ホーム > インフォメーション > ヴィオラ首席奏者 須田祥子が語る 1月定期演奏会

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2023年1月25日(水)



――ブルックナーの交響曲について


ヴィオラ首席奏者 須田祥子 ©上野隆文


 「実は私はブルックナーという作曲家にそれほど興味がなかったのですが、今回の定期に向けて準備して、リハーサルが始まった十数秒で、『めっちゃくちゃいい曲!すごいな!』と。マエストロはずっと進化しているけれど、70歳を迎えて、新たな一歩を踏み出されたのではないかと思うほどに。
 第1楽章、チェロのメロディが始まって、そのあとに私たちヴィオラが入ってくる。弾く間に、『はあっ・・』と。衝撃ですね。曲が良いか悪いかということでいえばもちろん名曲ですが、何よりもマエストロの調理の仕方です。持っている空気、それがすべて導き出したのだろうなと最初から感動していました。
 ブルックナーは弦楽器にとって長いトレモロがあったりと、演奏は大変な面もありますが、第2楽章はヴィオラのメロディで始まりますし、ブルックナーはヴィオラが好きなのだろうと感じます。第4番『ロマンティック』も長大なソリ(セクションなど複数の人数でメロディを奏でること)をヴィオラに書いています。マエストロとのブルックナーは、東京フィルでは初めてではありませんよね。私は「第4番」はご一緒した経験はあるのですが、ヴィオラのソリでマエストロに絞られた記憶が強すぎて全体の印象はそこまで記憶に残っていませんが、その時は今回ほどの衝撃を受けた記憶はありません。マエストロ自身も、何かをものにしたのかもしれません。今回も、マエストロと良い時間を過ごせるということはもちろん分かっていました。マエストロは音の作り方が美しいのです。どんな作曲家であっても‥。
 ブルックナーの音の種類は、マーラー等とは違います。リハーサルでマエストロが仰っていたのは、『この曲は中心がゴールドである』と。その周りに何がカヴァーされているかということを考えて弾いてください、と。中心にあるのは鉛の塊などではなく、硬さのある、非常に質の高いもの。この曲の根底にはそういうものがあって、その上に例えばヴェルヴェットが掛かっているとか、鉄がついていることもあるかもしれないし、何がかぶさっているかを考えて演奏してください、と仰っていました。マエストロは全体に『強く弾く』ということをオーケストラに制御させるわけです。硬い音は欲しくない。でも、それで柔らかくなりすぎたのかもしれませんね。『芯を作りなさい』と仰いました」。


――ヴィオラはオーケストラの音色を作る楽器ですが、ブルックナーの厚みのあるサウンドにおいてどのような演奏を考えていますか?



 「一つ特徴的なのはトレモロですね。トレモロが非常に多い。ですが、細かく“痙攣”すればよいということではなく、周りの人のトレモロを感じながら、例えば少し合わないように調整してみるとか、弓の圧力など、色々なことを計算して演奏しています。トレモロを書いたことのない作曲家はほとんどいないと思うのですが、作曲家によって全くキャラクターが変わってきます。例えば、プッチーニのトレモロはブルックナーとは全然違います。ブルックナーの場合は、音色の厚みや和声の広がり等を作っていくわけですが、プッチーニは心の琴線に触れるところでトレモロを書く、それもヴィオラに書くことが多いのです。心と直結している、気持ちがざわつくシーンにヴィオラのトレモロを書くのです。
 初日のリハーサルでマエストロは『ブルックナーはオルガン奏者だから、和声の一つ一つが成立するように書かれている』と話されました。私たちの楽譜はトレモロで同じ音が続いているかのように見えるけれど、その中でも和声が変わっていっています。オートマチックになる瞬間はないのです。そこに神経を使わないと、この音楽は成立しないと思って演奏しています。ある種、難しいですし、メロディではなく音色を見せていくというのが面白いところかもしれません。若い時期、学生時代はメロディを中心に練習して技術を磨くわけですが、オーケストラに入って初めてこの世界に行きつくわけです。オーケストラ奏者でなければ知ることのできない扉を開けている、という感じですね。トレモロがいかに大切か、ということに着目できると楽しくなってくる境地です。 オーケストラでのトレモロはオーケストラ奏者の“特殊スキル”のひとつ、そしてブルックナーならではの世界でもあります」。



