ホーム > インフォメーション > チェロ首席奏者 金木博幸が語る チョン・ミョンフン指揮「ブラームス 交響曲の全て」

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2021年6月29日(火)


――ブラームスの交響曲の難しさについて。


チェロ首席奏者 金木博幸 Ⓒ上野隆文

「第2番第1楽章の第2主題や、第2楽章の最初のテーマもそうですが、日本国内のオーケストラはもちろん、ベルリン・フィル、ウィーン・フィル等も含めて、世界中のオーケストラのチェロ入団試験に必ず出てきます。それほど『美しいけれど難しい』音楽です。
きちんと拍通りに弾かないといけないけれど、歌わなくてはならないし同時に流れもなくてはいけない。音は厚みが欲しいけど、微妙に動いている。空気や水がさりげなく動くようにわずかに動いているのです。けれど作為的に演奏すると安っぽくなってしまう。それで重さや厚みを意識すると今度はフレーズ感がなくなる。それを皆で一緒にやるのがなかなか難しい。もちろん弾き手の技量もありますが、それを引き出す技こそ指揮者の腕の見せ所です。



交響曲第2番第2楽章チェロの出だし


 ブラームスの音楽の特徴として3連符の多用が挙げられます。2拍子のなかに3連符がある2拍3連や、4分音符に対して別の楽器に3連符を対応させたりしています。
もうひとつ特徴的なのがアウフタクト。
4拍子ならば1,2,3と休んで4拍目から始まる形です。例えば一番有名なのは第4番の出だしでしょうか。第2番の第2楽章のチェロの出だしも4拍目からはじまります。
私の師匠はフルトヴェングラーやベームの時代にウィーンフィルの首席だった人で、『4拍目のアウフタクトよりも強拍の1拍目の自然な重みの方がより大事』ということを口煩く繰り返し言っていました。日本では4拍目から始まるとことの意味を昔はあまり深くは教えてもらえませんでした。マエストロチョンはもちろん全てを把握していらっしゃるけれど、東京フィルもそれがだんだん身体でわかってきた感覚があります。
 ブラームスの交響曲を演奏する上で、大事なことはたくさんありますが、この『アウフタクトと3連符の処理』も、地味ではあるけどかなり重要であると思います。自然であり音楽的、長いフレーズ感であることも要求されます。
タイミングがズレないように縦線を合わせようとするのは決して間違ってはいませんが、それが優先され過ぎると違和感が生じてしまいます。マエストロチョンと東京フィルの組み合わせだとそれが自然とできるように思います。3連符もほど良く流れ、機械的に組み合わせていくのではなく自然にメロディラインが動く。マエストロがさりげない指揮で導くのがすごいですし、それに応えている東京フィルメンバーも立派だと思います。
 サウンドの面で言うと、ブラームスは『フォルテ』ひとつを取り上げても非常に強いこだわりがあります。メゾだけでなくメノフォルテやポコフォルテを使ったり。ブラームスはどの作曲家よりもメノフォルテを多用しているのではないでしょうか。ブラームスのフォルテというのは、ちょっとデリケートなフォルテです。フォルテッシモはアクセル全開に行ってもいいけれど、フォルテが1つだけのときは美しさを前面に出す、といった具合です。マエストロチョンが東京フィルから引き出す繊細かつ豊かな『音色』を味わっていただけたらと思います」。


――マエストロ チョン・ミョンフンとの共演。

 「マエストロチョンとの演奏会で一番印象的なのは、2001年のマーラー『復活』。『こんな凄い音が日本のオーケストラで出せるのか!』と演奏しながら驚きました。マエストロの要求はとても高く、頭では分かっていても、本番で実際にできるのかな?と恐々としましたが、本番ではものすごい音とエネルギーがホールに渦巻きました。この時の演奏会では、『オーケストラの音が満ち溢れた中にお客様がいる』という感覚を強く感じました。
自分が学生時代に習ったことや刺激を受けたこと・ショックを受けたことなどたくさんありますが、マエストロチョンの指揮で弾いていると、それらが自然と結びついて納得し腑に落ちることが多いです。だからマエストロとの演奏会はどれもとても思い出に残ります。

 マエストロの口癖で、『管楽器は基本的にソロだから各自の個性と技量を尊重するけれど、弦楽器について指揮者は食材を料理するシェフのようなもの。弦楽器奏者にある程度の技量があれば、あとは指揮者の責任なのだ』とよくおっしゃいます。そこまでマエストロから言われると、こちらも可能な限り応えなくてはいけません。実際にマエストロチョンが振ると同じメンバーでも音ががらっと変わるのが不思議です。
20年間ご一緒してきて、同じ曲を演奏するにしてもマエストロ・チョンの振り方が段々とシンプルかつコンパクトになってきたのを感じます。最近はマエストロが軽く振ってもメンバーが意図をしっかりと理解しているのでオーケストラの反応がドーンとくる。東京フィルとの関係がますます円熟しているのかなと思います。楽団員はマエストロ・チョンに対して心からの信頼と敬意を寄せています。そしてマエストロも以前よりも東京フィルに対して信頼感を深めてくださっているように感じています」。


©上野隆文


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7月定期演奏会

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7月1日[木]19:00開演(18:15開場)
東京オペラシティ コンサートホール
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7月2日[金]19:00開演(18:15開場)
サントリーホール
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7月4日[日]15:00開演(14:15開場)
Bunkamura オーチャードホール

指揮:チョン・ミョンフン
(東京フィル 名誉音楽監督)

― ブラームス交響曲の全て ―

ブラームス/交響曲第1番
ブラームス/交響曲第2番



9月定期演奏会

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9月16日[木]19:00開演(18:15開場)
東京オペラシティ コンサートホール
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9月17日[金]19:00開演(18:15開場)
サントリーホール
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9月19日[日]15:00開演(14:15開場)
Bunkamura オーチャードホール

指揮:チョン・ミョンフン
(東京フィル 名誉音楽監督)

― ブラームス 交響曲の全て ―

ブラームス/交響曲第3番
ブラームス/交響曲第4番





主催:公益財団法人 東京フィルハーモニー交響楽団
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術創造活動活性化事業)| 独立行政法人日本芸術文化振興会
   公益財団法人 ローム ミュージック ファンデーション(7/2,9/17公演)
   公益財団法人 三菱UFJ信託芸術文化財団(7/2,9/17公演)
   公益財団法人 花王 芸術・科学財団(7/2,9/17公演)
協力:Bunkamura(7/4,9/19公演)

公演カレンダー

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