の交響曲の中でもっともメロディアスで歌に充ちた作品だ。しからば、美しく流れる旋律線と引き締まった造型を併せ持つ、類のない名演が展開されるに違いない。
 これは、信頼と熟成の度合いを増し、コロナ禍でいっそう絆を深めたコンビの“更なる進化”、そして“独墺交響曲における唯一無二の深化”が明示される、大注目の公演だ。


©三浦興一


 柴田克彦(しばた・かつひこ / 音楽ライター)

音楽マネージメント勤務を経て、フリーランスの音楽ライター、評論家、編集者となる。雑誌、公演プログラム、Web、宣伝媒体、CDブックレット等への寄稿、プログラム等の編集業務のほか、一般向けの講演や講座も行うなど、幅広く活動中。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)、「吹奏楽編曲されているクラシック名曲集」(音楽之友社)。


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1月定期演奏会 

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1月26日[木]19:00開演
東京オペラシティ コンサートホール
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1月27日[金]19:00開演
サントリーホール
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1月29日[日]15:00開演
Bunkamura オーチャードホール

指揮:チョン・ミョンフン
(東京フィル 名誉音楽監督)

楽曲解説(PDF)


シューベルト/交響曲第7番『未完成』
ブルックナー/交響曲第7番(ノヴァーク版)


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主催:公益財団法人 東京フィルハーモニー交響楽団
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術創造活動活性化事業)| 独立行政法人日本芸術文化振興会
協力:Bunkamura(1/29公演)

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