ホーム > インフォメーション > 第2ヴァイオリン首席奏者 戸上眞里が語る チョン・ミョンフン指揮「ブラームス 交響曲の全て」

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2021年6月30日(水)


――ブラームスの交響曲全体と、7月定期で演奏する交響曲1番2番の中で魅力に感じる部分について。


第2ヴァイオリン首席奏者 戸上眞里 Ⓒ上野隆文

 「ブラームスの交響曲はどの旋律や内声も素晴らしく、『全てが魅力的です』と言いたいのですが、第1番と第4番にあるトロンボーンのコラールは特別に好きな場所です。トロンボーンのコラールでぱっと霧が晴れたように新しい世界が見えるのが好きです。7月定期演奏会で演奏する第1番と第2番では、第1番はまずは第1楽章冒頭のティンパニが聴きどころです。第1番全体の出来がティンパニの一発目で決まると思うほど、重要だと思います。20年をかけて第1番を作曲したブラームスの20年分の苦悩が、このティンパニ部分に現れている気がします。ぜひティンパニの一音目に神経を研ぎ澄まして聞いてほしいです。
第2楽章はとにかく美しいメロディが沢山でてきます。コンサートマスターのソロやオーボエやホルンの旋律がとても美しいです。苦悩に満ちた第1番のなかでこそ、第2楽章の美しすぎる旋律が映えてくるのかもしれません。そこに魅力を感じます。

 交響曲第2番は、生命力に満ちた第4楽章が好きです。ブラームスと言えば第1番のような重厚で暗くて重いイメージがあるかと思いますが、そのイメージを払拭させるような明るい和声感のある生き生きとした楽曲です。特に好きなのが第2番の第1楽章のM以降で、447~476小節まで続くホルンの旋律【譜例1】。そして477小節からは第1ヴァイオリンのふくよかな旋律の下で第2ヴァイオリンがシンコペーションでヴィオラと一緒に盛り上げます【譜例2】。この一連の流れが私にとってのスペシャルポイントです。第1番と同じく、第2番の第2楽章も大変美しく、冒頭のチェロの旋律をぜひお楽しみいただきたいと思います」。

【譜例1】




【譜例2】





――ブラームスの楽曲の特徴について。

「ブルックナーの交響曲でよく出てくるようなトレモロ(細かな刻み)が1箇所もないのもブラームスの特徴のひとつです。ブラームスはトレモロではなく音符をいくつ刻むかをはっきりと書いている『刻み』が登場します。トレモロでも拍感で曲を動かすことはできますが、『刻み』は、テンポが変わっていなくても、その刻む数の変化で前に進んだように聞こえさせることができるのです。同じテンポでも、刻みの数が4つから6つになると、テンポが変化しているように聞こえます。音楽を前に進ませたいときは刻みを4つから6つに増やしたり、緩むときは4連符から3連符に変わったりと、ブラームスはそういう『刻み』のチェンジが非常に上手くできています。ブラームスは内声の刻みを効果的に使用しているのです」。


――ブラームスの楽曲における第二ヴァイオリンの役割ややりがいについて。


 Ⓒ上野隆文

 「ブラームスでは、メロディラインは長く伸ばす音型が多いのですが、第二ヴァイオリンが受け持つ『内声』はしっかりした低めの音域で、“白い音符”(二分音符や全音符等の長く伸ばす音)はあまりなく、刻みや連符等がたくさん書かれています。
 例えば、第1番は終始3連符で曲を運びます。推進力を作るのも、“ちょっと待とう”と引き締めるのも、3連符の連続やシンコペーションで作ります。第2ヴァイオリンは常に、曲を運ぶという重要な役割を担っているのです。この3連符や刻みの『数』で曲を動かしていくというのは、重要ですが同時にとても難しく、奏者は動きのギアを常にニュートラルに入れながら演奏しなくてはいけません。第2ヴァイオリンだけで勝手に進んでもだめですし、拍に正確に数を入れていればよいわけでもない。低弦の音に乗せてもらいながら、マエストロが要求する音楽の動きや、旋律を弾いているパートが前に進みたいかどうかなど、さまざまなアンテナを張り続けなければいけません。それでいて消極的な姿勢でなく、中身はしっかりと。そこがブラームスの交響曲における第2ヴァイオリンの、難しいけれど非常にやりがいのあるところです。

