ホーム > インフォメーション > 第2ヴァイオリン首席奏者 水鳥 路が語る チョン・ミョンフン指揮「ブラームス 交響曲の全て」

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2021年9月13日(月)



――ブラームス交響曲第3番を語る。


第2ヴァイオリン首席奏者 水鳥 路 Ⓒ上野隆文

 「スコアを見ていて、楽器の使い方が第3番と第4番とでは微妙に違うと思いました。例えば、ひとつの伴奏を形作るとき、第3番の場合ですと弦楽器と管楽器を組み合わせることが多いです。第1楽章36小節目のところは、メロディに対して低弦とフルートを加えて伴奏を作っています【譜例1】。そしてメロディを構成する楽器も、77小節目はチェロ、ヴィオラとファゴットがユニゾンで演奏しています【譜例2】。このように弦と管のセクションをまたいで両方の響きを使ってメロディや伴奏を作るというのが第3番では多く見受けられておもしろいです。
弦セクションだけで伴奏をするときも、第2楽章【E】80小節目はチェロからヴィオラ、第2ヴァイオリン、第1ヴァイオリンまでを使ってひとつの伴奏を担っています。第3番はオーケストレーションでの楽器の使い方が非常に興味深いです。
 第1楽章はF-dur(ヘ長調) なのに冒頭F(ファ)の次に突然A♭(ラ♭)が来ます。F-durなのに最初にそれがあって、聴いているお客様としては、どこへ行くのか分からない不安を感じると思うのです。第1楽章を通しても、音の動き方が跳躍したり急降下したり、まるで嵐の中に巻き込まれている感じで、調性の変化もどこの調性に落ち着くのかなかなか分からない動きがあって、それが第1楽章全体で感じられます。
 嵐のような第1楽章が終わって、第2楽章がC-dur(ハ長調)ですごくシンプルに始まるので、第2楽章が始まってやっと聴いている方も落ち着けるのではないでしょうか。第2楽章も転調が多々ありますが、核となるのはC-durとG-dur(ト長調)で、第1楽章とは全く違う落ち着いた転調です。第3番はどの楽章も静かに終わるので、それがブラームスの他の交響曲とは違う所で、魅力的ですね」。


【譜例1】


低弦とフルートが伴奏を担当しています。

【譜例2】


チェロ、ヴィオラ、ファゴットがメロディを担当しています



――ブラームス交響曲第4番を語る。

 「かたや第4番は先ほどの楽器の話からすると、第3番が弦と管をまたいで響きを作っていたのに対して、弦は弦、管は管とセクションで一丸となって演奏する場面がすごく多い気がします。例えば、第3番では弦楽器のピツィカート奏法はあまり使われていないのですが、第4番は第2楽章の頭24小節間くらい弦セクション全体で同じリズムでピツィカートをしています。第4番では、弦は弦、管は管でそれぞれセクション毎に響きを充実させることで生まれる全体のサウンドが魅力的だと感じます。
 また、第4番は第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンがユニゾンで動くことが第3番に比べてすごく多いのですよね。ですので、そういう意味では音程感に気を配っています。マエストロも音程のことは結構厳しくおっしゃるので、ユニゾンになったときの響かせ方に気を付けないといけません。マエストロは高弦ががなり立てるようなタイプの音を嫌がられて、すごく深い音を求めます。そういう時は第2ヴァイオリンの音が充実していないと第1ヴァイオリンの助けにならないと思うので、第2ヴァイオリン弾きとしては気をつけるポイントのひとつです」。



――ブラームスを演奏する上で気をつけていること。

 「交響曲に限らずブラームスの曲は、小節の頭がどこだか分からなくなることがあります。そこが魅力のひとつでもありますが、弾いている方からすると、冷静に考えていないと拍感を見失う難しいところです。いまは譜面を知っているので、拍がずれていると分かって聞こえますが、譜面を見たら思っていた拍感と全然違って、誤解していたということもあるので、譜面に立ち返って気をつけるようにしています。
 特に交響曲第3番では、第2ヴァイオリンは伴奏が多いです。チェロの旋律で有名な第3楽章は、ほとんど伴奏の断片をやっています。そういう場面では横の繋がりをすごく気をつけないといけないと思っています。どこから伴奏の破片が繋がってきているのか、違う楽器がいま何をしているのか、いま一緒に演奏しているパートはどこかということに常にアンテナを張りめぐらせていないといけません。
 また、ブラームスは転調がすごく多いです。転調の連続がフレーズや流れになると思うので、どこに向かっているのかという最終的な目的地を見定めながら弾くことを意識しています。そういう方向性を考えて弾かないと、流れのない漫然としたものになってしまうので、調性感を持ってその調のときにどういう音を弾くかという選択も含めて気をつけています」。



――9月定期演奏会への期待感。

 「2006年2月定期でマーラーの交響曲第9番をマエストロのもとで演奏した時、言葉で饒舌に説明されなくても、マエストロの指揮についていったら自然と音楽が完成されたのがすごく印象に残っています。弾くことも理解することも難しい複雑な曲だと思うのですが、やはりマエストロのなかでの解答があるのか、マエストロがその曲をすごく勉強していらっしゃるが故の作品理解の深さを感じました。
 マエストロの要求する音の作り込み方はすごく深いです。マエストロご自身も低くて良い声をしていらっしゃるので、豊かな音というものを日頃から求めているのだろうなと思います。えてして力任せな演奏になることがあるのですが、そういう音をマエストロは絶対求めないと思うので、響きをおろそかにせず、室内楽的な耳の使い方でブラームスに取り組みたいです。
マエストロはご自身『以前よりさらに勉強している』とおっしゃっています。私たちもマエストロがさらに高い要求をしたくなるような演奏で挑みたいです」。


©三浦興一



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7月定期演奏会

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7月1日[木]19:00開演(18:15開場)
東京オペラシティ コンサートホール
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7月2日[金]19:00開演(18:15開場)
サントリーホール
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7月4日[日]15:00開演(14:15開場)
Bunkamura オーチャードホール

指揮:チョン・ミョンフン
(東京フィル 名誉音楽監督)

― ブラームス交響曲の全て ―

ブラームス/交響曲第1番
ブラームス/交響曲第2番



9月定期演奏会

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9月16日[木]19:00開演(18:15開場)
東京オペラシティ コンサートホール
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9月17日[金]19:00開演(18:15開場)
サントリーホール
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9月19日[日]15:00開演(14:15開場)
Bunkamura オーチャードホール

指揮:チョン・ミョンフン
(東京フィル 名誉音楽監督)

― ブラームス 交響曲の全て ―

ブラームス/交響曲第3番
ブラームス/交響曲第4番





主催:公益財団法人 東京フィルハーモニー交響楽団
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術創造活動活性化事業)| 独立行政法人日本芸術文化振興会
   公益財団法人 ローム ミュージック ファンデーション(7/2,9/17公演)
   公益財団法人 三菱UFJ信託芸術文化財団(7/2,9/17公演)
   公益財団法人 花王 芸術・科学財団(7/2,9/17公演)
協力:Bunkamura(7/4,9/19公演)

公演カレンダー

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