――シューベルトについてはいかがでしょうか



 「私は、東京フィルに入団した月の定期演奏会のプログラムがマエストロチョンとのシューベルト(2006年2月定期演奏会、第7番『未完成』&第8番『グレート』)でした。その時よりは自分がもう少し、積極的に音楽をできるようになったと、個人的には思っているのですが‥、もう、極上!なんですよ。曲の良さももちろんですが、さらにそれを良いものに見せるというマエストロの存在があります。その時は色々なプレッシャーもあり、つらい感覚もありましたが、私も年を重ねましたし、シューベルトの何とも儚い美しさ、ブルックナーとはまた全く奏法を変えていかなければならない、一歩間違うと音が死んでしまう、その世界を表現するために、いかに繊細に楽器を扱うかが必要です。ブルックナーよりも“こわれもの”の度合いが高いという感じがあります。ブルックナーは『仲間が多い』という感じがありますが、シューベルトは『儚さ』ですね。たった一人なんじゃないか、とまでは言わないけれど、それくらいの集中力が必要です。
 シューベルトは『世の中に明るい曲なんかいらない』と言っていたという話があります。それならピアノ五重奏曲『鱒』の明るい曲調は何なんだ、という感じがしますが、あれはイベント用に書かれたサロンコンサートですからね。いずれにせよ、シューベルトはちょっと『儚い』という言葉がぴったりします。歌曲王という側面もあった人ですから、ブルックナーの『和声』に対してシューベルトは『旋律』の人と感じます。個人的には『前よりは楽器が少しうまく扱えるようになったかな』と思いながら演奏しています。先ほどお話した入団した最初の月の『未完成』は食事も喉を通らないほどでしたから…。今回は若いメンバーが入っていますが、彼女たちがどんなふうに感じているのか…
 マエストロはまた、確か以前シューベルトで『ピアニッシモの世界を楽しんでください』とおっしゃっていた記憶があります。今回は『室内楽的に』ともおっしゃっていました。それから、とても珍しいことなのですが、“異名同音”を使うようにと仰いました。第2楽章の終盤です。オーケストラにこういうことを言うのは一般にリスクがあるので、あまり言わないのですが‥。異名同音というのは、ピアノの鍵盤をたたくと同じ音ですが事実上は違う音です。たとえば弦楽器が「ドのフラット(Ces)」とで伸ばしている小節に、木管楽器が「シのナチュラル(H)」で入ってくる場所があるのですが、ここでマエストロが弦楽器にその小節を「シのナチュラル(H)」で演奏して、と仰ったんです。自分で言って笑っておられましたが…。ここでまた音楽の景色が変わる場所なのです。
 マエストロは常に楽曲に向き合い、やりたいことが尽きずに出てくる、増えてくる方です。以前に同じ曲を演奏していても次には全然違う世界が生まれてくるのです。また『グレート』も弾いてみたいですね」。



2021年9月定期演奏会 Ⓒ三浦興一




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1月定期演奏会 

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1月26日[木]19:00開演
東京オペラシティ コンサートホール
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1月27日[金]19:00開演
サントリーホール
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1月29日[日]15:00開演
Bunkamura オーチャードホール

指揮:チョン・ミョンフン
(東京フィル 名誉音楽監督)

楽曲解説(PDF)


シューベルト/交響曲第7番『未完成』
ブルックナー/交響曲第7番(ノヴァーク版)


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主催:公益財団法人 東京フィルハーモニー交響楽団
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術創造活動活性化事業)| 独立行政法人日本芸術文化振興会
協力:Bunkamura(1/29公演)

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