ホーム > インフォメーション > ヴィオラ首席奏者 須田祥子が語る チョン・ミョンフン指揮「ブラームス 交響曲の全て」

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2021年6月30日(水)


――ブラームスの交響曲の特徴について。


ヴィオラ首席奏者 須田祥子 Ⓒ上野隆文

 「ヴィオラパートを必要不可欠なパートとして書いてくれているところが、ブラームスの一番大きな特徴だと思います。もちろん、どの作曲家もヴィオラを必要なパートとして書いてはいますが、その次元が全然違います。主旋律ではないのに、実のある、非常にやりがいがあるパートとしてヴィオラを書いています。

 例えば、第1番第4楽章の終わりに、ヴィオラだけが刻んでいる特殊な瞬間があります。他のほとんどのパートが同じリズムの塊で動いている中、ヴィオラだけが16分音符で細かく刻んでいます【譜例1】。ヴィオラの使い方を分かっていると実感する場面です。ヴィオラが刻んでいなかったら、恐らくここは『普通』に聞こえてしまうのではないでしょうか。ここは皆でユニゾンだと当たり前のように思ってしまうものですが、意識して『普通』に聞こえないようにヴィオラに刻ませたのだと思います。
 弾いていてとても気持ちがいいのは第2番第1楽章、チェロとのハーモニーでメロディを演奏しているところです【譜例2】。ヴィオラの方が音が高い楽器なのに、チェロの方がヴィオラよりも高い音を弾いています。ブラームスは、この部分はチェロをヴィオラの音色で支えている方が美しいと考えたのでしょう。普通の作曲家ならそうはしないと思いますが、その響きの美しさにブラームスは気づいていたわけで、神がかり的な鋭さを感じる瞬間です。そしてなにより、ブラームスの《第二主題》は絶品。ことばで言い表せないほど美しいです。そんな極上の第二主題に寄り添えるのは至福の時間でもあります。
 また第2番は第4楽章のワクワク感もたまりません。第4楽章は他のブラームスのシンフォニーにはない若さがあります。第1番は非常に長い時間をかけて書いているけれど、第2番は”一瞬で”書き上げたので、第2番にはそういう深刻な『重さ』がないのかもしれません。ブラームスにはあまり爽やかな曲がないので、珍しい曲調だと思います」。

【譜例1】



【譜例2】





――ブラームスを演奏する時に意識をしているところ。


©上野隆文

 「ブラームス特有の『厚み』を作るための弾き方を意識しています。マエストロは『日本のオーケストラは縦線が揃いすぎている』とよくおっしゃっていたのですが、これは日本のオーケストラの長所でもあり短所でもあると思います。
『綺麗に縦線が合うと、厚みがなくなる』とマエストロはおっしゃっていて、縦線が合いすぎることの短所はブラームスのシンフォニーにおいて致命的となるのです。ですので、ブラームスを演奏するときは、マエストロの言葉を教訓として頭に残しながら、厳密に縦の線を揃えようとするのではなく、皆が自然とアンサンブルに入れるような空間を作ろうと意識して弾いています」。

――2009年2月定期演奏会で、マエストロチョン・ミョンフンがピアノを演奏したブラームス/ピアノ四重奏曲第1番のときの思い出について。


2009年2月定期演奏会 ブラームス/ピアノ四重奏曲第1番

 「ヴァイオリンはフランス放送フィルハーモニー管弦楽団の元コンサートマスターのスヴェトリン・ルセフ氏、チェロはサンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団の首席奏者ルイジ・ピオヴァーノ氏で、ヴィオラを私が担当しました。3名とも当時マエストロがポストを持つオーケストラで演奏していましたので、室内楽では誰が主導権を握るということは普段はありませんが、あの公演での主導権は完全にマエストロでした。マエストロの要求に皆で必死に食らいついていったのを覚えています。怖かったけれど、めちゃくちゃに楽しかった、忘れられない幸せな時間でした。

 またマエストロのピアノは特別で、ピアノからオーケストラの音がするのです。ここが決定的に他のピアニストと違うところだと思います。ピアノが上手な指揮者はたくさんいますが、ピアノの音のイメージの持ち方が根本的に違うのです。ピアノを弾いても、ピアノに収まらない音がする。それは指揮をしているときのマエストロからも感じます。オーケストラを振っていても、オーケストラに収まらないくらい音のイメージがあると感じます。だから、あのような多彩な音色を生み出せるのだと思います」。


――マエストロのもとでブラームスを演奏する期待感。


2001年、マエストロ・チョンが「音を掘り起こす」
という言葉とともに東京フィルに贈ったスコップ

©K.Miura

 「2001年にマエストロが東京フィルのスペシャル・アーティスティック・アドヴァイザーに就任した際、『一緒に深いところにある音を掘り起こそう』というメッセージを込めて、東京フィルに『スコップ』を贈ってくださいました。ブラームスは、そのような「深さ」を持っている”掘ってなんぼ”作曲家ですし、その意味でマエストロと通じるものを感じます。

 マエストロにとってブラームスは、楽譜の奥にあるものを読むのが楽しい作曲家なのだと思います。オペラのように言葉があるわけではないので、音に想像力のすべてをゆだねられます。その人の想像力次第で音楽が変わってきます。ブラームスは私生活でも苦境を味わった人で、その葛藤が曲に表れている。だからブラームスの音楽は心の奥に入って来るのだと思います。掘り起こすのには最高の作曲家ですよね」。


――ブラームス交響曲ツィクルスに向けて。

 「7月と9月定期演奏会はプログラムが決まった時からずっと楽しみにしていました。12年前のブラームス交響曲ツィクルスももちろん楽しかったのですが、マエストロはその時よりも絶対進化しています。
 やっぱり演奏は生で聴くのが一番で、人間の体は髪の毛一本まで響きの媒体です。自分の体も共鳴するということに、聴くという体験の醍醐味があります。それはコンサートホールでしか体験できないものです。お客様は時間と空間を買ってコンサートホールに足を運んでくださるわけなので、共有できる時間を最高に楽しんでいただけるように、お客様が『来てよかった』と思っていただける時間にしたいです」。


©上野隆文


【特集】

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7月定期演奏会

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7月1日[木]19:00開演(18:15開場)
東京オペラシティ コンサートホール
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7月2日[金]19:00開演(18:15開場)
サントリーホール
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7月4日[日]15:00開演(14:15開場)
Bunkamura オーチャードホール

指揮:チョン・ミョンフン
(東京フィル 名誉音楽監督)

― ブラームス交響曲の全て ―

ブラームス/交響曲第1番
ブラームス/交響曲第2番



9月定期演奏会

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9月16日[木]19:00開演(18:15開場)
東京オペラシティ コンサートホール
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9月17日[金]19:00開演(18:15開場)
サントリーホール
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9月19日[日]15:00開演(14:15開場)
Bunkamura オーチャードホール

指揮:チョン・ミョンフン
(東京フィル 名誉音楽監督)

― ブラームス 交響曲の全て ―

ブラームス/交響曲第3番
ブラームス/交響曲第4番





主催:公益財団法人 東京フィルハーモニー交響楽団
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術創造活動活性化事業)| 独立行政法人日本芸術文化振興会
   公益財団法人 ローム ミュージック ファンデーション(7/2,9/17公演)
   公益財団法人 三菱UFJ信託芸術文化財団(7/2,9/17公演)
   公益財団法人 花王 芸術・科学財団(7/2,9/17公演)
協力:Bunkamura(7/4,9/19公演)

公演カレンダー

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