 さらには、拍感だけではなく、音色や音程に関してもニュートラルでいなくてはならないと私は思っています。ユニゾンで第1ヴァイオリンの下の音域でメロディを弾くこともありますが、第1ヴァイオリンよりも、より太く、温かく、柔らかい音を出すようにしています。常に溶ける音色で、どのパートの音にもぶつからずに間を埋めるような音色で弾くことを心がけています。
この、『拍感も音色も音程も、すべてニュートラルにして演奏する』ということはマエストロから学んだといっても過言ではありません。『出来るだけやりましょう』ではなく、内声を演奏する奏者が完全にそうしなくてはならないことだと思うのです。ブラームスの楽曲を演奏している時は、難しいけれどもやりがいに溢れていて『あぁ私は本当に第2ヴァイオリン奏者で良かった!!』と幸せを感じます」。


――マエストロ チョン・ミョンフンとのブラームス演奏の思い出。


2018年10月定期演奏会 ブラームス/ヴァイオリン協奏曲 Ⓒ上野隆文

「マエストロのお姉さん、チョン・キョンファさんをソリストに迎えて、ヴァイオリン協奏曲を共演したことは忘れられない演奏会です。お互い尊敬し合われていて、信じ切られていて、物凄く迫力のある、そして心温まるコンサートで、リハーサルから本番の最終日までずっと夢のように幸せな時間でした」!




――マエストロとのリハーサルについて。

「マエストロとのリハーサルは、今ではもうそういうことはありませんが、昔は『はい100回やりましょう』というのが口癖でした。まずは音を作りやすいmfの音量でゆっくりロングトーンで練習し、mfで理想の音が出せるようになったらその後、fから段々ffまで音量を上げて同じように音作り、次はpからppでも出来るようにする。pで出来なかったらまたmfからやり直してというこの繰り返しで、長い時間をかけて音作りに徹していました。

 音を『掘る』ということと、薄くてキツい音は決して出してはならず、『あたたかい』『深い』『太い』音を作り込むということは、ベートーヴェンの交響曲でもマーラーでもマエストロから求められたことですが、特にブラームスで顕著でした。
どの交響曲のリハーサルでもまず1楽章に長い時間をかけて、音作りをしたこの訓練が、私のオーケストラ人生における宝となっています。本当に貴重な時間でした。この経験が、全ての楽曲を演奏する上で私の中で生きています」。


――ブラームスの交響曲をマエストロとツィクルスで演奏することへの意気込みや期待感。

「マエストロがインタビューで『第1番から第4番に向かって素晴らしい弧が描かれている』とおっしゃっていますが、まさにその通りだと私も思います。今回の7月定期演奏会は、第1番と第2番なので、その孤の半分までですが、ベートーヴェンが偉大すぎるために苦悩し、尊敬しすぎて20年もの年月をかけて書いた、ベートーヴェンの10番目の交響曲とまで言われている苦悩の第1番と、オーストリアの避暑地で4ヶ月という短期間で完成した雪解けとなるような第2番への流れ、次は第3番に向かいますというストーリーをお楽しみいただけたらと思います。
 2009年のマエストロとのブラームス交響曲ツィクルスは、勢いやパワーがあり非常に刺激的でしたが、近年のマエストロの自然に近い、大地のような奥深いちからと、締め付ける厳しさではなくて、緊張感の中でも信頼し合いながら演奏されるブラームスにぜひ期待していただきたいと思います」。


 ©上野隆文



【特集】

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7月定期演奏会

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7月1日[木]19:00開演(18:15開場)
東京オペラシティ コンサートホール
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7月2日[金]19:00開演(18:15開場)
サントリーホール
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7月4日[日]15:00開演(14:15開場)
Bunkamura オーチャードホール

指揮:チョン・ミョンフン
(東京フィル 名誉音楽監督)

― ブラームス交響曲の全て ―

ブラームス/交響曲第1番
ブラームス/交響曲第2番



9月定期演奏会

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9月16日[木]19:00開演(18:15開場)
東京オペラシティ コンサートホール
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9月17日[金]19:00開演(18:15開場)
サントリーホール
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9月19日[日]15:00開演(14:15開場)
Bunkamura オーチャードホール

指揮:チョン・ミョンフン
(東京フィル 名誉音楽監督)

― ブラームス 交響曲の全て ―

ブラームス/交響曲第3番
ブラームス/交響曲第4番





主催:公益財団法人 東京フィルハーモニー交響楽団
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術創造活動活性化事業)| 独立行政法人日本芸術文化振興会
   公益財団法人 ローム ミュージック ファンデーション(7/2,9/17公演)
   公益財団法人 三菱UFJ信託芸術文化財団(7/2,9/17公演)
   公益財団法人 花王 芸術・科学財団(7/2,9/17公演)
協力:Bunkamura(7/4,9/19公演)

公演カレンダー

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