ホーム > インフォメーション > チェロ首席奏者 渡邉辰紀が語る チョン・ミョンフン指揮「ブラームス 交響曲の全て」

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2021年9月15日(水)



――交響曲第3番について。


チェロ首席奏者 渡邉辰紀 Ⓒ上野隆文

 「第3楽章冒頭のメロディは映画に使われたりポップスの人が歌詞をつけて歌ったりしてコアなクラシックファンには『いまさら感』があるかとは思いますが、チェロ弾きとしてはやはりこのメロディに魅力を感じます。
 この楽章はスコアをよく見てみるとちょっと面白い発見があります。
まず、Poco Allegretto(ポコアレグレット)という速度標語です。これは他にあまり例を見ない書き方で、この曲の場合だったら普通はAndantino(アンダンティーノ)、あるいはModerato(モデラート)とでも書くのではないかと思われます。ゆったりではないが急く感じでもないというニュアンスでしょうか。
 そして8分の3拍子で書かれています。これも普通の人なら4分の3拍子で書いてしまうのではないかと思うのですが、そうするとメヌエットやワルツのように『1・2・3』と3拍子がはっきり出てしまい、いわゆる『ダサく』なってしまいます。8分の3拍子で書けば、1小節を1つでとったり拍を曖昧にする感じが出しやすいと考えたのではないかと思います。
 また、このメロディの1小節目にあるクレッシェンドは、私が持っているヘンレ版のスコアでは3拍目だけに書かれています【譜例1】。このクレッシェンドは他のどの楽器にこのメロディが出てきても必ず3拍目に書かれています【譜例2】。ところがパート譜を見ると1小節全体に書かれている(ように見える)のです。1小節かけてクレッシェンドするといかにもお涙頂戴的になって切ない感じが出ないと思うので私としてはとても残念です。もっとスコアに忠実にパート譜を起こして欲しいです。
 そしてもう一つ。このメロディにはmezza voce(半分の声という意味。音量を抑えてやわらかく歌うこと)と書かれていますが『ピアノ』とも『フォルテ』とも書かれていません。もちろんフォルテということはありえないとは思いますが、ピアノと書いてしまうと自分が意図しているニュアンスが伝わらないとブラームスは思ったのかなと想像します。
 以上のことから、何かはっきり『このように』と言えない『曖昧さ』のようなものがこの楽章のより切ない感じを醸し出しているような気がします」。

【譜例1】


【譜例2】









――交響曲第4番について。

 「私は第2楽章が一番好きです。
 私の勝手な解釈ですが、亡くなった人が霊界へ旅立つというイメージが浮かびます。ホルンから始まり、オーボエ、ファゴット、フルートと重なって来るモチーフがその時を告げる鐘のようです。弦のピツィカートとクラリネットのメロディが霊界へと赴くあゆみを表しているような感じがします。霊界というとおどろおどろしい印象を持たれるかもしれませんが、そうではなくて、人生の全てを肯定し、召されるというよりも自ら召されにいくような神に全てを委ねた穏やかなイメージです。
 【B】(ヴィオラとチェロのピツィカートが3連符になるところ)から人生の回想シーンに変わります。回想シーンによくあるヴェールがかかったようなものではなく、その場にいるかのような鮮明なイメージです。
 この部分が回想シーンであることは34~35小節目で第1ヴァイオリンに一瞬だけちらっと見える第1番の交響曲の第4楽章のテーマから解釈できます。この部分は最高ですね。
回想すればやはり自分が本当に召されるべきか葛藤します。その葛藤をこの後の管と弦の3連符のせめぎ合いが表しています。
 そこに神が手を差し伸べるようにチェロの美しいメロディが奏でられます【譜例3】。私が勝手に神だと解釈しているこのメロディをチェロに与えられて喜びと感謝の気持ちでいっぱいです」。


【譜例3】








――ブラームスを演奏する上で難しい部分。

 「私にとってモーツァルトは神の使徒であり、バッハは神そのものです。そしてベートーヴェンとブラームスは人間です。ベートーヴェンは神に近づいた人間であり、ブラームスは『人間そのまま』というイメージです。これは単に私のイメージであって、ブラームスがベートーヴェンより劣っているとか不完全だという意味ではなく、より温かく親密さを感じるという意味です。
 『人間』なのだからその表現は簡単な気がしますが、血のかよった優しさや温かさを表現することは『神』のような何か特別なものを表現するよりも逆に難しいですね」。



――9月定期演奏会への期待感。

 「マエストロは曲を人生になぞらえて説明してくださることがよくあります。2016年9月定期でのベートーヴェン『田園』のリハーサルで、『これは単なる田園風景の描写の曲ではありません。人生そのものを表しているのです。』とおっしゃったことがありました。そのように音楽と向き合い考えているマエストロの姿勢をとても尊敬しています。今回のブラームスでも、マエストロが曲からイメージする人生観を教えていただけるのだろうと今から期待しております。そしてその要求に出来る限り応えていきたいと思っています」。



©上野隆文



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7月定期演奏会

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7月1日[木]19:00開演(18:15開場)
東京オペラシティ コンサートホール
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7月2日[金]19:00開演(18:15開場)
サントリーホール
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7月4日[日]15:00開演(14:15開場)
Bunkamura オーチャードホール

指揮:チョン・ミョンフン
(東京フィル 名誉音楽監督)

― ブラームス交響曲の全て ―

ブラームス/交響曲第1番
ブラームス/交響曲第2番



9月定期演奏会

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9月16日[木]19:00開演(18:15開場)
東京オペラシティ コンサートホール
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9月17日[金]19:00開演(18:15開場)
サントリーホール
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9月19日[日]15:00開演(14:15開場)
Bunkamura オーチャードホール

指揮:チョン・ミョンフン
(東京フィル 名誉音楽監督)

― ブラームス 交響曲の全て ―

ブラームス/交響曲第3番
ブラームス/交響曲第4番





主催:公益財団法人 東京フィルハーモニー交響楽団
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術創造活動活性化事業)| 独立行政法人日本芸術文化振興会
   公益財団法人 ローム ミュージック ファンデーション(7/2,9/17公演)
   公益財団法人 三菱UFJ信託芸術文化財団(7/2,9/17公演)
   公益財団法人 花王 芸術・科学財団(7/2,9/17公演)
協力:Bunkamura(7/4,9/19公演)

公演カレンダー

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