ホーム > インフォメーション > 2021年9月定期演奏会 名誉音楽監督マエストロ チョン・ミョンフンが語る「ブラームス 交響曲の全て」

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2021年6月18日(金)



名誉音楽監督 マエストロ チョン・ミョンフンが語る
ブラームス 交響曲の全て


2001年以来、東京フィルハーモニー交響楽団にポストを持つ現・名誉音楽監督のチョン・ミョンフン。
同楽団と親密な関係を築くマエストロに、ポスト就任20年の思いや2021年の定期演奏会について話を聞いた。

*本インタビューは2020年12月に実施した取材によるものです。



 ――この20年の間に東京フィルとの関係はどう変化してきましたか?


2020年2月定期演奏会『カルメン』より ©上野隆文

「東京フィルとは20年間、常にポジティブな関係を続けてきました。これはある意味奇跡的なことです。人との関係において最良の到達点は“信頼”だと思います。お互いが相手の事を考え、疑いがどんどん無くなっていく。ただ、そこに至るまでには時間と段階を要します。まずはプロフェッショナルなレベル、そしてそれがうまく行った次に良いプロフェッショナルなレベル、最後にパーソナルな関係です。私は今、東京フィルのメンバー一人ひとりに対してこころから幸福を願い、愛情を感じています」。


 ――現在の東京フィルのキャラクターをどう捉えていますか?

「難しい質問なので、個人的な答えを言うと『東京フィルは自分のことを理解してくれる』。大したことではないように聞こえるかもしれませんが、これはプロの世界では滅多にありません。
 指揮者はまずテンポなどの基本的なことを腕の動きで分かってもらう必要があります。そして、できれば腕を見て自分の心を分かってほしいと思っています。しかしそれはとても難しく時間がかかります。そうした意味で、東京フィルへの最高の賛辞として『自分のことをよく分かってくれてありがとう』と感謝したいと思います」。


 ――2021年は東京フィルにとってどんなシーズンにすべきとお考えですか?

「私の音楽上の目標が一つだけあります。それは『昨日よりも少しより良く演奏すること』です」。


 ――7月と9月の定期はブラームスの交響曲全曲演奏ですね。2009年にも東京フィルで全曲演奏をされていますが、今このチクルスを行う理由は? また前回と今回ではどんな違いが生まれるとお考えですか?


2009年のブラームス交響曲チクルスより ©三好英輔

「私は以前よりもさらに勉強しています。先ほども言った『少しでも昨日より良く演奏すること』は、段々楽になるのではなく、逆に難しくなっていくので、もっと勉強しなければならなくなるのです。本当の試金石は『より良く演奏したい』という意思を持てるかどうか。そして作品があまりに偉大なので、作品への愛がより良く演奏するよう、より深く勉強するよう要求します。

 ただこうした例もあります。私は昔、ブラームスの4番を非常に難しいと感じていました。しかしある日、なぜか楽になったように感じたのです。その時私は、ブラームスが4番を書いた歳、53歳になっていました。そこで気づいたのはすべての人間が色々な共通項を持っているということ。もちろん天才には特別な部分がたくさんありますが、共通項もあります。53年間生きてきたら他の53年間生きてきた人と共通項があり、23年生きてきた人にはできないことができる。以来第4番との関係が深まりました」。


 ――マエストロが思うブラームスの交響曲の特徴や魅力、さらには全曲を聴く意味をお聞かせください。

「ブラームスは交響曲第1番の作曲に長い時間をかけたので、発表した時にはすでに十分経験を積んだ作曲家になっていました。従って4曲に大きな音楽的違いはないのですが、それでも違いがある。
 私は時々、この曲は何の動物に当たるだろう? と考えます。1番は力を持ったライオン、しかし4番は何か? 先見の明で知られるシューマンがブラームスについて言ったのは『世界は鷲を見つけた』でした。交響曲第4番の第4楽章に至った時、ブラームスは遂に空へ飛翔する力を身につけます。もはやライオンではなく鷲なのです。1番は物理的に力強いが、4番では心が飛翔する。1番から4番に向かって素晴らしい弧が描かれていると思います。なので1番から4番まで聴いて、物理的な状態から心が高揚するレベルに跳躍する過程を辿るのはとても興味深いと思います」。


 ――マエストロにとってブラームスはどんな存在ですか?


