ホーム > インフォメーション > 第二ヴァイオリン首席奏者 戸上眞里&藤村政芳が語る チョン・ミョンフン指揮1月定期演奏会 ――マエストロとの22年とブルックナーの響き

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2023年1月26日(木)



――開幕初日前日のリハーサルを終えて。


第二ヴァイオリン首席奏者 戸上眞里&藤村政芳 ©上野隆文


藤村  「ブルックナーの第7番は20年ぶりにマエストロとご一緒します。やはり20年間の歩みを振り返ってしまいますね。マエストロチョンとは今まで数えきれないほどたくさんの演奏会をしてきましたが、毎回何かしらアップデートしてきている。それが私たちにも求められていて、“毎回新しい”ということが20年以上続けられてきているということが素晴らしいことだし、私たちもそれに応えられるようにアップデートしなくてはと思います。」

戸上  「前回のブルックナー第7番は覚えてますか?」

藤村  「覚えていますよ」

戸上  「私は2002年の8月に入団したので、その演奏会には出演しなかったんです」

藤村  「その時、マエストロが『この曲をやるには自分は若すぎる』と仰ったのがとても印象的です。20年前だから、その時マエストロが50歳くらいということですよね。それよりも私自身が年をとってしまったのですが、とはいえ、マエストロに比べればまだまだ子供なので‥(笑)それから20年の時間が経ってみて、自分も年を重ねてきて、先ほども話したようにアップデートしている、毎回新しいことを自分の中からも見つけなければいけないし、それが厳しくもあり、楽しくもありというところですね」

戸上  「マエストロの動きはどんどん自然になっていって、その分説得力が増すという感じ」



藤村  「前回は私たちも必死に食らいついて、マエストロも必死にこうしなくちゃいけない、互いに一生懸命という感じでしたが、今回はその次元は超えて…」

戸上  「以前よりも、信頼して任せてくださる部分は非常に多いですね。信頼関係をこの20年でしっかりと築けたこと、私たちにそれが伝わってくるのです。ホルン首席奏者の高橋君も、『(マエストロに)信頼されているのがすごくわかるんですよね』と言っていました」

藤村  「マエストロも『信頼して欲しい』と思ってやってこられたでしょうし、その中では、お互い様ということなのでしょうね。今回のリハーサルの中で『演奏する上での責任は何だ』と尋ねられて、ちょっとドキっとして、何を言うのかなと思ったら、『レベルが上がれば上がるほど、演奏者の聴衆に対する責任は大きくなる』というお話をしていました。それは、音を聴かせるのではなく、音の風景や描かれているものを伝えなくてはいけないと。地図を見せるのではなく、景色を見せるのだ、というお話をされていました。」

戸上  「楽譜を忠実に演奏するということは“地図を見せる”ということだけれど、それにとどまってはいけないと」

藤村  「『地図をお客様に見せてもしょうがない!空が空に見えたってしょうがない』。そういう話ですね」

戸上  「ブルックナー第7番の冒頭のチェロのメロディについても、『ただメゾフォルテで弾いているだけではなく、‥もっと…空を飛んでいる(=flying)ように』と」

藤村  「あの言い方、形容詞は真似できないですね」

戸上  「ただ音の強弱や大きさを守るといったことではなく私たちが受け取る際に形容詞にして伝えてくださるのです」

藤村  「音に意味を持たせるということですね」



戸上  「マエストロのそういう言い方は初めて聞いたかもしれません。だから、私たちのレヴェルも以前よりも上がったのかもしれません。以前は、まず楽譜に書いてあることを忠実に、という感じだったのが、『その先を行かなければいけない』という風になってきました。私もブルックナーのイメージがだいぶ変わったという気がします。とても美しい。力を込めて弾くと『違う』と言われます。『もっとフラウタンドで、とにかく美しく弾いて』と仰ったのが、『そういうイメージがあまりなかった』と思ったポイントでした。」

藤村  「もっと“ドシッ”とくるかと思ったら、違いましたね」

戸上   「『内声のハーモニーでリードして、とにかく曲を美しく』と。ブルックナーは信仰深い作曲家。オルガン奏者でもありました。ハーモニーが変わるところも、即興的にやらないといけないけれど、その即興はメカニカルに変わるのではなく…」。

藤村  「音の間、前と後と間に気を遣うように、ということも、いつも仰いますね」

戸上  「第二ヴァイオリンとしては、ハーモニーの移り変わりを強く味わいながら、皆で喜びといいますか、そういうものを分かち合いたいと思います。内声はそれがたまらないですね」


――コンサートにいらっしゃるお客様にひとことお願いします。



戸上  「ブルックナーの第7番は壮大な登山だと思います。マエストロは巡礼の旅と仰いました」。

藤村  「私自身は、先入観はあまりない方がよいかなと思っています。ブルックナーに対するイメージは本当に人それぞれで、それと比較して今回の演奏をどう感じるのかというのも、人それぞれ。いわゆるオタク、“ブルオタ”もいるでしょうし、逆にブルックナーが苦手だという方もいるでしょうし。私も自分自身で気づいていないブルックナーの魅力をマエストロに気づかせてもらっています」。

戸上  「そうなんだ!私はブルックナー大好き。よくマーラーと比較されて『どっちが好き?』という話になるけど『どっちも好き』ではダメなのかな?私は、ブルックナーは内声の美しさがたまらない」

藤村  「内声、それは私もそう思います」

戸上  「私見ですが、ブルックナーはマーラー等と比較すると楽譜がシンプルで、そのシンプルさがピュアさにつながるのではないかと」

藤村  「ブルックナーの音楽はハーモニーを中心にできていて、曲の展開にはハーモニーを使って展開していくことが多い。その展開していくためのハーモニーを変える要素として、内声は強い役割があります。“さりげなく”変わっていなくてはいけないところもあるし、その役割を使い分けていかないと、曲の全体像がわかりにくくなってしまいます。役割をはっきりと認識して全員で共有しないと実現できない。バランス、音色感、そういうことがビシっとはまると、それこそオルガンの響き、人間が作り出すオルガンの響きみたいなのができるんだろうなと。それは期待したいところです」

戸上  「期待できます!」

藤村  「期待できますね!そこのところをすごく作り込んできました」

戸上  「たぶん、今までに見えなかった景色が見えますね」

藤村  「私の知り合いの“ブルオタ”も来ますので、感想を聞いてみたいと思います(笑)」

戸上  「マエストロとのコンサート、本番でまた何もかも変わりますからね。本番ももちろんですが、リハーサルも宝物のような時間です。冒頭にお話されることも含めて」

藤村  「あのお話から全てが始まっていく感じがしますね」



――最後に。


Ⓒ上野隆文


戸上  「マエストロが10年以上前に、『自分はマーラーを指揮するには歳をとりすぎて、ブルックナーを指揮するには若すぎる』とおっしゃっていたことがとても印象深く残っています。これまでマエストロとはマーラーをたくさんご一緒してきましたが、ブルックナーはとても信仰深い作曲家で、マーラーの時と取り組み方が随分と異なります。核となる部分は、どの作曲家の時も同じなのですが、それは、『内側に強いものを持って』ということです。今回のリハーサルでも、マエストロからinside(内面)というワードが何度も出てきました。内側に常に“ゴールド”のような強く輝きのあるものを持ち、その周りを覆う音色や音量を常に探究することが大事、と。
 ブルックナーの楽曲は、内声がハーモニーを使ってリードするシーンがたくさんあります。ハーモニーの移り変わりを味わいながら演奏することは私たち第二ヴァイオリン奏者にとって至福の悦びです。ブルックナーがこの曲を書いたのは現在よりも古い時代です。音量についても、ff(フォルティシモ)と書いてあっても、ブルックナーが生きた時代のffを表現する必要があり、今よりもソフトに演奏しなければならないとおっしゃっていました。
 それから、“soft”や“dolce”もマエストロがよくおっしゃる単語です。マーラーならば、”into the string”で音を掘って情熱的に弾くであろうメロディも、ブルックナーではフラウタンド(flautando:弦楽器の弓を弦の上で軽く、素早く動かす奏法)で表現する箇所が多いのも今回の発見でした。リハーサルでは音を“掘り”過ぎて『トゥーマッチ』と言われた時もありました。
 ブルックナーの第7番、とにかくとても美しい楽曲です。マエストロによると『神を探し求める巡礼の旅』。壮大な登山の頂上に向かってフィナーレを迎えます。どうぞ一緒に山の頂上まで登りましょう!」



【特別記事】

 ▷ 【特別記事】1月定期演奏会の聴きどころ「コロナ禍でいっそう絆を深めたコンビの“更なる進化”、そして“独墺交響曲における唯一無二の深化」(文=柴田克彦)
 ▷ 【楽団員インタビュー】コンサートマスター 三浦章宏
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1月定期演奏会 

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1月26日[木]19:00開演
東京オペラシティ コンサートホール
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1月27日[金]19:00開演
サントリーホール
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1月29日[日]15:00開演
Bunkamura オーチャードホール

指揮:チョン・ミョンフン
(東京フィル 名誉音楽監督)

楽曲解説(PDF)


シューベルト/交響曲第7番『未完成』
ブルックナー/交響曲第7番(ノヴァーク版)


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主催:公益財団法人 東京フィルハーモニー交響楽団
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術創造活動活性化事業)| 独立行政法人日本芸術文化振興会
協力:Bunkamura(1/29公演)

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