ヨハネス・ブラームス(1833-1897)

「学生の頃は、白く長い髭を生やした有名なブラームスの肖像を見ていたので、ゆっくりした重たい音楽を書くお爺さんだと思っていました。しかし今ではまったく違うイメージを抱いています。彼には動物的な野蛮人の面、知性や芸術以前に内側で燃えている生の力があるのです。私にとってブラームスの音楽は、突き破って飛び立つのを待っているような燃える情熱です。多くの物事の熾烈さは─殊に音楽においては─ある種の苦闘から生まれると思っています。例えば種子の中から外に出ようとしているエネルギーは膨大なものです。その種子が天才の中にあるものだったら、どんなエネルギーが解き放たれるのか想像に難くありません。これがブラームスについていつも感じることであり、内面の熾烈さにおいて彼を凌ぐと感じられる作曲家はベートーヴェンだけです」。


 ――最後に日本のお客様へのメッセージを。

「東京フィルは東京の私の家族ですが、20年経った今、お客様ももはや無名の観客ではありません。私にとっては友だちに向けて演奏している感覚です。ですから日本の友人の皆様にまたお目にかかれるのを楽しみにしています。
 私たちを支えてくれているすべての人に感謝を伝えるために自分は音楽をやっている。私が友だちのために演奏する時、感謝を表そうとしている。本当にそうだ。それが私の唯一のメッセージです。ありがとう、どうぞお元気で、2021年が皆様にとって本当に素晴らしい年になりますように」。


 マエストロの東京フィルへの深い愛情と含蓄のある話に触れると、コンサートがますます楽しみになってくる。東京フィルとの20年のコラボの成果が詰まった、ブラームスの交響曲全曲の公演にぜひとも足を運びたい。



ブラームス 交響曲の全て


©上野隆文


 7月と9月はチョン・ミョンフンによるブラームスの交響曲全曲。同作曲家への思い入れが深いマエストロは、2009年東京フィルでの交響曲チクルスでも、ロマンティックな表現で魅了した。それから12年、彼の音楽がさらに内奥に向かっている中で、マエストロのたっての希望で若返りをはかったオーケストラが再びいかなる演奏を生み出すのか? 待望にして注目の2公演だ。(文=柴田克彦)

柴田 克彦(しばた・かつひこ / 音楽ライター)
音楽マネージメント勤務を経て、フリーランスの音楽ライター、評論家、編集者となる。雑誌、公演プログラム、宣伝媒体、CDブックレット等への寄稿、プログラム等の編集業務のほか、一般向けの講演や講座も行うなど、幅広く活動中。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。



【特集】

名誉音楽監督 チョン・ミョンフンとの「ブラームスの歩み」
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ティンパニ奏者 塩田拓郎が語る チョン・ミョンフン指揮「ブラームス 交響曲の全て」


7月定期演奏会

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7月1日[木]19:00開演(18:15開場)
東京オペラシティ コンサートホール
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7月2日[金]19:00開演(18:15開場)
サントリーホール
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7月4日[日]15:00開演(14:15開場)
Bunkamura オーチャードホール

指揮:チョン・ミョンフン
(東京フィル 名誉音楽監督)

― ブラームス交響曲の全て ―

ブラームス/交響曲第1番
ブラームス/交響曲第2番



9月定期演奏会

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9月16日[木]19:00開演(18:15開場)
東京オペラシティ コンサートホール
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9月17日[金]19:00開演(18:15開場)
サントリーホール
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9月19日[日]15:00開演(14:15開場)
Bunkamura オーチャードホール

指揮:チョン・ミョンフン
(東京フィル 名誉音楽監督)

― ブラームス 交響曲の全て ―

ブラームス/交響曲第3番
ブラームス/交響曲第4番





主催:公益財団法人 東京フィルハーモニー交響楽団
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術創造活動活性化事業)| 独立行政法人日本芸術文化振興会
   公益財団法人 ローム ミュージック ファンデーション(7/2,9/17公演)
   公益財団法人 三菱UFJ信託芸術文化財団(7/2,9/17公演)
   公益財団法人 花王 芸術・科学財団(7/2,9/17公演)
協力:Bunkamura(7/4,9/19公演)

公演カレンダー

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